50 / 148
第1部2章 捜索任務
047 帰還、遺憾、新歓3:レオンハルト・C・ライヒテントリット
しおりを挟む
「昨日は2人がおバカなことするから、ナナちゃんの激励会とサッちゃんの歓迎会ができなかったんだからねっ!」
朝、ベッドの上で正座する俺たちの前でミカが仁王立ちになっている。仁王立ちと言っても、迫力はない。盾をもってぬりかべみたくなっていないときの彼女はかわいいだけだ。いや、ぬりかべヴァージョンもかわいいけど。
で、迫力のないかわいい女の子にチュウジと俺は説教をされている。
「ごめんなさい」
「面目ない。すまなかった」
「なんで、あんなおバカなことしたの?みんなびっくりしたんだよ」
「いや、あの暗黒闘気が……」
「そう、我らの闘気が激しくぶつかりあってだな……」
「何言ってるのかわかんないよっ!」
「自分は知らないことを知っている。倫政であったよなっ!」
「ソクラテス。世界は未知と不条理に満ちあふれているのだ。なぁ、シカタよ」
「なんか2人して、あたしを煙に巻こうとしてるっ。今回は許してあげるけど、ふざけ過ぎたらメッだからね!」
うーん、ちょっとメッされるのも良いかもしれない。
「はい、そこののっぽのヘンタイくんはニヤケないのっ! 会は今日やることになったからね」
「そうそう、シカタくんの目が覚めたら、今後についての話し合いがあるんだった。サッちゃんとサゴさんを呼んでくるから、ここでいい子にしてるんだよ」
「正直すまんかった。悪ノリが過ぎた」
「我こそすまなかった。今後はお互いに自重しようではないか」
「おう」
チュウジと俺はぎこちなく休戦協定を結ぶ。
しばらくすると、サゴさん、ミカとサチさんが入ってきた。
「お金の使い方なんですが、提案がありまして……」
サゴさんが切り出す。
「銘無し、卒業しましょう」
探索家には銘無しと呼ばれる新米と銘有りという一段レベルの高い者として認識される者がいる。
レベルが高いといったが、残念ながらレベルやステータスは誰にも見えない。誰がどんな技能を持っているのかも通常はわからない。レベルの高さを測るものは稼ぎだ。依頼をこなしてたくさん稼げるということは、それだけで生存能力と任務遂行能力が高く、優秀であろうということになる。
正式登録にけっこうなお金がいるのだ。確か……。
「金貨1枚。今なら全員分払ってもお釣りが来ます」
サゴさんの言葉にサチさんが続ける。
「私は予め登録されているんで、登録料はいりません」
さすが銀メダル。最初から俺たちとは扱いが違う。
「それで、私がいただいたお金を皆さんの装備、特に防具の強化に当ててほしいなと思ってます。私の力は使わないで済むならそれにこしたことはないですし……」
「でもでも、サッちゃんのお金だよっ。自分で使わないと駄目だよっ」
両手をふりまわして遠慮するミカにチュウジも同調する。
「我は誇り高き暗黒騎士。そのようなものは受け取れぬ」
サチさんは目をキラキラさせてチュウジに言う。
「『前衛で相手を弾き返してくれる役目の者が装備を充実させないと、我の生存確率が下がるので迷惑でしかないのだが』。どっかの暗黒騎士さんがそんなこと言ってたってサゴさんがさっき話してくれましたよ」
チュウジは耳まで真っ赤になる。ざまぁ……いや、これはあいつがもててるのか。となると、ざまぁじゃないな。もげろ、爆ぜろ、腐って落ちろ。
「今回はサチさんの好意に甘えましょう。私たち一蓮托生のパーティーですから」
こうして、俺たちは正規の探索隊として登録することになった。
登録は簡単だった。
お金を払い登録する名前を告げる。
「1週間後に来てください。皆さんのメダルを交換しますから」
1週間後に名前を刻んだメダルをくれるらしい。
