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第2部2章 草原とヒト
082 放牧地襲撃
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今回の襲撃はジョクとラーン、グワンのチュオじいさんの孫3人と俺たち5名でおこなう。
チュオじいさんは襲撃には参加しないらしい。
「祖父はまだまだ現役の戦士にも引けをとらない。しかし、そろそろ若者に活躍の場を譲るべき頃合いだ」
ジョクさんがそう言うと、チュオじいさんを囲む孫たちがみんなでうなずく。
じいさんだけが不満そうだ。
まぁ、確かにじいさんの顔に筋骨隆々の体をくっつけた悪い冗談みたいな姿をしているんだ。
まだまだやれるという気持ちがあるんだろう。
「お前らが小便を漏らさないか心配だと彼は言っている」
ラーンさんがじいさんの言葉を通訳してくれる。
漏らさないかと言われると正直なところ自信はない。
でも、余計なお世話だ。
「漏らしたら、夜中にこっそり洗うから大丈夫だと言ってください」
俺がそう言うと、ラーンさんが笑いながら通訳してくれる。
チュオじいさんはニヤッと笑うと、俺の股間をギュッと握りしめた。
いきなり握るなよ、漏らしたらどうすんだよ。
◆◆◆
家畜泥棒には、いくつかのルールがあるらしい。
8名前後でおこなうこと、騎乗しないこと、相手が引いたら追撃しないこと、ウシを傷つけないこと。
奇襲は1射のみ、あとは必ず戦いの前の口上を述べること。
ゲームみたいだ。あるいは鎌倉時代の武士かなにかか。
「戦士としての名誉をかけて戦うのだ」
チュオじいさんの言葉に見送られて、俺たちはオークが放牧しているというところに向かう。
遠くにウシが見えた頃、ジョクさんが俺たちのほうを向いて言う。
「ラーンが射ったあとに俺が口上を述べる。それが済んだら思う存分戦え」
革の鎧で隠れていなかったら、背筋が大きく波打つの見えるに違いない。
ラーンさんがデカイ背中をさらにひろげて大きく弓を引く。
矢が放たれる。
1人のオークが背中に矢を受けて転がる。
ウシに囲まれた中でよく当てるものだ。
近づきながらジョクさんが口上を述べる。
何を言っているのかわからないが、これが通じるということは、ソとオークの言葉は近いのかもしれない。
俺は首を軽く回す。
ミカのほうを見る。
彼女の背中をぽんぽんと叩く。
彼女はにっと笑うと、バシネットのバイザーを下げる。
俺もバシネットのバイザーを下げる。
地面についていた金砕棒を肩にかつぐ。
ジョクさんの口上が終わったようだ。
俺は金砕棒を八相に構える。
ジョクさんが戦闘の開始を告げる。
オークは9人、1人はすでに矢で射られて戦闘不能状態だ。
ゆっくりと俺たちは歩を進める。
サチさんとサゴさんには後方に控えていてもらう。
ウシを傷つけてはならないという「ルール」がある以上、積極的な援護射撃はできないかもしれないが、それでも癒し手は俺たちの文字通り生命線だ。
いつもならば乱戦を制する大事な戦力であるサゴさんだが、ここではブレスを使えない。だから、後ろでサチさんの護衛に徹してもらう。
後方にいれば、寄ってきた敵にブレスを使ってもウシに届くことはないだろうという目論見もある。
チュウジも乱戦向きではないが、こいつはまぁちょこまかと動くのでなんとかなるだろう。
横並びで進む残りの6人に対して、手に槍と大盾をもったオークたちもゆらりと進んでくる。
俺たちが襲撃されたときと同様に牧歌的だが殺意に満ちた戦いが始まる。
接敵する。
案の定というべきか2人のオークが後方に駆け抜けていく。
