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中央都市編
6(リリナ視点)
しおりを挟むねえ、私はどうすればいいのかな?
私は、ずっとあの日から、立ち止まったまま。
わからないの。
自分が、どう動けばいいのか。
行動は全て自分の選択で。
他人も、その行動によって左右されてしまうから。
だから。
わからないの。
私は……どう戦えば、いいの?
ねえ、先輩。
教えてください――。
✯✯✯
「これから卒業試験を行う」
騎士養成学校での、最後の試験。
内容は騎士候補生が四人で一つの隊を組み、街に出現したスカルを討伐することだ。
大きなスカルを倒せば倒すほど成績が上がり、合格に近づく。
「では、みなくれぐれも死なないように!」
候補生たちは緊張した面持ちで敬礼した。
「はいっ!」
騎士養成学校のある中央都市。
今日だけ特別にスカルの討伐が候補生に任されているのだ。
日の落ちた街を候補生たちはスカルを倒そうと駆け巡る。
「高得点で卒業試験をパスするわよ。私に任せて」
倒せないスカルなんていないわ。
今まで実地訓練でも強いスカルを倒したことがあるリリナは、自信があったし高得点で卒業試験をパスすることは当たり前だとも思っていた。
「前方にスカルが数体いるわ! 一気に片付けましょう!」
「ちょっと、リリナ」
スカルに向かって何の躊躇いもなく発砲しようとする私に、アイリスが嫌そうな顔を向けてきた。
「私、あんたのこと嫌いだから、私に命令しないで。それに、上から目線の発言もやめて」
「……」
彼女とはクラスが一緒だが、あまり話したことがない。
けれど態度で自分のことを嫌っているのは前からわかっていた。
それでもチームでスカルを倒して、この試験に合格しないといけないのだ。
リーダー的ポジションで今までやってきていたリリナには、彼女と一緒というのはとてもやりにくかった。
「今そんなこと言っている場合じゃない」
そう言って他のチームメイトがスカルに斬りかかってゆく。
「……そうね」
私は彼女のことを半ば無視するようにスカルと対峙した。
でも、この時、どうして彼女が私のことを嫌いなのか、聞くべきだったかもしれない。
そうしたら、あの間違いが起こらなかったのかもしれない。
そう思っても、実際にそんなことを聞く勇気もなく。
私たちはただひたすらスカルを倒した。
「楽勝ね」
スカルはそれほど強いものを倒していないが、数をこなしている。
合格ラインはとうに越しているが、もう少し強いスカルに遭遇しないと、高得点で試験をパスできないだろう。
そんな風に思っていた矢先。
何かが横を通って、それが目の前に現れた。
「な、何……?」
鋭い刃を持った、カマキリのようなスカルだった。
身長は人間の大人と同じぐらい。
ゆっくりと刃のついた手を上へ上げる。
ぴたりと止まった瞬間。
スパン、と乾いた音がして私たちの髪の毛を風が揺らした。
途端、真横にあった建物が真っ二つに切れたではないか。
「え……?」
一瞬何が起きたのか全くわからなかった。
腕を振り下ろした瞬間が見えなかったのだ。
攻撃が早すぎる。
「こいつ……やばいよ……」
チームメイトがゆっくりと後ずさる。
私も、直感で、このスカルとは戦えない、と思った。
逃げないと。
でも、思いとどまってしまった。
これほど強いスカルを倒せば、成績上位で卒業できるのでは、と。
いや、確実に一番で卒業試験をパスできる、と。
そんな思いがよぎってしまった。
だから、逃げることと、戦うことの選択肢の間で揺れ動いてしまった。
私の生まれ育った家は、この世界でも名を馳せる名家だった。
兄妹の中で末っ子だった私は、常に兄や姉たちと比べられてきた。
姉や兄たちは有名会社に就職したり、医者になったりと、父や母の自慢の息子、娘だった。
けれど私は何をしてもうまくできなくて、父や母からはこの家にふさわしくあれと言われ続け、厳しい教育を受けてきた。
その競争社会から逃げたくて、私は騎士を目指したと言ってもいい。
当然父や母は反対したが、成績上位でいることを条件として、この学校への入学を認めてくれた。
常に成績上位を。
常に優等生を。
それが頭から離れなかった。
でもそのために随分努力したおかげで、私は他の候補生よりも勉強ができ、戦闘能力も高くすることができた。
だから、慢心してしまっていたのかもしれない。
そして、間違った選択をしてしまったのだ。
スカルがゆるりと動いた瞬間、私以外の三人が地面を蹴って逃げる。
けれど私は、逃げなかった。
「リリナ……!? 何しているの!? 逃げるよ!?」
「あいつは倒せない!」
チームメイトの注意をそっちのけで、一対一で向かい合った私は、銃を構える。
「大丈夫……! 倒せる……!」
「ちょっとあんたねえ!」
アイリスの怒号が聞こえる。
でも、リリナはまっすぐスカルだけを見つめた。
大丈夫。
倒せる……!
こちらへ向かってくるスカル。
私は家の壁を蹴って距離を保ちつつ連射。
見えない斬撃も、命を刈り取ろうとする刃からも華麗に避け、私は急所を狙うように連射する。
スピードは互角だった。
いける……!
お互い一歩も譲らない。
でも、リリナの攻撃の方が遠距離なので有利だ。
距離を保ちつつスカルに銃弾を放ち続ける。
そして。
私は刃が建物に突き刺さって、スカルの身動きが取れなくなる瞬間を見逃さなかった。
スカルを飛び越えるように跳躍し、その勢いでバク宙しながら、背に向かって連射する。
リズミカルに弾がスカルに命中し、スカルは絶命した。
「た……倒したの?」
「さすがリリナ……!」
「まあ、こんなものよね」
やっぱり私は出来るのよ。
常に上を目指さないといけないから。
みながリリナのことを褒めたたえるけれど、一人だけ、眉間に皴を寄せたまま、倒れているスカルを睨んでいた。
小さな違和感をアイリスだけが感じ取っていたのだ。
「?」
何を気にしているのだろうかと、振り返ろうとした瞬間。
強引に彼女に腕を引っ張られた。
「え……?」
すると目の前がいきなり真っ赤に染まる。
何。
そう思ったら、それはシャワーのように飛び散った大量の血だと数秒後にわかる。
信じられない光景に、私は瞠目して。
チームメイトの悲鳴が響いた。
「う、そ……」
私を庇ったアイリスが、目の前で両断されたのだ。
「……だから」
――あんたなんか大っ嫌いなのよ。
そう、呟いた。
彼女の恨む声と、憎悪の瞳。
私の体にも幾筋も傷が入る。
叫ぶように、血が噴き出た。
いや、実際に声にならない声で、彼女の名を叫んでいた。
「――――――――!」
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