「これで、隊商の護衛任務を受けたりできるんですね」
サゴさんが感慨深そうに言う。
「1年に何度も死を覚悟したり、相手の死を感じたりするのは懲り懲りっすよ。できることなら護衛任務をやって、『今回も何もなかったな』とか言ってみたいですよね」
俺が続けると、みんなが首を大きく縦にふる。
◆◆◆
「貴様、名前はなんで登録したのだ?」
トビウオ亭に向かう途中、チュウジが珍しく満面の笑みを浮かべて聞いてくる。
こいつ、笑うと……いや笑ってもかわいくないな。座敷童子から幸運をもたらす能力だけ取り去った感じ(?)だ。
「そりゃ本名に決まってるだろ。シカタ・アキラだよ」
「我は真名で登録したのだ」
「マナ?なにそれ、MPみたいなやつか?」
「真の名のことだ。我が本当の力に目覚めた時につけようと思っていた名だ。登録銘はレオンハルト・C・ライヒテントリットという。今日からこの名で呼んでくれて構わぬからな」
「Cってなんだよ。この世界の文字にCがあるのかよ?」
「そんなもの、わかるわけなかろう。チュウジと書くときの最初の文字を入れてくれと頼んだのだ」
俺たちはこの世界の多くの人間同様、字が読めない。今度、サチさんに教えてもらおうとみんなで話し合ったところだ。
「……なんにせよ、そんな舌噛みそうな名前覚えられないって、チュウジでいいだろ、チュウジで」
「ふむ。多少長かったか。海馬に障害のある貴様のためにレオン・C、あるいはレオ・Cという呼びやすい通称も考えてある。使って良いぞ」
それにしてもこの中二病、ノリノリである。
「……わかったよ、チュウジ、気が向いたらな」
朝、ベッドの上で正座する俺たちの前でミカが仁王立ちになっている。仁王立ちと言っても、迫力はない。盾をもってぬりかべみたくなっていないときの彼女はかわいいだけだ。いや、ぬりかべヴァージョンもかわいいけど。
で、迫力のないかわいい女の子にチュウジと俺は説教をされている。
「ごめんなさい」
「面目ない。すまなかった」
「なんで、あんなおバカなことしたの?みんなびっくりしたんだよ」
「いや、あの暗黒闘気が……」
「そう、我らの闘気が激しくぶつかりあってだな……」
「何言ってるのかわかんないよっ!」
「自分は知らないことを知っている。倫政であったよなっ!」
「ソクラテス。世界は未知と不条理に満ちあふれているのだ。なぁ、シカタよ」
「なんか2人して、あたしを煙に巻こうとしてるっ。今回は許してあげるけど、ふざけ過ぎたらメッだからね!」
うーん、ちょっとメッされるのも良いかもしれない。
「はい、そこののっぽのヘンタイくんはニヤケないのっ! 会は今日やることになったからね」
「そうそう、シカタくんの目が覚めたら、今後についての話し合いがあるんだった。サッちゃんとサゴさんを呼んでくるから、ここでいい子にしてるんだよ」
「正直すまんかった。悪ノリが過ぎた」
「我こそすまなかった。今後はお互いに自重しようではないか」
「おう」
チュウジと俺はぎこちなく休戦協定を結ぶ。
しばらくすると、サゴさん、ミカとサチさんが入ってきた。
「お金の使い方なんですが、提案がありまして……」
サゴさんが切り出す。
「銘無し、卒業しましょう」
探索家には銘無しと呼ばれる新米と銘有りという一段レベルの高い者として認識される者がいる。
レベルが高いといったが、残念ながらレベルやステータスは誰にも見えない。誰がどんな技能を持っているのかも通常はわからない。レベルの高さを測るものは稼ぎだ。依頼をこなしてたくさん稼げるということは、それだけで生存能力と任務遂行能力が高く、優秀であろうということになる。
正式登録にけっこうなお金がいるのだ。確か……。
「金貨1枚。今なら全員分払ってもお釣りが来ます」
サゴさんの言葉にサチさんが続ける。
