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第3部 前奏
099 出店?
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グラティアは大穴の王国という別名のとおり、大穴と呼ばれる地下迷宮に依存している街である。
地下迷宮からは遺物と称される太古のものが見つかることがまれにある。
普通の人間が見られるものは、武器や簡単な治療薬程度だが、噂ではそれこそ失くなった器官を再生させるものや逆らうもの全てを無に帰すような強力な武器すら見つかるという。
そのような遺物を見つければ、一生楽に暮らしていける。
そうでなくとも、遺物を見つけて売っていけば、それなりの暮らしができる。
遺物以外にも迷宮の上層には1種の生態系が存在し、そこで採れるものは食料や細工の道具として重宝される。これを取るだけでもまぁ暮らしていけるという。
このような街であるから、一攫千金を夢見て集まる探索家その他が見つけてきた遺物の売買と彼ら相手の商売が街の中の経済活動の大きな割合を占める。
対外的な経済活動も遺物の輸出がなければ、他は取り立てて見ることもない。迷宮産の食料は物珍しいものとして好む者もいるが、基本的には地産地消である。
迷宮に依存しているとはこういうことだ。
「遺物があれば、貴様の手も生えてくるかもしれないだろう」
「まぁ、でも今ではそこまで不便はしてないぜ。利き手は残っているし、片手があればこいつも大丈夫よ」
俺は左手で輪っかをつくると、それを上下に動かす。
「毎回やるその下品な手の動きはいいかげんやめろ! それにこれは貴様のためというよりは別の人のためだ」
自称暗黒騎士は相変わらずプラトニックな騎士道精神を発揮しているのだろう。サチさんはまだ俺を治せなかったことを気に病むことがあるようで、申し訳ないと思っているが、俺が何かを言っても逆効果にしかならないだろうから、チュウジに任せるようにしている。
「ジョークのネタにもしづらいですしねぇ」
つまらないジョークを言わせたら右に出る者はいないサゴさんがつぶやく。
「まぁ、俺はサゴさんの頭、ネタにし続けますけどね」
俺がそう返すと、「一度、毛根から酸で焼いてあげましょうか?」と怒られる。
しょうもない会話をしているところに女性陣3名が降りてくる。
今回はナナ先輩も一緒にグラティアの街を見物することにしている。
この街が他の街と異なるところに大穴市場の存在がある。
大穴市場は、文字通り大穴に関わる人々のためのもので、探索家のための武器防具、道具をあつかう店、遺物の買い取りをする店が集まっている。
事前にタルッキさんに聞いたところ、探索家はこの市場の店舗でしか遺物の売却が許されていない。
無論、自分たちで使用すると偽ってよその街で売却するのは可能なのだろうが、一定の水準以上の遺物に関しては、売らない場合は「持ち出し料」なるものを支払わないといけないことになっている。
そして、迷宮の入り口には検品所があり、すり抜けるのは困難、大穴の市場で売るのが得ということになっているらしい。
「独占禁止法はこの世界にないですからねぇ」
サゴさんがぼそりと言う。
「探索家は鵜飼の鵜みたいだね」
ミカが妙なたとえをする。
彼女の背中にヒモをつけたら、魚じゃなくてたくさんドングリを拾ってくれそうだ。
その光景を想像して俺は1人でニヤける。
「あんた、また1人でヤラシイ想像してたの?」
ナナ先輩は常に俺に対してだけ厳しい。
「俺からイヤラシイ妄想をする力をなくしたら、何が残ると思ってるんですか?」
今回はとくにイヤラシイ妄想をしていたわけではないが、ツッコミに対してはしっかりボケるべきだろう。
「大丈夫よ。10円玉ハゲとか、聞いてもないのに好きな映画の話を異様な早口でまくしたてる癖とか、1人で思い出し笑いしてるときのキモい笑顔とか色々持ってるわよ」
えっ? 10円玉ハゲあるの、俺? 俺は慌てて頭に手をやり確認をする。
「冗談よ、冗談。10円玉ハゲはないわよ」
他はあるんですね、先輩……。
「あんまり彼の悪口言わないで、ナナちゃん。彼、良いとこだっていっぱいあるんだよっ!」
ミカが援護射撃をしてくれる。そうだそうだ、言ってやるんだ、ミカさん。でも、あれ?
