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守護精編
22(ヨハン視点あり)
しおりを挟む汽車に乗り、サラは西都市へやってきた。
水と共に生きている西都市は、水路が都市全体に張り巡らされている。
何本もの巨大水路が、建物の横や上を走り、せせらぎの音と生活音が共存していた。
そして西都市の各地には芸術的な建物や広場、モニュメントなどが配置されているらしく、特にプレリトリコは最も芸術的な都として、名を馳せているらしかった。
通りで芸術的過ぎる奇妙な建物があちこちに見える。
サラは聖域を目指し、街外れへ向かった。
西都市の聖域はプレリトリコの街外れの水上に浮かぶように存在している城だ。
それは街と一体となったかのような概観であり、そして芸術を象徴するかのような城だった。
サラは城を見上げて、しばらくして視線を下ろした。
「今度はどんな要求をされるんだ……。また中央都市みたく変な要求されるのか?……まあ、どんな要求でも呑むしかないけどな」
「そうだな。でもそんなにも無茶な要求はしてこないだろう」
「まあ、そうだな」
サラが扉を開けて城の中へ入れば、目に飛び込んできたのは数多くの絵画。
キャンパスが所狭しと無秩序に並べられている。
まるでどこにも行き場のない絵がこの場に留まっているようだ。
「ここの守護精は絵を描くのか?」
サラがじっと絵画を眺めていれば、どれも風景画ばかりだった。
絵のタッチが似ており、すべて同一人物が描いたようだ。
しかも西都市の風景画だけではなく、ここに留まっている守護精では見られないような他の都市の風景画もあった。
そのため一概に守護精が描いたというわけではないのかもしれない。
では、一体誰が?
そんなことを考えながら眺めていれば、周りの景色が油絵で描いたかのように抽象的でぼやけていることに気がついた。
「ん? なんだ、これ?」
場所は西都市の聖域で変わってはいない。
でも、周りの風景のこのぼんやりとした感じをどこかで見たことがあるような気がしたのだ。
絵など普段見ることがないし、先ほど見たから鮮烈に覚えているのかもしれない。
そう、この景色は先ほどの絵画のタッチに似ているのだ。
だからだろうか、見える世界に物凄く違和感があるのは。
一体どういうことだ?
サラが一旦城から出ようと扉を開けるが、開かない。
剣で壊そうと試みたが、頑丈すぎて壊れない。背後を振り返り、視線をくまなく彷徨わせる。
ああ、そうか。
自分が立っている場所、この世界の、ぬぐえない違和感の正体を突き止めた。
「もしかして……絵の中に閉じ込められている?」
✯✯✯
「時間は止まっているほうがいい」
手を動かす。
キャンパスの上に色彩豊かに風景が広がる。
イメージどおりに手が動くことがこんなにも素晴らしいことなんて。
でもそれは、ずっと前から知っていた。
でも、それは一度失ったもの。もう二度と失いたくない。
私は手を動かす。
「へえ。ここで描いてたんだ。そりゃわかんないわよね」
突然声がしてピタリと手を止める。
視界から外れるように、わざわざ玄関ホールにある地上から数メートル上の出窓に腰掛けて絵を描いていたのに。
「ここなら誰にも気づかれないように来た人を描いて閉じ込められるものね。見ててわかったけど、その人を描かないと絵に閉じ込められないんでしょう?」
にこっと可愛らしく笑う騎士。
隣の出窓に立っている。
いつの間にそこにいたのだ。
どうして気がつかなかった?
「図星?」
「……誰?」
「私? 私はブリジット。あなたは? スカル? それとも闇の使者?」
「私は……わからない」
「どうして?」
「彼は闇の使者の権利を与えると言った。でもスカルでもいいと言った。私にはよくわからない。絵が、描ければいいから」
「ふーん。で、あなたは何人人を殺したの?」
「誰も殺してない」
「ふーん……」
私がキャンパスへ視線を動かした途端、バスン、とナイフが突き刺さって地上へ落ちて行った。
「無駄無駄。筆が動いているかいないか分からないように、少しずつでも私を描いて絵に閉じ込めようとしても無駄に決まってるじゃん。確かに私はかわいいから、描きたくなる気持ちもわかるわ。でも、そこで描いているんじゃなくて、私と戦いましょう? 名無しさん」
私は破れて、そして地面に落とされたキャンパスを呆然と眺めた。
「……名無しではないわ。私はヨハン。私の絵を描く邪魔をしないで」
大人しそうな雰囲気が一変して、急にまがまがしい気配が放たれた。
体がうずうずしているブリジットは剣を構えて不適に笑う。
「そうこなくっちゃね」
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