騎士ですが正直任務は放棄したいです

ななこ

文字の大きさ
上 下
31 / 201
汽車編

6

しおりを挟む

「リプ!」

「ジュリアナ!」

 精霊の名を呼び、ウィルソンとザグジーはそれぞれ武器を手に持つ。

「行くよー! 龍清螺旋ドラゴン・スパイラル!」

 ザン、と車体に剣を突き刺せば、ウィルソンの周りに水の竜巻が生み出される。

 何本もの水の竜巻は勢いよくスカルを狙う。まるで水龍がスカルを呑み込まんとするかのようだ。

 スカルは水柱から逃げるように円弧状に飛行。

 そのまま上空を逃げるのではなく、こちらに向かって急下降してきた。

「うおおおおお!?」

 ザグジーの頭部すれすれを突き抜ける。

 その風圧でザグジーが汽車から落とされてしまった。

「わああ! ザグさん!!」

「ザグさん!」

「剛・岩」

 吹っ飛んだザグジーは体勢を整えて地面に着地と同時に拳を叩きつけた。爆裂した地面から、粉砕された岩が無数に浮かぶ。

「飛・翔!!」

 浮いた岩がスカルに向かって飛んだ。

 猛烈な速さで飛んでゆく岩は肉眼では目で追うことができない程だ。

 ザグジーはその一つを掴んで、汽車の屋根に舞い戻ってきた。

「俺は大丈夫っす! それよりもスカルを!」

「ああ!」

 水柱はうねりながらスカルを追い、岩はスカルの行く手を阻んでゆく。

 スカルは旋回しながら避けて、誘導されるがままにサラの方へ方向を変えてきた。

「サラちゃん! 今だ!」

「ああ! 行くぞ!」

 サラは神経を集中させる。

 その時、歌が聞こえた。

 祈りを捧げる歌。

 そして精霊の力が増幅する歌だ。

 サラの剣と体が光り出す。

月光の刃ムーンライト・ブレイド!」

 最大限に溜め込んだ光を一気に剣から放った。

 煌めく一閃がスカルを真っ二つに両断。

 スカルが傷を回復しようと汽車へ接近するも、回復は追いつかず。

 断末魔を上げながら、ほろほろと光の粒となって消えていった。

「……やったな」

「初めての共同作業成功じゃない!?」

「やったっすね! まあ、こんなもんっすよ!」

「確かに今回のチームワークはよかった。でも、この戦闘において一番大切なのは私たちのチームワークではなかった気がする」

「ん? どういうこと?」

 サラの言葉にウィルソンとザグジーが首を捻った。



「みなさん、スカルは無事に討伐しましたので、安心して席に戻ってくださーい」

 ウィルソンの指示で安堵の表情を浮かべた乗客たちが、一斉に席へ戻っていく。

 サラは頬が上気しているジャクリーンの方へ歩いてゆく。

 彼女の表情が先ほどとは打って変わっていた。

「歌、最高だった。ありがとう」

「え!? 聞こえていたんですか!?」

「ああ、少しだけだが……。それに、あんたが歌ってくれたおかげで、ここにいた乗客の気持ちを動かした。それが歌になって私たちの力になった。そのおかげでスカルを討伐することができたからな。感謝する」

「そ、そんな……! 皆さんの恐怖心を少しでもなくせたらいいなと思って歌っていただけです。それに、ここにいたみんなが歌い始めた時は本当に驚きました」

「でも、それがあんたの力だぞ」

「ありがとうございます……! あの、私」

「どうしたんだ?」

 ジャクリーンは深呼吸すると、決心した表情でサラに告げる。

「中央都市にある大きな事務所でオーディションがあるんですけど、私、それを受けてみようと思います。本当は前からそのオーディションがあるって知ってたんですけど、自信もなかったし、受ける勇気が出なくて……」