「『良いとこだって』って言い方は悪いとこを認めた上でみたいなニュアンスがないかな? ねぇミカさん?」
「10円玉ハゲはないよっ!」
他はあるのかよ……。
「でもねっ、好きな話してるんだなってすぐにわかるし、楽しいこと思い出してるんだなってすぐわかるから、あたしは嫌いじゃないよ。それにたまにあたしのこと、舐めるように見てくるのだって嫌じゃないからねっ」
俺のだめなとこ、なんか増えてるし……。
「それにね、彼はあたしの話をずっと聞いてくれるの。やらしい目で見てくるときだって、あたしが元気なさそうな時はすぐに気がついて全然目つきがやらしくなくなるの。それで、あたしがずっと泣きながら話してても、黙って手握って聞いててくれるんだよっ」
やらしいを強調されるのは恥ずかしいが、人前で褒められるのはなお恥ずかしい。
「はいはい、ごちそうさま。いまだにハネムーン期間続行中なのね。やだやだ、このバカップルは。ねぇ、サチ? あんたもどうせ同じなんでしょ?」
ナナ先輩はそう言ったあとに、「まぁ、レオチュウは可愛いからいいか」と付け足す。
「百歩譲ってキモかわいいとかの間違いではないでしょうか、先輩。これ、成長した呪いの殺人人形ですよ。キモいが98パーセントでかわいいが0.02パーセント、残り1.98パーはお祓いしないとまずいって感じで……」
ナナ先輩が無言で攻撃してくる。
先輩の裏拳は左手でガード。
ボディをさらに手を返して受け止める。
向こう脛のローキックは避けられない。
俺は膝をつく。
「先輩、普通に戦闘できるじゃん……」
向こう脛への一撃で湧き出た涙を拭きながら、俺は抗議する。
「ははは、でもアタシはあんたたちみたいに度胸ないからね。さぁ、いつまでもくだらないことやってないで市場見に行こうよ」
◆◆◆
市場には保存食を商う露店、さまざまな物資を扱う露店が多くある。
迷宮探索から戻ってきたばかりの探索家を狙った軽食と酒を提供する露店もちらほらある。
遺物のような高価な品を扱うのは、立派な店構えの店舗が多い。
「おばちゃん! それ7本ちょうだい!」
焼き網の上で香ばしい香りを発している串焼きを見つけて人数分プラス1注文する。
俺が2本、みんなに1本ずつだ。
渡された串をみんなに配りながら、観察する。
焼き鳥と思って買った串に刺さっているのは、小学生の夏休みに腐葉土で育てたアレによく似た白くてぷくぷくした代物だった。
かすかについた焼き色から香ばしい匂いが漂う。
一瞬ぎょっとしたが、香ばしい匂いでそんなものもすぐに忘れる。
「アタシ、それパス!」
ナナ先輩がさっとパスを宣言する。
ソの食生活では虫も貴重なタンパク源だったので、他はそれほど抵抗がないようだ。
俺は串3本を指の股に挟みながら、白い幼虫にかぶりつく。
じゅっと中から汁が出る。
結構クリーミーだな。
幼虫の甘みと軽く振られた塩が良い塩梅で酒のつまみになりそうだ。
すでにサゴさんはそわそわしてる。
「まだお酒は早いですからね」
あ、サチさんにたしなめられてしょんぼりしてる。
「これ何?」
そう聞く俺に店のおばちゃんは「ファースだよ」と答える。
どうも、迷宮の入り口近くの木の根元で取れる虫らしい。
「迷宮ってのは何でも取れるんだねぇ」
感心したように言うミカにおばちゃんは胸を張って「迷宮の恵みは神にして神々が与えてくれた最高のものだよ」と言う。
皆が1本食べ終える前に3本食べ終えた俺はもう1本追加して皆にあきれられる。
「小腹も満たされたところで、店舗構えてるとこものぞいてみようぜ」
俺は皆のあきれ顔を気にせず、店舗見学に誘う。
遺物の店は、昔テレビで見た外国の治安の悪い地域にある店のようだった。
鉄格子や金網でカウンターが覆われていて、カウンターの後ろに品物が並んでいる。
タダミが昔見せてくれた傷薬も銀貨5枚とかいう値段だ。
職人の1週間分の給料並みの価値がこいつにはあるらしい。
「それは何なのでしょうか?」
一軒の店でサゴさんが壁に飾られているモノを指差して店主にたずねた。