ブロックしたいところだが、残念ながら、俺を含めみんな自分の前の敵で精一杯のようだ。
俺の目の前のやつは槍で突いてこない。
大盾を前に出し、槍を軽く動かしたりして、俺の動きを測っているようだ。
俺は自分の間合いに入れていない。
ここなら潰せる、それを示す赤いモヤは一向にやつにかからない。
敵のほうが間合いが遠い。
槍を持っているのだから当たり前だ。
滅多矢鱈と突いてきてくれれば、そのすきに自分の間合いまで踏み込めるが、こいつはそうさせてくれない。
やるなぁ。
命のやり取りなのに、俺は妙に楽しくなっている。
いや興奮しているといったほうがいいかもしれない。
憎しみもない、悲しみもない。
ただ相手との間合いをはかり、言葉のない会話を交わす。
ぐっと相手の肩が上がる。
槍の一撃をくれてやる。肩の動きが俺に告げる。
でも、おどしだ。
〈来るのか? 来ないだろ。わかってるぜ〉
俺は返事として、軽く左足を半歩進める。
〈ほら来ないなら俺から行くぜ〉
こらえきれなくなったのか相手が突いてくる。
右にさばきながら一気に踏み込む。
ここから直接打ち込んでも盾に阻まれる。
引き戻す前の槍の柄にに金砕棒を叩き込む。
穂先が地面に落ちて、めきっという感触とともに相手の槍が折れる。
大盾の一撃をかわせずに俺はよろめいて後方に下がる。
オークは腰から手斧を抜く。
革の兜に覆われていない口もとが開き、にやっと笑う。
目もらんらんと輝いている。
たぶん、俺の目も同じく輝いているのだろう。
第2ラウンド開始だ。
俺は金砕棒を脇に構える。
兜で隠れているせいで、お前に俺の素敵な笑顔を見せられなくて残念だ。
興奮し過ぎで、家の犬みたく嬉ションしそうだよ。
お互いにゆっくりと進む。
盾ごと飛ばしてやる。
俺は一気に踏み込み、相手の大盾に金砕棒の一撃を食らわす。
相手の盾は割れるが、手斧の一撃を頭に食らう。
バシネットの中に星が舞う。
歯を食いしばり、星を追い払う。
手斧の追撃が俺のミトン型の鉄の小手を叩く。
金砕棒が地面に落ちる。
きれいに2つもらった。
防具のおかげで助かっている。
俺は地面を蹴って後ろに飛んで、長剣を抜き、さらに小剣も抜く。
オークは使い物にならなくなった盾を捨てると、その手で短剣を抜いた。
勝負は一瞬。
前に突き出すように構えた小剣をやや上げながら一歩踏み込む。
頭を狙われると思った相手が手斧と短剣を交差させて受けようとする。
俺はもう一歩左足で踏み込みながら、左手の長剣で相手の胴体を相手の脇の下めがけて振り込む。
胴体を切られた相手が血を吐きながら倒れる。
小剣で倒れた相手の喉を突き刺す。
悪いな。
防具がなければあんたの勝ちだったよ。
オークと俺、2人の甘い世界から解き放たれ、俺はあたりを見回す。
まだ勝負はついていないが、さしあたってサゴさんとサチさんが一番危ない。
オークは酸で焼かれながらも武器を振り回している。
サゴさんは武器を振り回して2人を相手にしようとしているが、なかなかうまくいかない。
普段は戦闘に参加しないサチさんも小剣を抜いて、相手の攻撃を避けようとしている。ただ、技量的にも戦いのときの度胸的にも彼女が落ちるのは時間の問題だ。
俺は2人のところにかけつける。
サチさんに攻撃をしかけようとしているオークの背中に左右の剣で同時に斬り込む。
動きの止まった相手にサチさんが小剣をうずめる。
よく頑張った。
俺とサゴさんはもう1体のオークを囲むと一気に葬った。
涙目で立ち尽くすサチさんの肩を叩く。
「よくやったよ」
俺の言葉にサチさんが無言でうなずく。
膠着していた戦況はここで俺たちの有利となった。
俺とサゴさんは前方に突進すると、ミカと戦っていた相手を一気に片付ける。
8対4となったところでオークたちは後退した。
