上 下
37 / 201
中央都市編

6(リリナ視点)

しおりを挟む

 ねえ、私はどうすればいいのかな?

 私は、ずっとあの日から、立ち止まったまま。

 わからないの。

 自分が、どう動けばいいのか。

 行動は全て自分の選択で。

 他人も、その行動によって左右されてしまうから。

 だから。

 わからないの。

 私は……どう戦えば、いいの?

 ねえ、先輩。

 教えてください――。


 ✯✯✯


「これから卒業試験を行う」

 騎士養成学校での、最後の試験。

 内容は騎士候補生が四人で一つの隊を組み、街に出現したスカルを討伐することだ。

 大きなスカルを倒せば倒すほど成績が上がり、合格に近づく。

「では、みなくれぐれも死なないように!」

 候補生たちは緊張した面持ちで敬礼した。

「はいっ!」

 騎士養成学校のある中央都市。

 今日だけ特別にスカルの討伐が候補生に任されているのだ。

 日の落ちた街を候補生たちはスカルを倒そうと駆け巡る。

「高得点で卒業試験をパスするわよ。私に任せて」

 倒せないスカルなんていないわ。

 今まで実地訓練でも強いスカルを倒したことがあるリリナは、自信があったし高得点で卒業試験をパスすることは当たり前だとも思っていた。

「前方にスカルが数体いるわ! 一気に片付けましょう!」

「ちょっと、リリナ」

 スカルに向かって何の躊躇いもなく発砲しようとする私に、アイリスが嫌そうな顔を向けてきた。

「私、あんたのこと嫌いだから、私に命令しないで。それに、上から目線の発言もやめて」

「……」

 彼女とはクラスが一緒だが、あまり話したことがない。

 けれど態度で自分のことを嫌っているのは前からわかっていた。

 それでもチームでスカルを倒して、この試験に合格しないといけないのだ。

 リーダー的ポジションで今までやってきていたリリナには、彼女と一緒というのはとてもやりにくかった。

「今そんなこと言っている場合じゃない」

 そう言って他のチームメイトがスカルに斬りかかってゆく。

「……そうね」

 私は彼女のことを半ば無視するようにスカルと対峙した。

 でも、この時、どうして彼女が私のことを嫌いなのか、聞くべきだったかもしれない。

 そうしたら、あの間違いが起こらなかったのかもしれない。

 そう思っても、実際にそんなことを聞く勇気もなく。

 私たちはただひたすらスカルを倒した。

「楽勝ね」

 スカルはそれほど強いものを倒していないが、数をこなしている。

 合格ラインはとうに越しているが、もう少し強いスカルに遭遇しないと、高得点で試験をパスできないだろう。

 そんな風に思っていた矢先。

 何かが横を通って、それが目の前に現れた。

「な、何……?」

 鋭い刃を持った、カマキリのようなスカルだった。

 身長は人間の大人と同じぐらい。

 ゆっくりと刃のついた手を上へ上げる。

 ぴたりと止まった瞬間。

 スパン、と乾いた音がして私たちの髪の毛を風が揺らした。

 途端、真横にあった建物が真っ二つに切れたではないか。

「え……?」

 一瞬何が起きたのか全くわからなかった。

 腕を振り下ろした瞬間が見えなかったのだ。

 攻撃が早すぎる。

「こいつ……やばいよ……」

 チームメイトがゆっくりと後ずさる。

 私も、直感で、このスカルとは戦えない、と思った。

 逃げないと。

 でも、思いとどまってしまった。

 これほど強いスカルを倒せば、成績上位で卒業できるのでは、と。

 いや、確実に一番で卒業試験をパスできる、と。

 そんな思いがよぎってしまった。

 だから、逃げることと、戦うことの選択肢の間で揺れ動いてしまった。

 私の生まれ育った家は、この世界でも名を馳せる名家だった。

 兄妹の中で末っ子だった私は、常に兄や姉たちと比べられてきた。

 姉や兄たちは有名会社に就職したり、医者になったりと、父や母の自慢の息子、娘だった。

 けれど私は何をしてもうまくできなくて、父や母からはこの家にふさわしくあれと言われ続け、厳しい教育を受けてきた。

 その競争社会から逃げたくて、私は騎士を目指したと言ってもいい。

 当然父や母は反対したが、成績上位でいることを条件として、この学校への入学を認めてくれた。

