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王都編

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「じゃあな」

 サラは何も聞かなかったことにして、どこか別の場所で隠れようと思い、そそくさと部屋を出ようとする。

「ちょっと待つのじゃ! 何じゃお主! 驚かんかい! こら! 無視か! こら!」

 激しく地団駄を踏み始めたウィンテールに、サラは嫌な顔を向ける。

「……神となんて関わりたくはない」

「何じゃと!?」

「というか、本当に神なのか? なんだ、その子供みたいな態度は」

「何じゃと!? 我は神と言ったら神なのじゃ! 信じるも信じないもお主次第じゃがの! というか、我はお主の光の力を復活させたじゃろう!? っておい! どこへ行こうとしておるのじゃ!」

 部屋から出ようとしたが、気づかれてしまった。

「……チッ」

「舌打ちしよったな!? というかこの部屋からは出られんぞ! 残念じゃったな! あっはっはっはっは!」

「……」

 サラはふと扉を見たが確かにドアノブもないし、カギが掛かっており外へは出られない。

 何なんだ、この部屋は。入る部屋を間違えた。くそ。

「我のお相手をするためにここにおるのじゃろう!?」

 絶望的な気持ちになったサラは意気揚々とサラの肩を叩くウィンテールにまたもや舌打ちする。

 仕方ない。

 暫くここにいるか。

 面倒くさい奴がいるが仕方ない。

 サラは深いため息をついた。


 ✯✯✯


「ここから出られないのに、どうしてプリートヴィーツェにいたんだ?」

「プリートヴィーツェとな?」

 ぼりぼりと焼き菓子をほうばるウィンテールに、サラは問う。

「ほら、私と初めて会ったとこだよ」

「あー! あそこな! エスティの家じゃろう!?」

「……そうだが、どうやってここを出たんだ? それに、あそこで一体何をしていたんだ? というかなぜ母さんとそんなにも親しんだ?」

「母さんじゃと!?」

「……そうだが、なんだ?」

「そうか……お主はエスティの子か!」

 嬉しそうに、そしてどこか哀しそうに笑うウィンテールに、サラは閉口した。

 彼女は一体母とどのような関係だったのだろう。

「あんたは母さんの何を知っているんだ?」

「ちょっと待つのじゃ。そんなにもたくさん質問しても一気には答えられんじゃろう!」

「一つ一つでいいから答えろ」

「脅しじゃな!……全く怖いのう」

「いいから早く答えろ」

 ず、と紅茶を一口飲んだウィンテールが「仕方ないのう」と少し嬉しそうに笑う。

「じゃあ、まずはここからどうやって逃げたか、ということじゃが。ここからは窓から飛び降りたのじゃ。我はよく脱獄するぞい」

「飛び降りるって……あんた正気か?」

「正気も何も、ここはつまらんじゃろう? じゃからな、よく街に降りて散策するのじゃ! お主も飛び降りるなどよくするじゃろう?」

「いや、飛び降りるなんて滅多にしない。で? あそこでは何をしていたんだ?」

 ウィンテールは揺らめく紅茶の水面を眺めている。

「エスティが亡くなったと聞いた。じゃからの、彼女へ花を手向けに行ったのじゃ」

「母さんに花、か。ありがとう。……ん? でも、王族側では、母さんは行方不明になったと聞いたぞ。あんたはなぜあの場所を知っているんだ?」

「ああ、場所は聞いておったからな」

「は? どういうことだ?」

「謎じゃろ~」

 ニヤニヤしているウィンテールにサラの表情が消えた。サラは席を立ち窓へ向かう。

「わかったわかった! 説明するからどこかへ行こうとするな!」 

「……」

 席へ戻ったサラはため息をつく。

「で?」

 サラの急かすような視線など無視し、ウィンテールは想いを馳せるように遠くを見つめた。

「我はエスティ……お主の母さんの友達じゃったのだ」
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