「ルール」に従って、俺たちは追撃しない。
こうして俺たちは53頭のウシを手に入れて、キャンプに帰還した。
チュオじいさんは襲撃には参加しないらしい。
「祖父はまだまだ現役の戦士にも引けをとらない。しかし、そろそろ若者に活躍の場を譲るべき頃合いだ」
ジョクさんがそう言うと、チュオじいさんを囲む孫たちがみんなでうなずく。
じいさんだけが不満そうだ。
まぁ、確かにじいさんの顔に筋骨隆々の体をくっつけた悪い冗談みたいな姿をしているんだ。
まだまだやれるという気持ちがあるんだろう。
「お前らが小便を漏らさないか心配だと彼は言っている」
ラーンさんがじいさんの言葉を通訳してくれる。
漏らさないかと言われると正直なところ自信はない。
でも、余計なお世話だ。
「漏らしたら、夜中にこっそり洗うから大丈夫だと言ってください」
俺がそう言うと、ラーンさんが笑いながら通訳してくれる。
チュオじいさんはニヤッと笑うと、俺の股間をギュッと握りしめた。
いきなり握るなよ、漏らしたらどうすんだよ。
◆◆◆
家畜泥棒には、いくつかのルールがあるらしい。
8名前後でおこなうこと、騎乗しないこと、相手が引いたら追撃しないこと、ウシを傷つけないこと。
奇襲は1射のみ、あとは必ず戦いの前の口上を述べること。
ゲームみたいだ。あるいは鎌倉時代の武士かなにかか。
「戦士としての名誉をかけて戦うのだ」
チュオじいさんの言葉に見送られて、俺たちはオークが放牧しているというところに向かう。
遠くにウシが見えた頃、ジョクさんが俺たちのほうを向いて言う。
「ラーンが射ったあとに俺が口上を述べる。それが済んだら思う存分戦え」
革の鎧で隠れていなかったら、背筋が大きく波打つの見えるに違いない。
ラーンさんがデカイ背中をさらにひろげて大きく弓を引く。
矢が放たれる。
1人のオークが背中に矢を受けて転がる。
ウシに囲まれた中でよく当てるものだ。
近づきながらジョクさんが口上を述べる。
何を言っているのかわからないが、これが通じるということは、ソとオークの言葉は近いのかもしれない。
俺は首を軽く回す。
ミカのほうを見る。
彼女の背中をぽんぽんと叩く。
彼女はにっと笑うと、バシネットのバイザーを下げる。
俺もバシネットのバイザーを下げる。
地面についていた金砕棒を肩にかつぐ。
ジョクさんの口上が終わったようだ。
俺は金砕棒を八相に構える。
ジョクさんが戦闘の開始を告げる。
オークは9人、1人はすでに矢で射られて戦闘不能状態だ。
ゆっくりと俺たちは歩を進める。
サチさんとサゴさんには後方に控えていてもらう。
ウシを傷つけてはならないという「ルール」がある以上、積極的な援護射撃はできないかもしれないが、それでも癒し手は俺たちの文字通り生命線だ。
いつもならば乱戦を制する大事な戦力であるサゴさんだが、ここではブレスを使えない。だから、後ろでサチさんの護衛に徹してもらう。
後方にいれば、寄ってきた敵にブレスを使ってもウシに届くことはないだろうという目論見もある。
チュウジも乱戦向きではないが、こいつはまぁちょこまかと動くのでなんとかなるだろう。
横並びで進む残りの6人に対して、手に槍と大盾をもったオークたちもゆらりと進んでくる。
俺たちが襲撃されたときと同様に牧歌的だが殺意に満ちた戦いが始まる。
接敵する。
案の定というべきか2人のオークが後方に駆け抜けていく。
ブロックしたいところだが、残念ながら、俺を含めみんな自分の前の敵で精一杯のようだ。
俺の目の前のやつは槍で突いてこない。
大盾を前に出し、槍を軽く動かしたりして、俺の動きを測っているようだ。
俺は自分の間合いに入れていない。
ここなら潰せる、それを示す赤いモヤは一向にやつにかからない。