ぱっと見メイスのようだが、持ち手の部分は太く、先端と持ち手の部分は細い。メイスとして使うにはバランスが良さそうとはいえない。
「お客さん、お目が高い。これは古代の魔剣ですよ。ほら、こうすると……」
メイスならぬ「魔剣」の先端が高速で回転する……。
「こいつで敵もあっという間に細かくきざまれるってわけですよ。お値段なんと金貨1万5000枚……ってのは冗談でこれは不売品なんですがね」
店主が「魔剣」を自慢気に見せびらかす。
「カ○ナートの剣?」「7回あたって73のダメージ?」
サゴさんと俺の声が重なる。
……あっ! このおっさん知ってるじゃねぇか。
「この世界に来て最初に宿屋にとまったとき……ミカさんの前で馬小屋ネタで俺が盛大に滑ったとき……助けてくれるどころか知ってて退路を絶ったんですね?」
俺はサゴさんに質す。
「君はいつまでも小さなことを覚えていますね。本当に器も小さいものです」
パーティーを組む前から容赦がなかったが、長く一緒に過ごした現在、その容赦のなさに磨きがかかっている。
「『も』ってなんですか? 『も』って? 器以外に俺の何が小さいって言うんですか?」
「君はもう自分で答えを言っているじゃないですか? それともここではっきり言ったほうが良いですか?」
「……」
「笑いの道は厳しいんですよっ!」
自分だってつまらないネタで黙殺され続けてるくせに。つまらないネタで1人で笑い続けてるくせに。畜生!
「ハゲ……ハゲハゲハゲェー!」
ナナ先輩の地獄突きを食らうまで俺は泣きわめいた。
◆◆◆
「にぎやかだったね、サッちゃん」
「一攫千金を求める人は結構多いんですね」
「だからこそ、まだ参入する余地があるのだ」
チュウジがやたらと偉そうに言う。
「参入しようにも遺物取引をおこなう権利証に払うような金はないぞ?」
「遺物の取引に参入するのが困難でも、探索家たちが拠点としたくなるような場所を作れば、遺物の発見を始めとした迷宮の情報も手に入りやすくなる。そのうえで……」
やつは酒場兼宿屋を作ろうという腹積もりのようだ。
チュウジは胸をはって続けた。
「我らで潜るのだ。地下迷宮に!」
地下迷宮からは遺物と称される太古のものが見つかることがまれにある。
普通の人間が見られるものは、武器や簡単な治療薬程度だが、噂ではそれこそ失くなった器官を再生させるものや逆らうもの全てを無に帰すような強力な武器すら見つかるという。
そのような遺物を見つければ、一生楽に暮らしていける。
そうでなくとも、遺物を見つけて売っていけば、それなりの暮らしができる。
遺物以外にも迷宮の上層には1種の生態系が存在し、そこで採れるものは食料や細工の道具として重宝される。これを取るだけでもまぁ暮らしていけるという。
このような街であるから、一攫千金を夢見て集まる探索家その他が見つけてきた遺物の売買と彼ら相手の商売が街の中の経済活動の大きな割合を占める。
対外的な経済活動も遺物の輸出がなければ、他は取り立てて見ることもない。迷宮産の食料は物珍しいものとして好む者もいるが、基本的には地産地消である。
迷宮に依存しているとはこういうことだ。
「遺物があれば、貴様の手も生えてくるかもしれないだろう」
「まぁ、でも今ではそこまで不便はしてないぜ。利き手は残っているし、片手があればこいつも大丈夫よ」
俺は左手で輪っかをつくると、それを上下に動かす。
「毎回やるその下品な手の動きはいいかげんやめろ! それにこれは貴様のためというよりは別の人のためだ」
自称暗黒騎士は相変わらずプラトニックな騎士道精神を発揮しているのだろう。サチさんはまだ俺を治せなかったことを気に病むことがあるようで、申し訳ないと思っているが、俺が何かを言っても逆効果にしかならないだろうから、チュウジに任せるようにしている。
「ジョークのネタにもしづらいですしねぇ」
つまらないジョークを言わせたら右に出る者はいないサゴさんがつぶやく。
「まぁ、俺はサゴさんの頭、ネタにし続けますけどね」
俺がそう返すと、「一度、毛根から酸で焼いてあげましょうか?」と怒られる。
しょうもない会話をしているところに女性陣3名が降りてくる。
