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第2部2章 草原とヒト
092 大草原の一発芸
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味方の数は750くらいとなった。
当初考えていたのより多くなったのは、血気盛んなじいさんたちが武器を磨き出し、止める若者を張り倒すという光景が各地で繰り広げられたかららしい。
身近にも喜々として槍を磨き、弓の弦を確かめていたじいさんがいたが、何か言おうものならば、殴られることは確実であったので、じいさんの孫3人も俺たちも放っておいた。実際、1人でも多くの戦士が欲しいし、チュオじいさんは普通に強い。
正面に400、右翼に120、左翼に120と分けて配置する。
正面はチュオじいさんが指揮をとる。右翼はオークの氏族の戦士団のリーダー、左翼はじいさんの孫のグワンさんが指揮する。左翼側には宣教師二人組も入る。
正面の部隊は決死隊で騎士の突撃を受け止めることになる。ここはソもオークも血気盛んなじいさんとじいさん予備軍が中心になった。止める若者はやはり殴り飛ばされていた。
「お前はウシの一番うまいところを年長者に譲らず自分で食べるつもりか」
めったにウシをつぶしたりしないくせにウシの肉が実は大好きな彼らは妙なたとえかたをする。正面で敵を受け止めるのは戦士として一番美味しいところらしい。
サゴさんは年齢的には自分もそこに配属されるべきだと主張したが、チュオじいさんに髪をむしられたうえで自分が率いてきた仲間の面倒も見ないとは何事だと説教をされていた。
残りの100名ちょっとはだまし討ち部隊だ。
だまし討ち部隊の先鋒にはチュウジが入る。指揮はじいさんの孫ラーンさん。
その後詰めにチュウジを除く俺たち4名は入る。ただし、サチさんは基本的に後ろで護衛をつけて待機する。指揮はジョクさん。
だまし討ち部隊の先鋒は全員がうちのキャンプの若者で、後詰めは様々なキャンプの混成部隊だ。
対する敵は予想通り600ちょっとだった。
騎士100名とその従士同数、合計200の騎兵が前列に並ぶ。
敵ながら格好いい。
悔しいが向こうのほうが正義の味方にみえる。
騎兵の斜め後ろに歩兵が並んでいる。
騎兵の突撃力で一気にかたをつけようという陣形なのだろう。
1人の男が前に出てきて大音声で要求を告げる。
「偉大なる神にして神々の恵みを拒否し、あろうことか蛮行を働いた者どもよ。悔い改めて首謀者を自分たちの手で裁き、許しを請うのだ。さすれば、我々は寛大な態度で教え導くことを考えようではないか」
こちらの陣地からはチュオじいさんが進み出て大音声で返答する。
ソとオークたちがこぞって大笑いする中で壮年の男性がこれまた大音声でそれを通訳する。
「尻の穴に睾丸を隠した者どもよ。お前らの睾丸が腐って落ちる前に我らが切り落としてやろう」
ちょっと玉がきゅんとする。
でも、玉は尻の穴まで届かないよな。まさかじいさんの玉はそんなに長いのかしら。戦闘が終わったら聞いてみよう。だから、じいさん、睾丸も命も大事にしてくれ。
俺たちはウシの群れとともに移動する。
武器がなるべき見えないようにじわじわと移動する。
「ウシは格好の略奪品だ。というか、ソはウシ以外に換金可能なものを持っていない。ならば、歩く財産を腐ってすぐに換金できなくなる死体に変えるようなことを敵はしないであろう」
チュウジが作戦会議のときにいった言葉だ。
これは別にチュウジでなくとも誰もが思っていたことだ。
「だからウシとともに移動している者がいたとしても、矢を射掛けてくる可能性は低いし、我々を蹴散らした後に追いついて全て収奪すれば良いと考えるだろう」
これもまぁそのとおりだ。
俺たちがウシにまぎれてじわじわと移動する中、騎士たちが突撃を開始する。
騎士のあとを徒士の兵士たちが走っていく。
ソとオークの連合軍は皆が弓矢を放って敵の足を止めようとする。
徒歩の兵士はともかく、ウマまで俺たちより立派な鎧をつけている騎士たちはほとんど倒れない。
俺たちはそれを横目にウシとともに移動する。
