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第2部2章 草原とヒト
088 悔いても仕方なし
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ベルマンさんの葬儀はソの流儀にそっておこなわれることになった。
彼は「戦士」ではなかったが、一員として認められたようだ。
ベルマンという名のウシはいなかったので、俺たちのウシ一頭を急遽ベルマンと名付け、彼の「旅の供」をさせることになった。
群れの中で一番良さそうなウシを選んで、準備をしている者のところに連れて行く。
葬儀の準備と並行して、状況の把握と今後の方策についての話し合いもおこなわれた。
ラク氏族の青年と俺たちが順番に何があったかについて報告をする。
その後のラクの青年とチュオじいさんたちの話は早口かつところどころお互いに激高することもあって、チュウジやサチさんでも聞き取れないレベルのようだ。
ただ言葉がわからなくても、チュオじいさんがベルマンさんの死について、ラク氏族をかなり非難していることだけはわかる。
一通り話し合いが終わったところで、チュオじいさんはこの地に残った2人の宣教師たちに話しかける。
「お前たちはどうするのか?」
もちろん、この地を離れるのも自由だし、留まっても良い。ただ、どのような選択をするにしても、今後自分たちがどのように扱われるかについては意見が欲しい。
これがチュオじいさんの希望だった。
最初に心からの謝罪をさせてください。ヴィレンさんとレフテラさんはこのような言葉を述べて頭を下げた。
「申し訳ないことばかりなのですが、ここがどうなるのかはわかりません。レフテラをここに残し、わたしは事態の説明とこれから何が起こるのかを確認しにカステに向かおうと考えています」
ラクのところにいた宣教師の行動が許されるものではないことは明らかだし、彼らの死は自分で選び取ったものである。それについて自分たちはラク氏族の人々を非難するつもりは毛頭ない。ただ、逃げ延びた宣教師が自分たちの非を認める可能性は低い。
残念なことに教会の中にはソを一段低い者たちと見ている者たちもいるのが事実だ。
自分たちとしては不問になることが望ましいが、何かしらの調査団を送ってくる可能性や、最悪の場合にはいきなり武力を行使する可能性もありうる。最悪の事態を避けるべく努力をしながら、情報を集めたい。ヴィレンさんはこのように述べた。
そして、最後に、
「何が起こったとしても、私たち2人はあなたたちとともに歩むことを約束します」
と伝えて、もう一度謝罪をした。
ラク氏族とは連絡を頻繁にとること、他の氏族とオークたちにも事件について伝えること、何らかの動きがあるまで見回りを定期的にすること。
このようなことが話し合いの結果、やることとしてリストアップされた。
「何はともあれ、はやく夏の野営地に向かったほうが良いだろう。距離があれば時間稼ぎにもなるし、もしかしたら、諦めてくれるかもしれない」
ジョクさんが東屋での会議をまとめる。
外に出ると、すでにベルマンさんの遺体が穴の底に丁寧に横たえられている。
ヴィレンさんがナイフを手にし、チュオじいさんの手助けを借りながら、ウシの喉を切る。
レフテラさんは木の器に血を受け、それを穴の中に注ぐ。
チュオじいさんが大きな声で告げる。
「ここに我らが1人、ベルマンが供を連れて旅立つ。彼は武器を持つことはなかったが立派な戦士だった」
「彼は戦士であった!」
皆で唱和をする。
「我らは彼を休息所に送る。彼は我らを待つであろう」
「彼はソとして生きた!」
チュオじいさんはベルマンさんの人柄と勇気を讃え、穴に土をかける。
人々は順々に土をかけていき、ベルマンさんの姿が見えなくなる。
「明日は早いですが、一杯だけやりましょう」
俺とチュウジはヴィレンさんの供をして、明日カステに向かうことになっている。
ウマを使えば、徒歩の半分の日数で街にたどり着ける。
鞍がのったウマの数が少ないため、俺はチュウジと二人乗りだし、他のメンバーは留守番になるけれど。
献杯。
俺はコップに入った一杯をぐっと飲み干すと、少しだけ肉を貰って、すぐに小屋に戻る。
ああ、どうすれば良かったのだろう、どうすれば良いのだろう……そんなことを考えているうちに意識が遠のいていく。
◆◆◆
朝が来た。必要最低限の荷物にする。
武器も金砕棒のようにかさばるものは置いていくことにした。
「2人夜な夜な愛を確かめあっても良いからねっ!」
その代わり報告は絶対だよ。ミカは明るい声で言うが、不安そうだ。
少しでも彼女の不安を和らげたい。
「やなこった」
俺はアカンベーをしてから、膝を曲げて彼女の顔をのぞきこむ。
彼女の頬が赤みをおびる。
たまにはこっちからやりかえしてやろうと、ほっぺたをひっぱってみる。
「うーん、すべすべもちもちー」
彼女は黙ってこちらを見ている。
まだ不安そうな目だ。
「大丈夫だよ。チュウジに惚れたって、君を捨てたりしないさ」
彼女が微笑んだところで、手を握り、すぐ帰るよとだけ伝える。
「よしっ、エネルギー充填完了! さっ、行こうぜ」
チュウジはサチさんとの別れを済ませて、すでにウマに乗っている。
俺はあぶみに足をかけて、引っ張り上げてもらう。
チュウジの背中にしがみつく。
ミカとサチさんがにやにやしている。
彼女たちのサービスにチュウジに頬ずりしてやる。