今回はナナ先輩も一緒にグラティアの街を見物することにしている。
この街が他の街と異なるところに大穴市場の存在がある。
大穴市場は、文字通り大穴に関わる人々のためのもので、探索家のための武器防具、道具をあつかう店、遺物の買い取りをする店が集まっている。
事前にタルッキさんに聞いたところ、探索家はこの市場の店舗でしか遺物の売却が許されていない。
無論、自分たちで使用すると偽ってよその街で売却するのは可能なのだろうが、一定の水準以上の遺物に関しては、売らない場合は「持ち出し料」なるものを支払わないといけないことになっている。
そして、迷宮の入り口には検品所があり、すり抜けるのは困難、大穴の市場で売るのが得ということになっているらしい。
「独占禁止法はこの世界にないですからねぇ」
サゴさんがぼそりと言う。
「探索家は鵜飼の鵜みたいだね」
ミカが妙なたとえをする。
彼女の背中にヒモをつけたら、魚じゃなくてたくさんドングリを拾ってくれそうだ。
その光景を想像して俺は1人でニヤける。
「あんた、また1人でヤラシイ想像してたの?」
ナナ先輩は常に俺に対してだけ厳しい。
「俺からイヤラシイ妄想をする力をなくしたら、何が残ると思ってるんですか?」
今回はとくにイヤラシイ妄想をしていたわけではないが、ツッコミに対してはしっかりボケるべきだろう。
「大丈夫よ。10円玉ハゲとか、聞いてもないのに好きな映画の話を異様な早口でまくしたてる癖とか、1人で思い出し笑いしてるときのキモい笑顔とか色々持ってるわよ」
えっ? 10円玉ハゲあるの、俺? 俺は慌てて頭に手をやり確認をする。
「冗談よ、冗談。10円玉ハゲはないわよ」
他はあるんですね、先輩……。
「あんまり彼の悪口言わないで、ナナちゃん。彼、良いとこだっていっぱいあるんだよっ!」
ミカが援護射撃をしてくれる。そうだそうだ、言ってやるんだ、ミカさん。でも、あれ?
「『良いとこだって』って言い方は悪いとこを認めた上でみたいなニュアンスがないかな? ねぇミカさん?」
「10円玉ハゲはないよっ!」
他はあるのかよ……。
「でもねっ、好きな話してるんだなってすぐにわかるし、楽しいこと思い出してるんだなってすぐわかるから、あたしは嫌いじゃないよ。それにたまにあたしのこと、舐めるように見てくるのだって嫌じゃないからねっ」
俺のだめなとこ、なんか増えてるし……。
「それにね、彼はあたしの話をずっと聞いてくれるの。やらしい目で見てくるときだって、あたしが元気なさそうな時はすぐに気がついて全然目つきがやらしくなくなるの。それで、あたしがずっと泣きながら話してても、黙って手握って聞いててくれるんだよっ」
やらしいを強調されるのは恥ずかしいが、人前で褒められるのはなお恥ずかしい。
「はいはい、ごちそうさま。いまだにハネムーン期間続行中なのね。やだやだ、このバカップルは。ねぇ、サチ? あんたもどうせ同じなんでしょ?」
ナナ先輩はそう言ったあとに、「まぁ、レオチュウは可愛いからいいか」と付け足す。
「百歩譲ってキモかわいいとかの間違いではないでしょうか、先輩。これ、成長した呪いの殺人人形ですよ。キモいが98パーセントでかわいいが0.02パーセント、残り1.98パーはお祓いしないとまずいって感じで……」
ナナ先輩が無言で攻撃してくる。
先輩の裏拳は左手でガード。
ボディをさらに手を返して受け止める。
向こう脛のローキックは避けられない。
俺は膝をつく。
「先輩、普通に戦闘できるじゃん……」
向こう脛への一撃で湧き出た涙を拭きながら、俺は抗議する。
「ははは、でもアタシはあんたたちみたいに度胸ないからね。さぁ、いつまでもくだらないことやってないで市場見に行こうよ」
◆◆◆
市場には保存食を商う露店、さまざまな物資を扱う露店が多くある。
迷宮探索から戻ってきたばかりの探索家を狙った軽食と酒を提供する露店もちらほらある。
遺物のような高価な品を扱うのは、立派な店構えの店舗が多い。
「おばちゃん! それ7本ちょうだい!」
焼き網の上で香ばしい香りを発している串焼きを見つけて人数分プラス1注文する。
