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第3部3章 フォール・イントゥ……
136 謁見の間
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奇妙な部屋だった。
赤い壁には昆虫標本よろしく巨大なピンでとめられたアラクネー2体が貼り付けられていた。
蜘蛛の背にあたる部分が人間的には正面となるこの怪物は壁に貼りつけられることで、普段は逆さまになっている頭が普通に前を向いていた。
2体のアラクネーは目をあけると同時に語り始める。
「あなたたちはどこへ行くの?」「あなたたちを歓迎するわ」
幻聴じゃないよな?
俺のつぶやきにミカが「聞こえる」と答える。
皆バイザーをあげてアラクネーのほうを見入っている。
「この道を進めばどうにかなると思っているの?」「この道を進んで望むものを手に入れて」
彼女たちはそれぞれが真逆のことを言っているようだ。
「ぐるぐると廻り続けるのよ、あなたたちはメリーゴーラウンドで剥製として展示されるの」「あなたたちは前へと進み続けている」
1体は呪詛、もう1対は激励の言葉を発する。
「カップル毎に組み合わせて素敵な木馬を作ってあげましょう」「試練に打ち克って私たちを解放して」
ピンがぽろりと落ち、ピンどめされたアラクネーはぼとりと床に落ちる。
これまで理知的に喋っていた口からいつものような悲鳴が漏れ出てくる。
「燃やせっ!」
反射的に叫ぶ。
サチさんは俺の声に反応して火炎放射器を構えると2体のアラクネーをまとめて灰にする。
「何だったんだろう?」
誰も答えられない。
でも、この先に何かがあるのだけはわかる。
「君と1つになるというのは、魅力的だけど、ケンタウロスの素材としてとなると……それは面白くないよな」
変な仮面のようなものを被せられたら可愛らしい顔も見られない。
ミカは「キザっぽい言い方しても似合わないよ」と笑う。
そして、俺たちは扉を開けて次の部屋に進む。
俺たちはいくつもの部屋を通り過ぎた。
ある部屋ではまた新種の敵に出会った。
巨大な頭にヘッドギアのようなものを被り、貧相な体を手術衣のようなものに身を包んだ男がかっと目を見開くと、地面に転がっていたナイフが一斉に飛んできた。
先頭を歩いていた俺は反応できず、ナイフを全部受け止めることになった。
俺の防具はナイフの刃なんて通したりしないはずなのだが、ヘッドギアの男のナイフは全て俺の鎧を貫通し、俺はその場で戦闘不能になった。
戦闘自体はそのあと、突進していった仲間たちによってあっという間に片がついたが、俺の大事な防具はところどころ穴が開いた。
気がつけば皆多かれ少なかれ装備にガタがきているようだった。
それでも俺たちは先に進む。永遠にここをさまようのか、先があるのか。どちらにしても進む以外の選択肢はないことだけは確かなのだ。
◆◆◆
扉を開けると、先は部屋の色が変わっていた。
真っ黒な壁の部屋、磨かれた黒曜石のような壁が鏡のように光や俺たちの姿をうつしだす。
壁の向こうには色鮮やかな衣装に身を包んだ4人のピエロらしきものが貼り付けられている。
奥の壁に貼り付けられた4人のピエロがかっと目を開く。
「この先謁見の間!」「王と側近と寵姫が永遠の時を過ごす天国!」「変化のない天国!」「未来永劫の時を魂がなくなるまで過ごす場所!」
「無礼者はミンチにされる!」「無礼者は穴だらけ!」「無礼者はかみつかれる!」「無礼者にはツブテを投げろ!」
ピエロたちを貼り付けにしていた大きなピンが外れる。
4人のピエロはそのまま地面にべちゃりと落ちると、服だけを残し、そのまま溶けていった。
ピエロが貼り付けられていた壁の真ん中にある大きな扉がきしむような音をたてて開く。
玉座なのか。遠くの豪華な椅子に座る小さな人影、その前には見慣れてしまったけれど、見慣れたくない怪物たちがたたずむ。
ケンタウロスが2体、アラクネー1体、テケテケ2体、そしてヘッドギア野郎が一体。
