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故郷編
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しおりを挟む運命という言葉が嫌いだった。
自分の意志で突き進むことに意味があると思っていたから。
そうしてきたはずだ。
立ち止まってしまうことも。
自分が何者でもなくなることも。
決してないと思っていた。
だから、信じられなかった。
得た、誰かを守るための力。
得た、姉さんを探すための力。
ずっと背負っていくと思っていた命。
ずっと心に決めていた誓い。
積み重ねてきたもの。
それが音もなく不意になくなってしまったことが、とても、とても、怖かった。
失ってしまったものが大きすぎて、私は、どうすればいいのかわからなかった。
――アル……。
✯✯✯
数時間前。
病院に足早で戻ったサラは、ヒルドハイムを捕まえて検査をしてもらった。
『体から光のエネルギー反応を感知できませんでした……。今現在は精霊が宿っていない状態です』
痛烈な言葉に、サラは何も言えなかった。
『でも、今までこんなことはあり得ませんでした。体内に精石を埋め込んだら、人間側が死ぬまで一生、その精霊と共に生きると思っていたので……』
サラもそうだ。
アルグランドとは一生一緒にいるのだとばかり思っていた。
『まさかこんなことがあるとは……。何か心当たりはありますか?』
サラは深いため息をついた。
おそらく、スカルになった時に光の力を使いすぎた。
サラ自身の負担は確かに大きかったが、アルグランドの方が大きかったのかもしれない。
きっと無理をさせてしまったのだ。
『私のせいだ……』
姉さんを助けるために、必死になり過ぎていた。
アルの事も何も考えずに。
ただただ、力を解放してしまった。
『私のせいで……アルが……』
アル……。
ごめん……。
アル……。
ひどく傷ついた顔をしていたのかもしれない。
ヒルドハイムが、『自分を責めるのはやめなさい』とことさら優しく諭す。
『原因はよく分かりません。このままかもしれませんし、ひょっとすると回復するかもしれません。初めての症例なので、私には……どうすることもできませんし、わかりません』
『でも、北に……』
『今の状態のあなたが行っても、足手まといになるだけでしょう』
辛辣だが、正論だ。
光の力が使えない騎士など、ただの人間。
そんな状態で行っても、スカルの格好の餌になるだけ。
『そう、だな』
『今のあなたには、少し休息が必要なのだと思います』
光のエネルギーを測定する機械のモニター画面には、無慈悲に『ゼロ』という数字が表示されていた。
その数値から、真実から、逃れるように。
サラは目を伏せた。
✯✯✯
サラはぼんやり立っていた。
深い森の中。
川の音を聞きながら。
私は……。
どうしたらいいんだろう。
当てもなく歩いてたどり着いた場所。
木漏れ日が、柔らかくサラを照らす。
涼し気な匂いが、心地よい風と共に流れてゆく。
開けた場所に出て、サラは眩しさに目を細めた。
そして、目の前に見えた建物の存在に、胸が痛んだ。
痛々しさをそのまま残した、サラの家。
家族と過ごした、懐かしい家。
帰ってこないだろうと思っていたが、結局行き着く場所は、ここか。
「母さん、父さん……」
幼い頃に失くしてしまった家族。
笑い合っていた過去の幻影が、目の前に見える。
もう誰も失わないと誓った――のに。
「姉さん……」
あの時に連れ去られた、たった一人の姉妹。
姉さんを見つけると誓った――のに。
私は、これからどうしたらいいのだろう。
リリナやザグジーは特務として北へ向かった。
サラの状態を聞いた二人はサラ以上にショックを受けていたけれど、絶対にサラは特務に帰ってくると信じていた。
私も信じたかったが、希望など到底持てなかった。
光の力を失ったサラは、一人故郷へ帰ってきた。
自身の家の扉をゆっくり開けた。
目に飛び込んできたのは、忘れもしない両親の血痕――ではなく、テーブルについて何かをガツガツ食べている女だった。
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