俺が2本、みんなに1本ずつだ。
渡された串をみんなに配りながら、観察する。
焼き鳥と思って買った串に刺さっているのは、小学生の夏休みに腐葉土で育てたアレによく似た白くてぷくぷくした代物だった。
かすかについた焼き色から香ばしい匂いが漂う。
一瞬ぎょっとしたが、香ばしい匂いでそんなものもすぐに忘れる。
「アタシ、それパス!」
ナナ先輩がさっとパスを宣言する。
ソの食生活では虫も貴重なタンパク源だったので、他はそれほど抵抗がないようだ。
俺は串3本を指の股に挟みながら、白い幼虫にかぶりつく。
じゅっと中から汁が出る。
結構クリーミーだな。
幼虫の甘みと軽く振られた塩が良い塩梅で酒のつまみになりそうだ。
すでにサゴさんはそわそわしてる。
「まだお酒は早いですからね」
あ、サチさんにたしなめられてしょんぼりしてる。
「これ何?」
そう聞く俺に店のおばちゃんは「ファースだよ」と答える。
どうも、迷宮の入り口近くの木の根元で取れる虫らしい。
「迷宮ってのは何でも取れるんだねぇ」
感心したように言うミカにおばちゃんは胸を張って「迷宮の恵みは神にして神々が与えてくれた最高のものだよ」と言う。
皆が1本食べ終える前に3本食べ終えた俺はもう1本追加して皆にあきれられる。
「小腹も満たされたところで、店舗構えてるとこものぞいてみようぜ」
俺は皆のあきれ顔を気にせず、店舗見学に誘う。
遺物の店は、昔テレビで見た外国の治安の悪い地域にある店のようだった。
鉄格子や金網でカウンターが覆われていて、カウンターの後ろに品物が並んでいる。
タダミが昔見せてくれた傷薬も銀貨5枚とかいう値段だ。
職人の1週間分の給料並みの価値がこいつにはあるらしい。
「それは何なのでしょうか?」
一軒の店でサゴさんが壁に飾られているモノを指差して店主にたずねた。
ぱっと見メイスのようだが、持ち手の部分は太く、先端と持ち手の部分は細い。メイスとして使うにはバランスが良さそうとはいえない。
「お客さん、お目が高い。これは古代の魔剣ですよ。ほら、こうすると……」
メイスならぬ「魔剣」の先端が高速で回転する……。
「こいつで敵もあっという間に細かくきざまれるってわけですよ。お値段なんと金貨1万5000枚……ってのは冗談でこれは不売品なんですがね」
店主が「魔剣」を自慢気に見せびらかす。
「カ○ナートの剣?」「7回あたって73のダメージ?」
サゴさんと俺の声が重なる。
……あっ! このおっさん知ってるじゃねぇか。
「この世界に来て最初に宿屋にとまったとき……ミカさんの前で馬小屋ネタで俺が盛大に滑ったとき……助けてくれるどころか知ってて退路を絶ったんですね?」
俺はサゴさんに質す。
「君はいつまでも小さなことを覚えていますね。本当に器も小さいものです」
パーティーを組む前から容赦がなかったが、長く一緒に過ごした現在、その容赦のなさに磨きがかかっている。
「『も』ってなんですか? 『も』って? 器以外に俺の何が小さいって言うんですか?」
「君はもう自分で答えを言っているじゃないですか? それともここではっきり言ったほうが良いですか?」
「……」
「笑いの道は厳しいんですよっ!」
自分だってつまらないネタで黙殺され続けてるくせに。つまらないネタで1人で笑い続けてるくせに。畜生!
「ハゲ……ハゲハゲハゲェー!」
ナナ先輩の地獄突きを食らうまで俺は泣きわめいた。
◆◆◆
「にぎやかだったね、サッちゃん」
「一攫千金を求める人は結構多いんですね」
「だからこそ、まだ参入する余地があるのだ」
チュウジがやたらと偉そうに言う。
「参入しようにも遺物取引をおこなう権利証に払うような金はないぞ?」
「遺物の取引に参入するのが困難でも、探索家たちが拠点としたくなるような場所を作れば、遺物の発見を始めとした迷宮の情報も手に入りやすくなる。そのうえで……」
やつは酒場兼宿屋を作ろうという腹積もりのようだ。
チュウジは胸をはって続けた。
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