ケンタウロスはこれまでのものと違ってチェーンソーを装備している。
2体の怪物はゆっくりとした動作でチェーンソーのエンジンをかける。
騒がしいチェーンソーの音に負けじと、アラクネーが悲鳴をあげ、テケテケが笑う。
「近づかれる前にハリネズミみたいにしてやれ! 射て射て射てっ!」
狭い部屋続きで使うこともなかった飛び道具を構える。
矢が飛んでいく。
すさまじいスピードで突進してきたテケテケのうちの1体が矢を食らって動かなくなる。
もう1体はそのまま突っ込んでくる。
カチカチカチと歯を鳴らしながら飛び上がったテケテケを俺はクロスボウで殴り飛ばす。
壊れたクロスボウを捨て、金砕棒を構える。
「石っ! 隠れてっ!」
ミカが盾を構えて前に出る。
俺は慌ててミカの後ろにしゃがみ込む。
彼女の盾に無数の石つぶてがばちばちと当たる。貫通はしなかったものの盾の表面にはいくつも石がめりこんでいる。
立ち上がった俺は再び飛び上がってきたテケテケをヘッドギアの方向に打ち返す。
ふっ飛ばされていくテケテケは石つぶての2撃目をくらい、穴だらけになる。
テケテケに当たらなかった石つぶてが俺の金砕棒を粉砕し、バシネットに穴を開ける。
金棒とか鉄兜に穴を開けるとかおかしいだろ!
「あのヘッドギア野郎を!」
「任せろ!」
叫んだチュウジが手にした大剣をぶん投げる。
投げるのに適したとは思われない剣だが、それでもヘッドギアの男の貧相な胸に突き刺さる。
「でかした!」
残るはケンタウロス2体とアラクネー1体。
「まとめて酸で焼きましょう!」
サゴさんが前に出て酸を吐く。
2体のケンタウロスは盾をかかげる。
酸はアラクネーの顔と胴を焼くだけに終わった。
アラクネーも仕留めきれてはいないだろうが、しばらく動けないだけでも助かる。
「ケンタウロスは2対1で囲むぞ。チェーンソーに注意。下手に受けたら武器ごと体まで持ってかれるぞ!」
「ミカ殿。バカを借りるぞ! もう1体をほんの少しだけ足止めしておいてくれ。ついて来い」
バカだけど、バカ呼ばわりすんじゃねぇ。
「一瞬だけすきをつくる。その一瞬で切り倒せよ!」
チュウジは叫ぶと、鎖分銅を振り回しながら、ケンタウロスに突っ込んでいく。
そして、鎖分銅をチェーンソーに向かって投げる。
チェーンソーがぎりぎりと鎖分銅を巻き込み回転速度を下げる。
チュウジはそのままスライディングして、ケンタウロスの股の下をくぐり抜けて、背後をとる。
「闇の女神に抱かれて眠れっ!漆黒の左!」
こんなツギハギの化け物にもスタミナが存在したのか、ケンタウロスの動きがゆっくりとなる。
格好いいぜ、チュウジ。
お前の格好は馬を獣姦しているようにしか見えないけどな!
俺はケンタウロスの斜めから飛びかかる。
盾は小剣でつきとばし、チェーンソーを持つ右手を長剣で切り落とす。
チェーンソーが回転を止める。
もう片方の手も切り落とす。
落としたチェーンソーをチュウジのほうに蹴り飛ばす。
チェーンソーを拾ったチュウジはすぐさまエンジンをかけなおすと、ケンタウロスを後ろから切り倒す。
格好いいぜ、チュウジ。
やっぱり獣姦しているようにしか見えないけどな!
チュウジはそのまま、もう1体のケンタウロスに向かう。
邪魔になるアラクネーを俺は蹴り飛ばす。
子蜘蛛にたかられないように注意しながら腕や足を切り落としていく。
走ってきたサチさんがアラクネーを火炎で子蜘蛛ごと焼き尽くす。
もう1体のケンタウロスの胴体をチュウジのチェーンソーが切り倒し、戦闘は終わった。
俺たちは玉座に座る「王」のほうを向く。
つややかな肌をもつそれは干からびた老人のようなうつろな目でこちらを見つめ口を開く。
赤い壁には昆虫標本よろしく巨大なピンでとめられたアラクネー2体が貼り付けられていた。
蜘蛛の背にあたる部分が人間的には正面となるこの怪物は壁に貼りつけられることで、普段は逆さまになっている頭が普通に前を向いていた。
2体のアラクネーは目をあけると同時に語り始める。
「あなたたちはどこへ行くの?」「あなたたちを歓迎するわ」
幻聴じゃないよな?