敵がこちらに反応しないところをみると、ウシとともに逃げ出そうとしているように見えているのであろう。
「ウシは群れで移動する。先頭のウシが走れば、それに他のウシも追随する」
この言葉もウシの性質を説明したに過ぎない。
正面の部隊が大盾と槍を構えて、突撃に備える。
対騎兵用の長槍ではないので、そのままだと彼らの大半は貫かれ、踏み潰されるだろう。
大草原の一発芸が始まる。
「牛乗りレオンとは我のことよ! 全員、突撃! 我に続け!」
冗談みたいな台詞を誇らしげに叫ぶと、チュウジとロウ氏族の若者たちがウシにまたがり突進する。
そのあとを無人のウシも追従していく。
ウマよりは遅いもののかなりのスピードでウシの群れは走っていく。
「あいつ、バカだし中2病が取り返しのつかないとこまで進んでるし、今も冗談みたいなことやってるけど……今だけちょっとかっこいいわ」
兜のバイザーをおろしながら、隣のミカにつぶやく。
「でしょでしょ! だから、2人は愛し合っていいんだからっ!」
お約束の腐女子トークで隣にいるリスみたいな女の子は俺の緊張をほぐしてくれる。
重騎士たちの横っ腹に向かって、ウシの群れがぶつかる。
まさか敵もウシ騎兵が突撃してくるなどという冗談みたいな状況を想定していないだろう。
この世界のウシは頭から鼻先までをヘルメット状の角で覆われている。
正面に限っていえば、無敵の守りである。
そして体重は鎧をつけたウマよりもおそらく重い。
先頭の騎士たちがソの正面部隊を蹴散らし、踏み潰す中、側面と後方の騎士たちはウシの体当たりを受け、ウマとともに横転していた。
横転したウマや騎士をウシ騎兵は容赦なく潰していく。
歩兵を蹴散らす騎兵を横や後ろからウシが押し倒す混戦となり、騎士たちは突撃戦法を封じられる。
敵を容赦なく蹴散らしていくはずだった騎士たちの思わぬ苦戦を前にして浮足立った歩兵隊をソ・オーク連合軍の右翼と左翼が包むようにして襲う。
軽装の歩兵同士が乱戦状態になれば、練度の高いほうが有利だ。
敵の歩兵が崩れていく。
俺たちだまし討ち隊の後詰めは敵の本陣に突撃していく。
騎士たちが混乱状態から回復する前に敵本陣を打ち崩すのが俺たちの役割である。
ぬりかべとカッパと鬼が再び走り出す。
当初考えていたのより多くなったのは、血気盛んなじいさんたちが武器を磨き出し、止める若者を張り倒すという光景が各地で繰り広げられたかららしい。
身近にも喜々として槍を磨き、弓の弦を確かめていたじいさんがいたが、何か言おうものならば、殴られることは確実であったので、じいさんの孫3人も俺たちも放っておいた。実際、1人でも多くの戦士が欲しいし、チュオじいさんは普通に強い。
正面に400、右翼に120、左翼に120と分けて配置する。
正面はチュオじいさんが指揮をとる。右翼はオークの氏族の戦士団のリーダー、左翼はじいさんの孫のグワンさんが指揮する。左翼側には宣教師二人組も入る。
正面の部隊は決死隊で騎士の突撃を受け止めることになる。ここはソもオークも血気盛んなじいさんとじいさん予備軍が中心になった。止める若者はやはり殴り飛ばされていた。
「お前はウシの一番うまいところを年長者に譲らず自分で食べるつもりか」
めったにウシをつぶしたりしないくせにウシの肉が実は大好きな彼らは妙なたとえかたをする。正面で敵を受け止めるのは戦士として一番美味しいところらしい。
サゴさんは年齢的には自分もそこに配属されるべきだと主張したが、チュオじいさんに髪をむしられたうえで自分が率いてきた仲間の面倒も見ないとは何事だと説教をされていた。
残りの100名ちょっとはだまし討ち部隊だ。
だまし討ち部隊の先鋒にはチュウジが入る。指揮はじいさんの孫ラーンさん。
その後詰めにチュウジを除く俺たち4名は入る。ただし、サチさんは基本的に後ろで護衛をつけて待機する。指揮はジョクさん。
だまし討ち部隊の先鋒は全員がうちのキャンプの若者で、後詰めは様々なキャンプの混成部隊だ。
対する敵は予想通り600ちょっとだった。
騎士100名とその従士同数、合計200の騎兵が前列に並ぶ。
敵ながら格好いい。
悔しいが向こうのほうが正義の味方にみえる。
騎兵の斜め後ろに歩兵が並んでいる。