敵のほうが間合いが遠い。
槍を持っているのだから当たり前だ。
滅多矢鱈と突いてきてくれれば、そのすきに自分の間合いまで踏み込めるが、こいつはそうさせてくれない。
やるなぁ。
命のやり取りなのに、俺は妙に楽しくなっている。
いや興奮しているといったほうがいいかもしれない。
憎しみもない、悲しみもない。
ただ相手との間合いをはかり、言葉のない会話を交わす。
ぐっと相手の肩が上がる。
槍の一撃をくれてやる。肩の動きが俺に告げる。
でも、おどしだ。
〈来るのか? 来ないだろ。わかってるぜ〉
俺は返事として、軽く左足を半歩進める。
〈ほら来ないなら俺から行くぜ〉
こらえきれなくなったのか相手が突いてくる。
右にさばきながら一気に踏み込む。
ここから直接打ち込んでも盾に阻まれる。
引き戻す前の槍の柄にに金砕棒を叩き込む。
穂先が地面に落ちて、めきっという感触とともに相手の槍が折れる。
大盾の一撃をかわせずに俺はよろめいて後方に下がる。
オークは腰から手斧を抜く。
革の兜に覆われていない口もとが開き、にやっと笑う。
目もらんらんと輝いている。
たぶん、俺の目も同じく輝いているのだろう。
第2ラウンド開始だ。
俺は金砕棒を脇に構える。
兜で隠れているせいで、お前に俺の素敵な笑顔を見せられなくて残念だ。
興奮し過ぎで、家の犬みたく嬉ションしそうだよ。
お互いにゆっくりと進む。
盾ごと飛ばしてやる。
俺は一気に踏み込み、相手の大盾に金砕棒の一撃を食らわす。
相手の盾は割れるが、手斧の一撃を頭に食らう。
バシネットの中に星が舞う。
歯を食いしばり、星を追い払う。
手斧の追撃が俺のミトン型の鉄の小手を叩く。
金砕棒が地面に落ちる。
きれいに2つもらった。
防具のおかげで助かっている。
俺は地面を蹴って後ろに飛んで、長剣を抜き、さらに小剣も抜く。
オークは使い物にならなくなった盾を捨てると、その手で短剣を抜いた。
勝負は一瞬。
前に突き出すように構えた小剣をやや上げながら一歩踏み込む。
頭を狙われると思った相手が手斧と短剣を交差させて受けようとする。
俺はもう一歩左足で踏み込みながら、左手の長剣で相手の胴体を相手の脇の下めがけて振り込む。
胴体を切られた相手が血を吐きながら倒れる。
小剣で倒れた相手の喉を突き刺す。
悪いな。
防具がなければあんたの勝ちだったよ。
オークと俺、2人の甘い世界から解き放たれ、俺はあたりを見回す。
まだ勝負はついていないが、さしあたってサゴさんとサチさんが一番危ない。
オークは酸で焼かれながらも武器を振り回している。
サゴさんは武器を振り回して2人を相手にしようとしているが、なかなかうまくいかない。
普段は戦闘に参加しないサチさんも小剣を抜いて、相手の攻撃を避けようとしている。ただ、技量的にも戦いのときの度胸的にも彼女が落ちるのは時間の問題だ。
俺は2人のところにかけつける。
サチさんに攻撃をしかけようとしているオークの背中に左右の剣で同時に斬り込む。
動きの止まった相手にサチさんが小剣をうずめる。
よく頑張った。
俺とサゴさんはもう1体のオークを囲むと一気に葬った。
涙目で立ち尽くすサチさんの肩を叩く。
「よくやったよ」
俺の言葉にサチさんが無言でうなずく。
膠着していた戦況はここで俺たちの有利となった。
俺とサゴさんは前方に突進すると、ミカと戦っていた相手を一気に片付ける。
8対4となったところでオークたちは後退した。
「ルール」に従って、俺たちは追撃しない。
こうして俺たちは53頭のウシを手に入れて、キャンプに帰還した。
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