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守護精編
40(グリゼルダ視点)
しおりを挟む力は誰にも奪われない唯一の武器で。
約束は誰も奪うことのできない家族の絆だった。
だが。
それが哀しい運命を引き寄せてしまうとは。
私には想像すらできなかった。
✯✯✯
のどかな昼下がり。
孤児院の庭には子どもたちの声がにぎやかに響いた。
「グリゼルダ、覚悟!」
真正面から少年が木の棒を振り下ろす。けれど少女は軽やかに弾いて少年の胴を容赦なく木の棒で打った。
「うっ」
激打された少年は背後によろめき、打たれた横腹を庇うようにうずくまった。
さらに、少女の背後から一本取ろうと襲い掛かった別の少年は。
「やあっ!!」
「あいた!?」
足元を払われ転ばされ、木の棒で頭を強打された。
「痛てててて……。グリゼルダさあ……ちょっとは手加減しろよな!」
「甘い!! それじゃあ騎士にはなれないぞ!」
頭をさすっている少年――ハイゼルはしばし考えて小さくため息をついた。
「……そうだな。ま、この中で騎士になる一番乗りはグリゼルダだろうけど、俺だって負けないぜ?」
「私も全力で騎士になる。負けない」
「じゃあ、この三人の中で誰が先に騎士になるか競争な!」
腹を抱えていた少年――バンクスが立ち上がり、おもむろに手を掲げた。
「いいぞ。勝負だ」
ハイゼルはゆっくりと立ち上がる。
「うん。みんなで騎士になろう」
「みんなでって……それじゃ競争にはならないだろ?」
「あはは。そうだな。……でも俺は誰が先に騎士になるかを競争するよりも、三人で一緒に騎士になりたい」
ハイゼルはそう言って小さく微笑む。
それを見て、「まあ、それも悪くない」とグリゼルダは頷き、バンクスは「仕方ねえなあ」と頭を掻いた。
「一番ハイゼルが騎士になるの遅いかもしれないからな! ここはみんなで仲良く騎士を目指すのもいいかもな!」
「はあ? なんだよ、それ」
三人はあははは、と笑い合う。
グリゼルダは物心ついた頃から孤児院にいた。それよりも前のことは全く覚えていない。
年齢の近い少年二人と仲がよく、いつも一緒にいて、そしていつも木の棒で訓練と称して戦闘ごっこをしていた。彼らには男や女は関係なかった。
気づけば棒を持って戦っていた。
そして彼らの夢は騎士になること。それを目指して切磋琢磨していたのだ。
けれど、ハイゼルもバンクスもグリゼルダには一度も勝ったことがない。
グリゼルダを背後から狙っても、攻撃は必ずといっていいほどかわされてしまう。頭の後ろに目がついているのではないかと思うほどだ。
彼女は生まれながらにして感覚が鋭く、周りの気配を感じるのが得意だった。
それもあり孤児院の中で一番腕っぷしが強くなった。
「グリゼルダちゃんすごい! かっこいい!!」
「後で私にも教えて!!」
「いいよ」
「あんた達男なのに弱いわね!!」
「うるせえ!」
少女たちが駆け寄ってきて賞賛を称える。
突如として現れた彼女たちは、グリゼルダたちの攻防を木の陰からずっと見ていたのだろう。
孤児院では楽しみが少なく、グリゼルダとハイゼルとバンクスの攻防を観戦することを楽しみにしている子どもたちもいた。
するとグリゼルダよりも小柄な少女が何かをグリゼルダに差し出す。
「お花の冠を作ったの。これ、グリゼルダちゃんにあげるね」
「ありがとう。大切にするよ」
「うん」
シロツメクサで編んだ花の冠はグリゼルダの頭にぴったりだった。
「ほらみんな、お昼ご飯よ。入ってらっしゃい」
「はーい、シスター」
一人で孤児院を切り盛りしているシスターは優しく逞しい。
そんなシスターに大切に育てられたおかげで、グリゼルダはのびのびと育った。グリゼルダだけじゃない、他の子どもたちも同様だ。
孤児院にいるシスターや子どもたちは、グリゼルダにとって家族同然だった。特にハイゼルやバンクスは兄妹のように一緒に育った。
「ねえ、シスター」
「なあに、グリゼルダ」
「騎士の話を聞きたい」
「そうね。じゃあ、食事が終わったらにしましょ」
グリゼルダはシスターが過去に騎士に助けられたということを以前聞いていた。
グリゼルダはその当時の話を聞くのが好きで、その話をしてほしいとよくせがんでいた。けれどシスターは嫌な顔一つせず、何度も何度も同じ話を繰り返ししてくれた。
シスターの話す騎士の話はグリゼルダにとってはどんな絵本よりもとても魅力的だったのだ。
騎士は人を救い、その人に未来を与える。
自分はただ腕っぷしが強いだけで、花の冠を作ってくれた少女のように、何かを作って誰かにあげたりなどできない。
だから、人を守り、誰かに何かを与えられるような、立派な騎士になりたいと思っていたのだ。
そしてグリゼルダは日々、幸せな毎日を送っていた。
けれどある日、悲劇は突然にやってきた。
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