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王都編

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 ゴウ、と火炎が辺りを焼く。

 照らされたように暗闇が明るくなり、ドラゴンの輪郭がはっきりと浮かび上がる。

「大きなドラゴンだねえ」

「シリウス、何を感心しているんですか」

 ほほう、と上を見上げているシリウスに、イグニードが吹き荒れる炎から距離を取りつつ体勢を整えた。

「いやあ、こんなにも大きなドラゴンを真近で見ることなんてそうないからさあ」

「……あなたの精霊もかなり大きなドラゴンでしょう。一体何を言っているんですか」

「あははは、まあ、そうなんだけどね」

 穏やかに談笑しているシリウスに向かってドラゴンの口から業火が吐き出された。

「みーんな、みーんな、死んじゃえー!」

「おっと……!」

 ドラゴンの業火は一瞬にして辺りに広がる。

 それを避けきれなかった騎士たちが重度の火傷を負った。

 痛々しい姿の騎士たちに、サラは眉間に皴を寄せる。

「……あのドラゴンをどうにかしないとな」

「そうだね。祈祷師も助けないといけないけど。そもそもドラゴンから倒さないとあの檻に近づけないしね」

 ドラゴンが檻の上で「がああああ」と唸る。

轟く大光の翼 ロアライト・ウィング

 稲妻のような斬撃が三閃、爆風を伴い地面を抉りながらドラゴンに向かって迸ほとばしる。

 瞬時に飛び立ったドラゴンが回転しながら避けようとするが、幅の広い斬撃を避けることは難しいようで、左翼が半分ほど斬りおとされた。

 地面には巨大な生き物が通った後のような痕跡が残り、斬撃の奔った軌跡からは光が散った。

 だがグライデンの攻撃は檻に当たらなかったようで、硬い檻は健在だった。

「大胆だなあ」とシリウスが笑う。

「全くですね」とイグニードも首肯する。

「何を呆けているのだ! 戦え!」

 グライデンの一喝でグライデンの攻撃に圧倒されていた騎士が動き出した。

 それぞれの武器を手にドラゴンへ果敢に攻めるも、鋭い爪や炎で返り討ちにされてしまう。

 それを見たシリウスはドラゴンの死角から天高く跳躍し、背へ光の如く刃を煌めかせた。

 けれどドラゴンが体中から悲鳴を上げるような音波を放ち、シリウスは弾かれてしまう。

 サラは音波をくぐり避けてドラゴンの腹へ滑り込んで剣を振り抜く――がしかし、タイミングよく飛び立ちドラゴンはサラに向かって火炎を吹かれてしまった。

 ギリギリでアクロバットに避けたが、少しばかりサラの髪がチリッと焼けた。

「……チッ」

 すると横からルドルフが「僕のマリアへの愛を見せつけてやる……!」と目に怒りを宿し飛び出してきた。

薔薇の愛と接吻ローザンラブ・アンド・キッス……!」

 彼のレイピアに真っ赤な唇のような色をした薔薇が咲き乱れたかと思ったら、それが一気に飛び散った。

 まるでルドルフ自身を美しく魅せるかのようにルドルフの周りを華やかに彩っている。

 だがそれだけだった。

 ルドルフは尾へ向かって薔薇の花を飛び散らせながら突進してゆくが、ブン、と重量のある強烈な尾で叩かれたルドルフはあえなく弾き飛ばされてしまった。

「何なんだ、あの攻撃は。……意味がないな」とぼそりとサラが呟いたのを聞き逃さなかったイグニードが「同感です」と眼鏡をクイッと押し上げた。

 檻の上に再び舞い降りたドラゴンは再び業火を吹き散らせようと、すうと深く息を吸い込んだ。

狂氷の城郭 マッドアイス・キャッスル 

 シャラン、と涼し気な音が鳴った。

 すると瞬く間にドラゴンを取り囲むように氷の城が縁取られてゆき、灼熱の空間に凍てつく氷城が出現。

 ドラゴンを氷城に閉じ込め、さらには城の内部に鋭い氷の刃が形作られていたが、硬い鱗に守られているドラゴンには効果が無いようだ。

 すると息を吸い込んだドラゴンが一気に吐き出した。

 丸焼きにするのではないかというほどドラゴン自身を包んだ猛火は、一瞬にして氷を溶かしてしまった。

 ひんやりと肌を撫でる風が、少しだけ熱を帯びた。

「うーん……やっぱり僕の攻撃は不利だね。それに厄介なのは火を吹くことだね。これじゃ近づけないし、攻撃も当たらない……」

 困ったように笑うシリウスは頭を掻くが、氷の城から開放されたドラゴンはごう、と間髪入れずに火を噴いた。

「ちょこまかちょこまか邪魔あああ!」

 そう咆哮を上げれば、再び地面に張っていた根からクローンが生み出され、サラたちに向かって剣が振り下ろされた。

 サラはクローンからの攻撃を剣で弾くが、クローンに集中しているところへ火炎が降り注がれる。 
 
 サラはドラゴンやクローンからの攻撃を躱しつつ、一閃、二閃と攻撃を打ち込むが、ドラゴンとクローン双方に避けられたり、弾かれたりされてしまう。

 サラは舌打ちした。

「……これではそれぞれの攻撃が分散して意味がない。私たちがドラゴンかクローンか、狙いを定めた方が敵の注意を惹けれるから戦いやすい」

 グライデンの斬撃が頭上を飛び、ドラゴンの喉を掻っ切ろうと瞬いたが、ぎりぎりのところで避けられてしまった。

 それを目視したイグニードが唸る。

「確かにそうですね。空からの攻撃は全体を見渡せるため、私たちの動きを把握しやすいから攻撃もしやすい。ドラゴンをどうにかしないとクローンも生み出されるみたいですし。ドラゴンだけに集中してもそれをクローンが邪魔するので……ここは二手に分かれましょう」

「じゃあ、僕とイグニード、その他王族騎士でクローンを対処しつつ姫を救う。僕の攻撃はあんまりきかないみたいだから、君と王でドラゴンを頼んだよ。クローンを何とかできて姫を救えたら僕らもドラゴンを狙う。それまでドラゴンを頼んだよ」

 にこりと笑うシリウスにサラは頷く。

「わかった」

 するとサラに向かって煌めいた刃をイグニードが横から槍で叩き落とした。

「あなた方の相手は私です」

 そう言いつつ、クローンの前に立ちふさがる。

「……どうも。じゃあクローンを頼んだ」

 サラが礼を言い、彼らに背を向けようとすると。

「ドラゴンを頼みましたよ」

 そうイグニードが不機嫌そうに呟くのが聞こえた。

「言われるまでもない」

 サラは天を舞うドラゴンへ意識を向けて駆けだした。
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