腐ったお嬢様方から黄色い歓声が飛ぶ。
「やめるのだ! 気色が悪い!」
ウマがゆっくりとあるき出した。
彼は「戦士」ではなかったが、一員として認められたようだ。
ベルマンという名のウシはいなかったので、俺たちのウシ一頭を急遽ベルマンと名付け、彼の「旅の供」をさせることになった。
群れの中で一番良さそうなウシを選んで、準備をしている者のところに連れて行く。
葬儀の準備と並行して、状況の把握と今後の方策についての話し合いもおこなわれた。
ラク氏族の青年と俺たちが順番に何があったかについて報告をする。
その後のラクの青年とチュオじいさんたちの話は早口かつところどころお互いに激高することもあって、チュウジやサチさんでも聞き取れないレベルのようだ。
ただ言葉がわからなくても、チュオじいさんがベルマンさんの死について、ラク氏族をかなり非難していることだけはわかる。
一通り話し合いが終わったところで、チュオじいさんはこの地に残った2人の宣教師たちに話しかける。
「お前たちはどうするのか?」
もちろん、この地を離れるのも自由だし、留まっても良い。ただ、どのような選択をするにしても、今後自分たちがどのように扱われるかについては意見が欲しい。
これがチュオじいさんの希望だった。
最初に心からの謝罪をさせてください。ヴィレンさんとレフテラさんはこのような言葉を述べて頭を下げた。
「申し訳ないことばかりなのですが、ここがどうなるのかはわかりません。レフテラをここに残し、わたしは事態の説明とこれから何が起こるのかを確認しにカステに向かおうと考えています」
ラクのところにいた宣教師の行動が許されるものではないことは明らかだし、彼らの死は自分で選び取ったものである。それについて自分たちはラク氏族の人々を非難するつもりは毛頭ない。ただ、逃げ延びた宣教師が自分たちの非を認める可能性は低い。
残念なことに教会の中にはソを一段低い者たちと見ている者たちもいるのが事実だ。
自分たちとしては不問になることが望ましいが、何かしらの調査団を送ってくる可能性や、最悪の場合にはいきなり武力を行使する可能性もありうる。最悪の事態を避けるべく努力をしながら、情報を集めたい。ヴィレンさんはこのように述べた。
そして、最後に、
「何が起こったとしても、私たち2人はあなたたちとともに歩むことを約束します」
と伝えて、もう一度謝罪をした。
ラク氏族とは連絡を頻繁にとること、他の氏族とオークたちにも事件について伝えること、何らかの動きがあるまで見回りを定期的にすること。
このようなことが話し合いの結果、やることとしてリストアップされた。
「何はともあれ、はやく夏の野営地に向かったほうが良いだろう。距離があれば時間稼ぎにもなるし、もしかしたら、諦めてくれるかもしれない」
ジョクさんが東屋での会議をまとめる。
外に出ると、すでにベルマンさんの遺体が穴の底に丁寧に横たえられている。
ヴィレンさんがナイフを手にし、チュオじいさんの手助けを借りながら、ウシの喉を切る。
レフテラさんは木の器に血を受け、それを穴の中に注ぐ。
チュオじいさんが大きな声で告げる。
「ここに我らが1人、ベルマンが供を連れて旅立つ。彼は武器を持つことはなかったが立派な戦士だった」
「彼は戦士であった!」
皆で唱和をする。
「我らは彼を休息所に送る。彼は我らを待つであろう」
「彼はソとして生きた!」
チュオじいさんはベルマンさんの人柄と勇気を讃え、穴に土をかける。
人々は順々に土をかけていき、ベルマンさんの姿が見えなくなる。
「明日は早いですが、一杯だけやりましょう」
俺とチュウジはヴィレンさんの供をして、明日カステに向かうことになっている。
ウマを使えば、徒歩の半分の日数で街にたどり着ける。
鞍がのったウマの数が少ないため、俺はチュウジと二人乗りだし、他のメンバーは留守番になるけれど。
献杯。
俺はコップに入った一杯をぐっと飲み干すと、少しだけ肉を貰って、すぐに小屋に戻る。
ああ、どうすれば良かったのだろう、どうすれば良いのだろう……そんなことを考えているうちに意識が遠のいていく。
◆◆◆
朝が来た。必要最低限の荷物にする。
武器も金砕棒のようにかさばるものは置いていくことにした。
「2人夜な夜な愛を確かめあっても良いからねっ!」
その代わり報告は絶対だよ。ミカは明るい声で言うが、不安そうだ。
少しでも彼女の不安を和らげたい。
「やなこった」
俺はアカンベーをしてから、膝を曲げて彼女の顔をのぞきこむ。
彼女の頬が赤みをおびる。
たまにはこっちからやりかえしてやろうと、ほっぺたをひっぱってみる。
「うーん、すべすべもちもちー」
彼女は黙ってこちらを見ている。
まだ不安そうな目だ。
「大丈夫だよ。チュウジに惚れたって、君を捨てたりしないさ」
彼女が微笑んだところで、手を握り、すぐ帰るよとだけ伝える。
「よしっ、エネルギー充填完了! さっ、行こうぜ」
チュウジはサチさんとの別れを済ませて、すでにウマに乗っている。
俺はあぶみに足をかけて、引っ張り上げてもらう。
チュウジの背中にしがみつく。
ミカとサチさんがにやにやしている。
彼女たちのサービスにチュウジに頬ずりしてやる。
腐ったお嬢様方から黄色い歓声が飛ぶ。
「やめるのだ! 気色が悪い!」
ウマがゆっくりとあるき出した。
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