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守護精編
18(ジャイルズ視点)
しおりを挟む兄はいつも不機嫌だった。
恐らく兄は俺のことをずっと嫌っていた。
実際にそうだったんだと思う。
だからか、徐々に距離を置くようになった。
そして兄が突然家を出て帰ってこなくなって、俺は兄と全く会わなくなった。
どこかで元気にやっているのだろうと思っていた、のに。
✯✯✯
「兄さん……スカルになったのか」
過去見ていた兄の冷たい瞳。
その瞳は相変わらずで、じっとこちらを見据える。
人間だった頃の面影はスカルになっていても残されているが、頬はこけて体は少しずつ歪んでいる。
気配はかなりまがまがしい。
奇妙な感覚だった。
目の前にいるのは兄であるが、スカルだ。
悲しみが自分の中で膨らむのかと思ったが、自分の感情はさほど大きく揺れなかった。
そのことに多少の驚きを覚える。
生前あまり親しくなかったからか、それともスカルとしてしか認識できていないのか。
滅多に笑うことのない兄が小さく笑った。
「この姿は気分がいいよ。邪魔なものを排除できるからな」
兄――エイベルが歪んだ剣を構えた、と思ったら目の前から姿が消えた。
「!?」
一瞬の気配を感じて体が咄嗟に動く。
ガキイイン、と衝撃音が耳を劈いた。
ジャイルズは自身の剣で防いでいたが、エイベルの刃が頬に当たっている。
つう、と血が滴り落ちた。
物凄い力だ。
刃から殺気が尋常なく放たれている。
気を抜けば殺されるだろう。
だが、そんなへまはしない。
ジャイルズは押し返して、エイベルに叩き弾かれるのを見越して袈裟懸けに斬り下ろす。
予想通り叩き弾かれた反動で剣を反対の手に持ち替えて胴へ横薙ぎにする。
空中で操っているのかというぐらい滑らかに剣が移動してエイベルのわき腹へ滑り込むが、エイベルはジャイルズの剣を埃を払うかのごとく弾いた。
そしてエイベルは続けざまに刺突を繰り出す。
その刺突、まさに一瞬。
ジャイルズの鳩尾みぞおちに深く突き刺さった、かと思われたが、ジャイルズがぎりぎりで反応して軌道をずらしていた。
急所はズレたが、エイベルの剣はジャイルズのわき腹の肉を裂き、体を貫いている。
「ぐ……」
剣が勢いよく引き抜かれ、容赦なく振り下ろされた。
ジャイルズは体を捻り攻撃を避けたつもりだったが、風圧で団服が破れた。
続けて二閃三閃と追撃を打ち込まれ、ジャイルズはアクロバティックに避けつつ、弾き返すごとにひらりひらりと左右の手に剣を持ち替え迎撃する。
無表情で雷撃のごとく切り込んでくるエイベルの猛攻を、ジャイルズは冷静に見ていた。
なるほど。
右手に剣を所持しているエイベルはジャイルズの左手からの攻撃は防ぎにくそうだ。
ジャイルズは剣を左手に持ち替える。
今だ。
エイベルが振り降ろしてきた剣先をジャイルズは弾かず、自身の刃をエイベルの刃に当てて滑らせた。
自分自身の体はエイベルの刃と並行になり剣先をよけつつ、思いっきり剣を振り抜いた。
勢いのついた剣はエイベルの胸を裂く、はずだった。
「消えた!?」
目の前にいたエイベルが消えたのだ。
「目に見えるものが常に正しいとは限らない」
背を焼くほどの殺気に反応したジャイルズが振り向きざまに剣を振るった。
するとエイベルは確かに背後にいたのに、剣が空を切る。
ふと見ればエイベルはジャイルズからやや距離を取って佇んでいた。
薄く笑って。
「だが、現実とは目に見えるものでしか物事をはかれない。……そろそろか」
一体何を言っているんだ、とジャイルズが剣を構えなおせば。
突然、胃からせり上がってきたものを吐き出した。
「ごほっ」
床に真っ赤な血が広がる。
どうやら俺は口から血を吐いたようだ。
なぜ、急に?
しかも先ほどよりも息が上がる。
エイベルとの攻防は息が上がるほどの運動量ではなかったはずだ。
それに大して攻撃は食らっていないはずだ。
「……何をした?」
「毒だよ」
エイベルは飄々とそう答える。
「この剣からは絶えず毒が生成される。切り傷からでも吸収されるが、この剣は一回お前の体を貫通した。そのときにしっかり体内に入り込んだんだ」
すると目の前にエイベルの顔が接近していた。
反応できなかった。
毒のせいだろうか。体が痺れる。
「残念だったな。もうじきお前は死ぬ」
鳩尾に衝撃が来て、ジャイルズの体は吹っ飛んだ。
壁に激突し、その衝撃で壁がひび割れた。
その瞬間、一瞬だけ意識が遠のいた。
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