騎士ですが正直任務は放棄したいです

ななこ

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王都編

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 そこは、真っ暗な世界だった。

 音のない世界。

 けれど、その暗闇もすぐに終わる。

 あまたの流れ星が目の前を通過し、この暗闇に沁み込むように色を付けてゆく。

 まるで、世界に息を吹きかけてゆくように。

 辺りには幻想的な風景が広がった。

 植物も大地も海も、息をするごとにほんのりと淡く光る。

 けれど、生物と呼ばれるものはこの世界には存在していないようだ。

 ただ静かな世界が広がっているだけ。

 時間が止まったような、そんな世界。誰にも気づかれることなく、ひっそりと存在するような、そんな世界だ。

 ふと空を見上げると、空には太陽が三つ浮かんでいるのに気が付いた。

 一つは禍々しく光る黒い太陽。

 一つは一際美しく輝く黄色い太陽。

 一つはこの世界を明るく照らす太陽。

 静寂はたった一瞬。黒い太陽が爆ぜた。

 辺りに散らばる黒い燐片が、この美しい世界を黒く染め上げてゆく。

 それと同時に、植物たちが枯れて蠢き、異物となって悲鳴を上げ始める。

 こんこんと降り注ぐ黒い燐片によって、世界は朽ち果ててしまった。

 沈み込んだ世界に遠吠えのようなものが物悲しく響き渡れば、突然空が明るくなったのだ。つられるようにして、空を見上げれば。

 今度は黄色い太陽が爆ぜたらしい。

 穢れてしまったこの世界を癒すように、温かい燐片が降り注ぐ。

 大地には新たに息吹を、そして生命の誕生に祝福を。

 幻想的な世界ではなく、どこか懐かしい世界となった。

 けれどほどなくして、消えてはいない黒い太陽の存在――闇と、黄色い太陽の存在――光がぶつかり合うのを何度も目にすることになる。

 一番酷かったのは、光と闇が兵をなし、両軍が広大な場所で交えた時だった。

 幾度となく繰り返された無残な争いに、どうやら終止符が打たれようとしたようだった。

 多くの犠牲が生まれ、どちらも無残に散ってゆく。

 そして終盤、両者を率いる者同士がぶつかり合った直後、世界は激しい光に包まれた。

 その光の中で、両者が数言交わしたかと思えば、たちまち黒い太陽の存在が消え去っていった。

 どんな言葉を交わしたのかはさすがに分からなかった。

 すると黄色い太陽の存在はゆっくりと目を閉じた。

 呼応するように世界を包んでいた光が捌けていけば、黄色い太陽の存在を中心に人間の文明が猛スピードで遂げられてゆく。

 サラの記憶に新しい世界が眼下に広がってゆくのを眺めていれば、意識が急に浮上した。

 ハッと目を覚ませば、天蓋つきのベッド――ではなく床に横たわっていた。

 サラは冷や汗が額から流れてくるのをぬぐい、荒い呼吸を整えた。

 特に何も説明を受けたわけではないが、全てを唐突に理解した。

「これが……世界の成り立ち」
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