「私は予め登録されているんで、登録料はいりません」
さすが銀メダル。最初から俺たちとは扱いが違う。
「それで、私がいただいたお金を皆さんの装備、特に防具の強化に当ててほしいなと思ってます。私の力は使わないで済むならそれにこしたことはないですし……」
「でもでも、サッちゃんのお金だよっ。自分で使わないと駄目だよっ」
両手をふりまわして遠慮するミカにチュウジも同調する。
「我は誇り高き暗黒騎士。そのようなものは受け取れぬ」
サチさんは目をキラキラさせてチュウジに言う。
「『前衛で相手を弾き返してくれる役目の者が装備を充実させないと、我の生存確率が下がるので迷惑でしかないのだが』。どっかの暗黒騎士さんがそんなこと言ってたってサゴさんがさっき話してくれましたよ」
チュウジは耳まで真っ赤になる。ざまぁ……いや、これはあいつがもててるのか。となると、ざまぁじゃないな。もげろ、爆ぜろ、腐って落ちろ。
「今回はサチさんの好意に甘えましょう。私たち一蓮托生のパーティーですから」
こうして、俺たちは正規の探索隊として登録することになった。
登録は簡単だった。
お金を払い登録する名前を告げる。
「1週間後に来てください。皆さんのメダルを交換しますから」
1週間後に名前を刻んだメダルをくれるらしい。
「これで、隊商の護衛任務を受けたりできるんですね」
サゴさんが感慨深そうに言う。
「1年に何度も死を覚悟したり、相手の死を感じたりするのは懲り懲りっすよ。できることなら護衛任務をやって、『今回も何もなかったな』とか言ってみたいですよね」
俺が続けると、みんなが首を大きく縦にふる。
◆◆◆
「貴様、名前はなんで登録したのだ?」
トビウオ亭に向かう途中、チュウジが珍しく満面の笑みを浮かべて聞いてくる。
こいつ、笑うと……いや笑ってもかわいくないな。座敷童子から幸運をもたらす能力だけ取り去った感じ(?)だ。
「そりゃ本名に決まってるだろ。シカタ・アキラだよ」
「我は真名で登録したのだ」
「マナ?なにそれ、MPみたいなやつか?」
「真の名のことだ。我が本当の力に目覚めた時につけようと思っていた名だ。登録銘はレオンハルト・C・ライヒテントリットという。今日からこの名で呼んでくれて構わぬからな」
「Cってなんだよ。この世界の文字にCがあるのかよ?」
「そんなもの、わかるわけなかろう。チュウジと書くときの最初の文字を入れてくれと頼んだのだ」
俺たちはこの世界の多くの人間同様、字が読めない。今度、サチさんに教えてもらおうとみんなで話し合ったところだ。
「……なんにせよ、そんな舌噛みそうな名前覚えられないって、チュウジでいいだろ、チュウジで」
「ふむ。多少長かったか。海馬に障害のある貴様のためにレオン・C、あるいはレオ・Cという呼びやすい通称も考えてある。使って良いぞ」
それにしてもこの中二病、ノリノリである。
「……わかったよ、チュウジ、気が向いたらな」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
核醒のカナタ -First Awakening-
ヒロ猫
ファンタジー
日本に住む高校二年生永田カナタはひょんな事から同級生のワキオとマルタと共に別の世界に転移してしまう。様々な困難が待ち受ける中、果たしてカナタは無事に元の世界に戻ることができるのだろうか...
⚠この小説には以下の成分が含まれています。苦手な方はブラウザバックして下さい
・漢字
・細かい描写
・チートスキル無し
・ざまぁ要素ほぼ無し
・恋愛要素ほぼ無し
※小説家になろう、カクヨムでも公開中
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる