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守護精編
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しおりを挟む王都――ルクセントに辿り着いたサラとブルーノは、白い塗り壁の家々が壁のように聳え立つ路地裏を抜けてゆく。
するとブルーノが突然立ち止まった。
今まで建物が目の前にあっても立ち止まらなかった、あの暴れ馬が。
「おい、どうしたんだ?」
「……何かが、近づいてきているような気がするのです」
ゆっくりと空を見上げるブルーノ。
サラも同じ方向を見上げてみたが、その空には何も無い。
ただ青空が広がっているだけ。
「何が近づいてきているんだ?」
「いや、それが私にもわからないのです。何か、不快な……」
不意に後ろを振り向くブルーノに、サラは嫌な予感がした。
今立ち止まっているのは聖域の手前にある階段。
聖域の方向からの闇の気配は無いため、今現在は心配ないだろう。
けれど、もしかしたら闇の使者が近づいてきているのかもしれない。
その場へブルーノを近づけるのは危険だ。
「ここまででいい。あとは一人で大丈夫だ」
「ですが……」
「階段はさすがに上れないだろ?」
「……」
ブルーノは少しだけ申し訳なさそうにこくりと頷く。
「ここまでありがとう。父さんによろしく伝えておいてくれ」
「はい。わかりました。私の上で相当暴れておりました、とお伝えしておきます。では、お気をつけて」
「おい。私に恨みでもあるのか」
「まさかまさか。私の毛をむしろうとしたからって、そんな心の狭いことしませんよ。冗談に決まっているでしょう」
「むしろうとしたわけじゃない。掴んでいただけだろ」
「だから冗談だって言っているでしょう。ほら、早く行って下さい」
ブルーノはピシッと姿勢を正し、鬣を風にファサァ、となびかせた。
こいつ、本当に何なんだ。
サラはため息をつきながら背を向ける。
まあいい、ちんたらしている暇は無い。とにかく聖域に辿り着かねば。
そう思い、階段を駆け上がる。
ブルーノはその後ろ姿を心配そうに眺めていた。
階段を駆け上がり、サラは聖域に辿り着いた。
そこは以前来たときと何も変わっていなかった。
まるで硝子でできたかのような透明感のある花たちが出迎えてくれる。
天井の無い建物の内部には太陽の日差しが直接降り注ぎ、花がその光を眩しいくらい乱反射していた。
地面からは一段高くなっている平らな場所で、彼はそこで寝ていた。
「クロウ」
呼びかけられて目を覚ましたクロウは、訪問者に驚くこともなくゆっくりと体を起こす。
気だるげに前髪を掻き揚げた。
「何だい……?」
「ここは何も変わりないか?」
「何も。ゆっくりと時間が流れているよ。ところで、君はお父さんに会えたかな?」
「会えたよ。クロウに言われなかったら父は死んだと思ったままで、もしかしたら会えなかったかもしれない。礼を言うよ」
「いいんだ。まあ、たまには会いに行きなよ」
「ああ」
「用事はそれだけかな。僕はもう少し寝るよ」
クロウはのんびりとあくびをして、再び平らな場所で横になる。
もしかしてそこはベッドなのだろうか。
石でできているそれは、冷たくて硬そうだが。
しかし、天から太陽が降り注ぐこの場所は、どこで寝ても暖かいのかもしれない。
そんなことをふと思ったが、早くも寝息を立て始めているクロウに「ちょっと待て」と体を揺らす。
「精霊の進化の件で了承を得に来たんだ。起きてくれ」
「ああ……それは……むにゃぁ……」
抗えない睡魔に抗おうとせずに、クロウは眠りに落ちる。
すると体が消えてゆくように色素が薄くなってゆくではないか。
一体どういうことだ? 眠ると消えるのか? いや、先ほども眠っていたではないか。
「おい。寝るな!! 起きろ!! 消えるな!! おい!!」
答えてから寝ろよおおおおおお!!
「ねえ」
背後から誰かに呼ばれているような気がするが、クロウを起こすのが先だ。
サラは必死に揺らすが、クロウは起きない。
なぜだ、なぜこれほどまで揺らしているのに起きないんだ。
そうこうしている間にクロウの姿が完全に消えてしまった。
「嘘だろ。おい……」
「ねえ」
「何だ」
声の方を振り向けば、そこには小さな少女が一人立っていた。
「……誰だ? ここに、何のようだ?」
「私、クラビス。ねえ、かくれんぼう、しよ」
聖域に来てかくれんぼうをする子どもがいるのか? と疑問に思ったが、その少女が異様な雰囲気を纏っていることに気がついた。
「闇の使者か……!? って、うわ!」
剣を構えようとしたが、いきなり体全体を真っ黒な煙に包まれ、サラは咄嗟に目をつむる。
そしてその煙は瞬く間に聖域全体を覆ってゆく。
少女は自身も煙に包まれながら、不気味に笑った。
「一緒に遊ぼ」
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