俺のつぶやきにミカが「聞こえる」と答える。
皆バイザーをあげてアラクネーのほうを見入っている。
「この道を進めばどうにかなると思っているの?」「この道を進んで望むものを手に入れて」
彼女たちはそれぞれが真逆のことを言っているようだ。
「ぐるぐると廻り続けるのよ、あなたたちはメリーゴーラウンドで剥製として展示されるの」「あなたたちは前へと進み続けている」
1体は呪詛、もう1対は激励の言葉を発する。
「カップル毎に組み合わせて素敵な木馬を作ってあげましょう」「試練に打ち克って私たちを解放して」
ピンがぽろりと落ち、ピンどめされたアラクネーはぼとりと床に落ちる。
これまで理知的に喋っていた口からいつものような悲鳴が漏れ出てくる。
「燃やせっ!」
反射的に叫ぶ。
サチさんは俺の声に反応して火炎放射器を構えると2体のアラクネーをまとめて灰にする。
「何だったんだろう?」
誰も答えられない。
でも、この先に何かがあるのだけはわかる。
「君と1つになるというのは、魅力的だけど、ケンタウロスの素材としてとなると……それは面白くないよな」
変な仮面のようなものを被せられたら可愛らしい顔も見られない。
ミカは「キザっぽい言い方しても似合わないよ」と笑う。
そして、俺たちは扉を開けて次の部屋に進む。
俺たちはいくつもの部屋を通り過ぎた。
ある部屋ではまた新種の敵に出会った。
巨大な頭にヘッドギアのようなものを被り、貧相な体を手術衣のようなものに身を包んだ男がかっと目を見開くと、地面に転がっていたナイフが一斉に飛んできた。
先頭を歩いていた俺は反応できず、ナイフを全部受け止めることになった。
俺の防具はナイフの刃なんて通したりしないはずなのだが、ヘッドギアの男のナイフは全て俺の鎧を貫通し、俺はその場で戦闘不能になった。
戦闘自体はそのあと、突進していった仲間たちによってあっという間に片がついたが、俺の大事な防具はところどころ穴が開いた。
気がつけば皆多かれ少なかれ装備にガタがきているようだった。
それでも俺たちは先に進む。永遠にここをさまようのか、先があるのか。どちらにしても進む以外の選択肢はないことだけは確かなのだ。
◆◆◆
扉を開けると、先は部屋の色が変わっていた。
真っ黒な壁の部屋、磨かれた黒曜石のような壁が鏡のように光や俺たちの姿をうつしだす。
壁の向こうには色鮮やかな衣装に身を包んだ4人のピエロらしきものが貼り付けられている。
奥の壁に貼り付けられた4人のピエロがかっと目を開く。
「この先謁見の間!」「王と側近と寵姫が永遠の時を過ごす天国!」「変化のない天国!」「未来永劫の時を魂がなくなるまで過ごす場所!」
「無礼者はミンチにされる!」「無礼者は穴だらけ!」「無礼者はかみつかれる!」「無礼者にはツブテを投げろ!」
ピエロたちを貼り付けにしていた大きなピンが外れる。
4人のピエロはそのまま地面にべちゃりと落ちると、服だけを残し、そのまま溶けていった。
ピエロが貼り付けられていた壁の真ん中にある大きな扉がきしむような音をたてて開く。
玉座なのか。遠くの豪華な椅子に座る小さな人影、その前には見慣れてしまったけれど、見慣れたくない怪物たちがたたずむ。
ケンタウロスが2体、アラクネー1体、テケテケ2体、そしてヘッドギア野郎が一体。
ケンタウロスはこれまでのものと違ってチェーンソーを装備している。
2体の怪物はゆっくりとした動作でチェーンソーのエンジンをかける。
騒がしいチェーンソーの音に負けじと、アラクネーが悲鳴をあげ、テケテケが笑う。
