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北都市編 前編
8(リリナ視点)
しおりを挟む目の前を閃光が迸る。
リリナとリオはコーネリアからのビームをぎりぎりで避けた。
すると、行く手を塞いでいたお菓子ゾンビにビームが直撃し、飴細工に変わった。
「今だ……! 逃げろ!」
リリナとリオはなるべくコーネリアから距離を取って、彼女からは見えないように建物の影へ隠れた。
「逃がさない逃がさない逃がさない」
コーネリアは二人を見つけるべく、家の屋根に登り辺りを見渡す。
けれどなかなか二人の姿を見つけることができないようだ。
しばらくするとコーネリアは別の屋根に飛び移り、二人を探しにゆく。
遠ざかっていくのを確認したリオは、止めていた息を吐き出した。
「はあ……。見つかるのは時間の問題だけど……少しは休めそうだ」
「そうね……」
二人して陰で息を潜める。
「ザグジー先輩……どうなっちゃうのかな……」
「……さあ?」
「元に戻ったらいいけど……」
不安な表情を浮かべているリリナに、リオはあざ笑うように呟いた。
「正直、他の人の事なんてどうでもよくない?」
その言葉に頭にきたリリナは「よくないわ!」と大きな声を上げてしまった。
「し! コーネリアに気づかれる!」
「え、あ……ごめんなさい」
咄嗟に謝ったリリナは「でも……」と不満げに続ける。
「どうでもよくないと思うの。先輩は大切な仲間だから」
「大切な仲間、ね……」
「リオさんだって、コーネリアさんは大切な仲間よね? スカルに襲われていたときだって助けていたから」
「……俺、隊のメンバーを見捨てたことあるんだよね。それで一回面倒臭いことになったから、それ以降は見捨てないようにしてるだけ。ただの隊のメンバーってだけで、別に彼女のこととか特に何も思ってない」
無表情で淡々と語るリオ。
本当にコーネリアのことは、ただ一緒に隊を組んでいるだけの騎士、なのだ。
簡単に仲間を切り捨てることのできる冷酷な性格だと知って、リリナはごくん、と生唾を呑み込んだ。
「軽蔑した?」
「え、あ」
「まあ、そうだよね。あ、大丈夫。君は特別だから、見捨てたりしないから心配しないで」
「いや、そういうことではなくて……」とリリナがしどろもどろに答えていると、「さて、この状況一体どうするかなあ」とリオは考え始めた。
この人……。
何を考えているのかわからない。
様々な人がいることはサラを初め、知っていた。
が、平然と仲間を見捨てるような騎士とは今まで会ったことがなく、リリナは正直、リオが怖かった。
そんなリリナの内心など気に留めず。
「ここはおそらくコーネリアの夢の中だと思う。だから目が覚めればきっと現実に戻るはず」
この状況を打開するための案を思考していた。
そうよね。
今はここから出ることを考えないと。
リリナはリオに対してのことは頭から振り払い、自分たちが見た夢を一例に解決策を考え始めることに。
「……確かに私たちが先ほどまでいた世界が夢の世界だと過程するとしたら、ここはコーネリアさんの夢の中と考えてもいいわね。……でも、それがわかっても、問題はどうやったら目が覚めるか、ね」
「それは……わからない」
リリナの質問に、リオは言葉を詰まらせる。
「うーん……夢から目を覚めるためには……現実世界からの刺激、とか? ほら、よく痛みとか感じたら起きるわよね?」
「なるほど……。でも、それは現実側にいる方から攻撃を食らうってことだよね。他の騎士とか、確かみんな寝ていた気がするし。今のところ痛み刺激で目が覚めていないということは、攻撃を食らっていないと考えていいと思う」
「あの敵は……私たちを殺す気はないのかな?」
「それは……わからない。でも、外部からの刺激を期待するのは、自分たちでは何もできない最悪の状態の時だな。それに、現実の方で相当な攻撃を食らったら目覚めるどころか、死ぬんじゃないの?」
「それは……そうね……。うーん……。でも、ここから出る方法がきっと何かあるはず……」
リリナは頭を抱えた。
自分たちはいつもどうやって夢から目を覚ましていたのか。
意識などせず、当たり前にしていたことが、わからない。
いや、そもそも意識していなかったからこそわからないのだ。
考えても思いつかず、リリナは不意に気になったことを聞いた。
「あの……」
「ん?」
「どうしてこんなにもコーネリアさんは私たちをお菓子にしたがるの?」
眉根を寄せたリリナに、リオは「ああ……」と何かを納得し、まじめ腐った顔で呟く。
「彼女はいろんなことに無関心そうに見えて、実はお菓子が大好きらしい。お菓子が暫く食べられなくなると、お菓子のことで頭がいっぱいになる禁断症状が出る」
「き、禁断症状……!?」
「手が震え始めて、喋る言葉がすべて『お菓子』だ。結構困る」
「それ、相当重症だなー」とラルクが笑う。
「彼女の願望が夢に反映されているとなれば、彼女は今ものすごくお菓子が食べたいんじゃないんだろうか。だから僕たちをお菓子にしているんじゃない?」
「……そうなのね」
お菓子を食べたいから、お菓子の夢を見る。
では、自分の場合はどうだっただろうか、とリリナは思考を巡らせる。
自分がもともと不出来だったから、自慢の妹だと言って欲しかった。
その願望が夢となっていた。
あの時、私は、どうやって目が覚めたのだろう。
正直、自分が夢を見ているなど、感じていなかった。
その世界が本当でその場に留まりたいと思っていた。
あ……そうだ。
「……この世界が夢、もしくは現実とは違う世界と気づけた時、私たちは自分たちの夢から別の人の夢へ移動した気がするわ」
「ああ……確かに」
「今、コーネリアさん自身は自分が夢を見ていると認識していない状態だと思うの。だから、自分が夢を見ていると認識させることが必要だと思うわ。そのためには、私たちが何か彼女に行動を起こせばいいんじゃない?」
「正気に戻させるって感じ?」
「そう」
「なるほど。でも、接近戦は中々難しいかもね。あっちは飛び道具を持っているからなあ……」
「えーっと……この夢が、現実と繋がっているかわからないから、下手に攻撃とかはやめた方がいいかも」
「じゃあどうする?」
「そうね……」
しばらく逡巡していたリリナは何かを閃いて、ゆっくりと視線を上げた。
「あれとか、どう?」
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