 ジャクリーンは「でも」と続ける。

「私、今日思いっきり歌を歌って気づいたんです。自分の声で、歌で、みんなを元気にしたい。母を元気にしたいって。父にも、それを認めてほしいんです」

「そうか。頑張れよ」

「はい。やっぱり挑戦してみないことには、わかりませんから! 頑張ります。ありがとうございます!」

 にっこりと笑うジャクリーンに、もう迷いはない。

 確かに不安はあるのかもしれない。

 でも、彼女は勇気と希望を胸に、前へ進んでいくだろう。

 自分のなりたい姿へ向かって。

 彼女の姿を眩しそうに見つめたサラは、小さく笑う。

 私もここで立ち止まっていてはいけない。

 前へ進まなければ。

 姉さんを取りもどすために――。

 すると丁度タイミングよく中央都市の駅に着く。

 汽車から降りれば、ホームは人でごった返していた。

 近代的な建物でこの世界で最も大きな駅だが、人が多すぎて狭く感じる。

 行きかう人々を縫うようにして、サラたちは駅から出た。

「では、私は事務所に行ってみます」

「ああ、頑張れよ」とサラははにかみ。

「頑張ってね」とウィルソンは肩を叩く。

「応援してるっす」とザグジーが大きく頷いた。

「はい、頑張ります。本当にありがとうございました」と礼を言ってジャクリーンは歩いてゆく。

 彼女は振り返ることもなく、意気揚々とした足取りで前へ進んでいった。

「よし、私も行くか……」

 サラも目的の場所へ行こうとするが――。

「あ、ちょっとそこを退いてくださあああああい!」

「は?」

 ひゅん、と足元を何かが通り抜けたかと思えば、横から猛スピードで駆けて来た少女に、サラは思いっきり突き飛ばされてしまった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。

ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」 夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。 元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。 "カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない" 「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」 白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます! ☆恋愛→ファンタジーに変更しました

ゴブリンに棍棒で頭を殴られた蛇モンスターは前世の記憶を取り戻す。すぐ死ぬのも癪なので頑張ってたら何か大変な事になったっぽい

竹井ゴールド
ファンタジー
ゴブリンに攻撃された哀れな蛇モンスターのこのオレは、ダメージのショックで蛇生辰巳だった時の前世の記憶を取り戻す。 あれ、オレ、いつ死んだんだ? 別にトラックにひかれてないんだけど? 普通に眠っただけだよな? ってか、モンスターに転生って? それも蛇って。 オレ、前世で何にも悪い事してないでしょ。 そもそも高校生だったんだから。 断固やり直しを要求するっ! モンスターに転生するにしても、せめて悪魔とか魔神といった人型にしてくれよな〜。 蛇って。 あ〜あ、テンションがダダ下がりなんだけど〜。 ってか、さっきからこのゴブリン、攻撃しやがって。 オレは何もしてないだろうが。 とりあえずおまえは倒すぞ。 ってな感じで、すぐに死ぬのも癪だから頑張ったら、どんどん大変な事になっていき・・・

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

勇者召喚おまけ付き ~チートはメガネで私がおまけ~

渡琉兎
ファンタジー
大和明日香(やまとあすか)は日本で働く、ごく普通の会社員だ。 しかし、入ったコンビニの駐車場で突如として光に包まれると、気づけば異世界の城の大広間に立っていた。 勇者召喚で召喚したのだと、マグノリア王国の第一王子であるアルディアン・マグノリアは四人の召喚者を大歓迎。 ところが、召喚されたのは全部で五人。 明日香以外の四人は駐車場でたむろしていた顔見知りなので、巻き込まれたのが自分であると理解した明日香は憤りを覚えてしまう。 元の世界に戻れないと聞かされて落ち込んでしまうが、すぐにこちらで生きていくために動き出す。 その中で気づかなかったチート能力に気づき、明日香は異世界で新たな生活を手に入れることになる。 一方で勇者と認定された四人は我がままし放題の生活を手にして……。 ※アルファポリス、カクヨム、なろうで投稿しています。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...