「近づかれる前にハリネズミみたいにしてやれ! 射て射て射てっ!」
狭い部屋続きで使うこともなかった飛び道具を構える。
矢が飛んでいく。
すさまじいスピードで突進してきたテケテケのうちの1体が矢を食らって動かなくなる。
もう1体はそのまま突っ込んでくる。
カチカチカチと歯を鳴らしながら飛び上がったテケテケを俺はクロスボウで殴り飛ばす。
壊れたクロスボウを捨て、金砕棒を構える。
「石っ! 隠れてっ!」
ミカが盾を構えて前に出る。
俺は慌ててミカの後ろにしゃがみ込む。
彼女の盾に無数の石つぶてがばちばちと当たる。貫通はしなかったものの盾の表面にはいくつも石がめりこんでいる。
立ち上がった俺は再び飛び上がってきたテケテケをヘッドギアの方向に打ち返す。
ふっ飛ばされていくテケテケは石つぶての2撃目をくらい、穴だらけになる。
テケテケに当たらなかった石つぶてが俺の金砕棒を粉砕し、バシネットに穴を開ける。
金棒とか鉄兜に穴を開けるとかおかしいだろ!
「あのヘッドギア野郎を!」
「任せろ!」
叫んだチュウジが手にした大剣をぶん投げる。
投げるのに適したとは思われない剣だが、それでもヘッドギアの男の貧相な胸に突き刺さる。
「でかした!」
残るはケンタウロス2体とアラクネー1体。
「まとめて酸で焼きましょう!」
サゴさんが前に出て酸を吐く。
2体のケンタウロスは盾をかかげる。
酸はアラクネーの顔と胴を焼くだけに終わった。
アラクネーも仕留めきれてはいないだろうが、しばらく動けないだけでも助かる。
「ケンタウロスは2対1で囲むぞ。チェーンソーに注意。下手に受けたら武器ごと体まで持ってかれるぞ!」
「ミカ殿。バカを借りるぞ! もう1体をほんの少しだけ足止めしておいてくれ。ついて来い」
バカだけど、バカ呼ばわりすんじゃねぇ。
「一瞬だけすきをつくる。その一瞬で切り倒せよ!」
チュウジは叫ぶと、鎖分銅を振り回しながら、ケンタウロスに突っ込んでいく。
そして、鎖分銅をチェーンソーに向かって投げる。
チェーンソーがぎりぎりと鎖分銅を巻き込み回転速度を下げる。
チュウジはそのままスライディングして、ケンタウロスの股の下をくぐり抜けて、背後をとる。
「闇の女神に抱かれて眠れっ!漆黒の左!」
こんなツギハギの化け物にもスタミナが存在したのか、ケンタウロスの動きがゆっくりとなる。
格好いいぜ、チュウジ。
お前の格好は馬を獣姦しているようにしか見えないけどな!
俺はケンタウロスの斜めから飛びかかる。
盾は小剣でつきとばし、チェーンソーを持つ右手を長剣で切り落とす。
チェーンソーが回転を止める。
もう片方の手も切り落とす。
落としたチェーンソーをチュウジのほうに蹴り飛ばす。
チェーンソーを拾ったチュウジはすぐさまエンジンをかけなおすと、ケンタウロスを後ろから切り倒す。
格好いいぜ、チュウジ。
やっぱり獣姦しているようにしか見えないけどな!
チュウジはそのまま、もう1体のケンタウロスに向かう。
邪魔になるアラクネーを俺は蹴り飛ばす。
子蜘蛛にたかられないように注意しながら腕や足を切り落としていく。
走ってきたサチさんがアラクネーを火炎で子蜘蛛ごと焼き尽くす。
もう1体のケンタウロスの胴体をチュウジのチェーンソーが切り倒し、戦闘は終わった。
俺たちは玉座に座る「王」のほうを向く。
つややかな肌をもつそれは干からびた老人のようなうつろな目でこちらを見つめ口を開く。
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