 常に成績上位を。

 常に優等生を。

 それが頭から離れなかった。

 でもそのために随分努力したおかげで、私は他の候補生よりも勉強ができ、戦闘能力も高くすることができた。

 だから、慢心してしまっていたのかもしれない。

 そして、間違った選択をしてしまったのだ。

 スカルがゆるりと動いた瞬間、私以外の三人が地面を蹴って逃げる。

 けれど私は、逃げなかった。

「リリナ……!? 何しているの!? 逃げるよ!?」

「あいつは倒せない!」

 チームメイトの注意をそっちのけで、一対一で向かい合った私は、銃を構える。

「大丈夫……! 倒せる……!」

「ちょっとあんたねえ!」

 アイリスの怒号が聞こえる。

 でも、リリナはまっすぐスカルだけを見つめた。

 大丈夫。

 倒せる……!

 こちらへ向かってくるスカル。

 私は家の壁を蹴って距離を保ちつつ連射。

 見えない斬撃も、命を刈り取ろうとする刃からも華麗に避け、私は急所を狙うように連射する。

 スピードは互角だった。

 いける……!

 お互い一歩も譲らない。

 でも、リリナの攻撃の方が遠距離なので有利だ。

 距離を保ちつつスカルに銃弾を放ち続ける。

 そして。

 私は刃が建物に突き刺さって、スカルの身動きが取れなくなる瞬間を見逃さなかった。

 スカルを飛び越えるように跳躍し、その勢いでバク宙しながら、背に向かって連射する。

 リズミカルに弾がスカルに命中し、スカルは絶命した。

「た……倒したの?」

「さすがリリナ……!」

「まあ、こんなものよね」

 やっぱり私は出来るのよ。

 常に上を目指さないといけないから。

 みながリリナのことを褒めたたえるけれど、一人だけ、眉間に皴を寄せたまま、倒れているスカルを睨んでいた。

 小さな違和感をアイリスだけが感じ取っていたのだ。

「?」

 何を気にしているのだろうかと、振り返ろうとした瞬間。

 強引に彼女に腕を引っ張られた。

「え……?」

 すると目の前がいきなり真っ赤に染まる。

 何。

 そう思ったら、それはシャワーのように飛び散った大量の血だと数秒後にわかる。

 信じられない光景に、私は瞠目して。

 チームメイトの悲鳴が響いた。

「う、そ……」

 私を庇ったアイリスが、目の前で両断されたのだ。

「……だから」

 ――あんたなんか大っ嫌いなのよ。

 そう、呟いた。

 彼女の恨む声と、憎悪の瞳。

 私の体にも幾筋も傷が入る。

 叫ぶように、血が噴き出た。

 いや、実際に声にならない声で、彼女の名を叫んでいた。

「――――――――!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

婚約破棄? ではここで本領発揮させていただきます!

昼から山猫
ファンタジー
王子との婚約を当然のように受け入れ、幼い頃から厳格な礼法や淑女教育を叩き込まれてきた公爵令嬢セリーナ。しかし、王子が他の令嬢に心を移し、「君とは合わない」と言い放ったその瞬間、すべてが崩れ去った。嘆き悲しむ間もなく、セリーナの周りでは「大人しすぎ」「派手さがない」と陰口が飛び交い、一夜にして王都での居場所を失ってしまう。 ところが、塞ぎ込んだセリーナはふと思い出す。長年の教育で身につけた「管理能力」や「記録魔法」が、周りには地味に見えても、実はとてつもない汎用性を秘めているのでは――。落胆している場合じゃない。彼女は深呼吸をして、こっそりと王宮の図書館にこもり始める。学問の記録や政治資料を整理し、さらに独自に新たな魔法式を編み出す作業をスタートしたのだ。 この行動はやがて、とんでもない成果を生む。王宮の混乱した政治体制や不正を資料から暴き、魔物対策や食糧不足対策までも「地味スキル」で立て直せると証明する。誰もが見向きもしなかった“婚約破棄令嬢”が、実は国の根幹を救う可能性を持つ人材だと知られたとき、王子は愕然として「戻ってきてほしい」と懇願するが、セリーナは果たして……。 ------------------------------------

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...