騎兵の突撃力で一気にかたをつけようという陣形なのだろう。
1人の男が前に出てきて大音声で要求を告げる。
「偉大なる神にして神々の恵みを拒否し、あろうことか蛮行を働いた者どもよ。悔い改めて首謀者を自分たちの手で裁き、許しを請うのだ。さすれば、我々は寛大な態度で教え導くことを考えようではないか」
こちらの陣地からはチュオじいさんが進み出て大音声で返答する。
ソとオークたちがこぞって大笑いする中で壮年の男性がこれまた大音声でそれを通訳する。
「尻の穴に睾丸を隠した者どもよ。お前らの睾丸が腐って落ちる前に我らが切り落としてやろう」
ちょっと玉がきゅんとする。
でも、玉は尻の穴まで届かないよな。まさかじいさんの玉はそんなに長いのかしら。戦闘が終わったら聞いてみよう。だから、じいさん、睾丸も命も大事にしてくれ。
俺たちはウシの群れとともに移動する。
武器がなるべき見えないようにじわじわと移動する。
「ウシは格好の略奪品だ。というか、ソはウシ以外に換金可能なものを持っていない。ならば、歩く財産を腐ってすぐに換金できなくなる死体に変えるようなことを敵はしないであろう」
チュウジが作戦会議のときにいった言葉だ。
これは別にチュウジでなくとも誰もが思っていたことだ。
「だからウシとともに移動している者がいたとしても、矢を射掛けてくる可能性は低いし、我々を蹴散らした後に追いついて全て収奪すれば良いと考えるだろう」
これもまぁそのとおりだ。
俺たちがウシにまぎれてじわじわと移動する中、騎士たちが突撃を開始する。
騎士のあとを徒士の兵士たちが走っていく。
ソとオークの連合軍は皆が弓矢を放って敵の足を止めようとする。
徒歩の兵士はともかく、ウマまで俺たちより立派な鎧をつけている騎士たちはほとんど倒れない。
俺たちはそれを横目にウシとともに移動する。
敵がこちらに反応しないところをみると、ウシとともに逃げ出そうとしているように見えているのであろう。
「ウシは群れで移動する。先頭のウシが走れば、それに他のウシも追随する」
この言葉もウシの性質を説明したに過ぎない。
正面の部隊が大盾と槍を構えて、突撃に備える。
対騎兵用の長槍ではないので、そのままだと彼らの大半は貫かれ、踏み潰されるだろう。
大草原の一発芸が始まる。
「牛乗りレオンとは我のことよ! 全員、突撃! 我に続け!」
冗談みたいな台詞を誇らしげに叫ぶと、チュウジとロウ氏族の若者たちがウシにまたがり突進する。
そのあとを無人のウシも追従していく。
ウマよりは遅いもののかなりのスピードでウシの群れは走っていく。
「あいつ、バカだし中2病が取り返しのつかないとこまで進んでるし、今も冗談みたいなことやってるけど……今だけちょっとかっこいいわ」
兜のバイザーをおろしながら、隣のミカにつぶやく。
「でしょでしょ! だから、2人は愛し合っていいんだからっ!」
お約束の腐女子トークで隣にいるリスみたいな女の子は俺の緊張をほぐしてくれる。
重騎士たちの横っ腹に向かって、ウシの群れがぶつかる。
まさか敵もウシ騎兵が突撃してくるなどという冗談みたいな状況を想定していないだろう。
この世界のウシは頭から鼻先までをヘルメット状の角で覆われている。
正面に限っていえば、無敵の守りである。
そして体重は鎧をつけたウマよりもおそらく重い。
先頭の騎士たちがソの正面部隊を蹴散らし、踏み潰す中、側面と後方の騎士たちはウシの体当たりを受け、ウマとともに横転していた。
横転したウマや騎士をウシ騎兵は容赦なく潰していく。
歩兵を蹴散らす騎兵を横や後ろからウシが押し倒す混戦となり、騎士たちは突撃戦法を封じられる。
敵を容赦なく蹴散らしていくはずだった騎士たちの思わぬ苦戦を前にして浮足立った歩兵隊をソ・オーク連合軍の右翼と左翼が包むようにして襲う。
軽装の歩兵同士が乱戦状態になれば、練度の高いほうが有利だ。
敵の歩兵が崩れていく。
俺たちだまし討ち隊の後詰めは敵の本陣に突撃していく。
騎士たちが混乱状態から回復する前に敵本陣を打ち崩すのが俺たちの役割である。
ぬりかべとカッパと鬼が再び走り出す。
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