騎士ですが正直任務は放棄したいです

中央都市編

10（ザグジー視点）

　
　獅子型のスカルが鋭い爪をザグジーに向かって降り下ろす。うまく避けたつもりが、避けきれていなかったようで、ザグジーの腕を裂く。

「う……」

「ザグジー！　敵の動きをよく見なさいよお！」

　どごっ、とザグジーの肩にバーバラの拳がめり込んだ。

「って！　ちゃんと見てるっすよ！　というか、本当に殴るのやめてほしいっす……！」

　二人の言い合いを鬱陶しそうにしていたスカルが、二人ともを一網打尽にしようと大きな口を開けて襲いかかってきた。

　バーバラは振り返り、可憐なステップで避ければ、「邪魔よおおおおお！」と大きく振りかぶって渾身の一撃をスカルの横顔に叩き込む。

「があああああああっ！」

　目が潰れたスカルなど二の次で、バーバラはザグジーの方を振り返った。

「アンタ、これは姉ちゃんの愛でしょうがっ！」

　鬼のような形相をしたバーバラに、すくみ上りそうになったザグジー。けれど負けじと言い返す。

　いつまで経っても姉貴に頭の上がらない弟ではいけない。

　人間という点では立場は同じ。

　それに、嫁さんもらったんだ。

　妻がここにいるわけではいし、見られているわけではないが、いつもいつも姉貴に怯えるばかりでは格好がつかない。

　俺だって意見は言うときは言う。

　ザグジーは声を振り絞る。

「……い、いらねえっすよ！　そんな痛い愛なんて！　小さい頃から姉貴に殴られっぱなしだったっすけど……。もう、こりごりなんすよ！　体中は痣だらけだし！　殴られて何度も骨折したんすよ！」

　それに、もう俺は、とザグジーが思いっきり吐き出した。

「姉貴に守られるほど小さい子どもじゃねえっす！　嫁さんももらったし、もう俺のことはほっといてくれっす！」

　想いの丈をぶつけたザグジーに対して、口をパクパクするバーバラ。

　明らかに動揺している。

　かなりショックを受けたようで、握った拳がぷるぷる震えていた。

「な、何言ってんのよおおおおお！　アンタは姉ちゃんがいないと何もできない子でしょうがあああああっ！」

「俺は……姉貴がいなくても、俺は一人でできるっすよ！　姉貴は成長した俺を見てないだけっすよ！」

　唇を噛んでまっすぐ見つめるザグジーに、バーバラは息を呑む。

　そして、たっぷり時間を費やして、必死に言葉を呑み込んだバーバラは、深くため息をついた。

「そ……うね。殴られるのは、痛いものね……」

　そう言って、バーバラはもう一度深いため息をついて、「弟離れできていないのは、アタシの方かしらね」そんなことを呟く。

「じゃあ、このスカルは任せるわよ。一人前の男なら、勝って当然だからねえ！　アタシは他のスカルを倒しに行くからね」

　少しだけ、寂しそうに微笑むバーバラ。

　姉を傷つけてしまったかもしれない、そんなことを思ったが、スカルによって思考を遮られた。

　片目を潰されたスカルが怒り狂って、襲ってきたのだ。

「……俺が、相手っすよ！」

　ザグジーは、ぐ、と拳を握った。