2 / 8
運命の人は運命の人だけではありません
【後編】
しおりを挟む
「はい。俺が屋上のドアを開けたとき俺はすぐに彼女に気がついてそーっと彼女の後ろに回って彼女にしがみつきました。」
「やめろ!やめるんだ!」
「離して!お願い!」
「その若さで人生を終わらせるなんて何を考えているんだ!」
「もう、ほっといてよ。離して!」
私はなぜこの男の一人芝居を見ているのだろうか。
でも、なんだか、面白い・・・。
「理由を話せ!」
「言えないわ!」
「説明を聞くまで離さない」
迫真の演技だ。
上手い。
もっと見ていたい。
「お願いよ!離して!」
「嫌だ、もうお前を離さない」
ん?
「離したくない。俺と駆け落ちしよう。」
ん?駆け落ち?
「駄目なの。もうあなとは一緒になれないわ。」
「なぜだ!理由を教えてくれ。」
「私はもうあなたにふさわしくない女なの。」
「なにを言ってるんだ。教えてくれ。頼むよ。お前が好きなんだ。」
「私、あなたと食事をして別れたあとあの人に会ったの。」
「あの人って、龍蔵のことか?」
「うん。待ち伏せされて。」
「それから?」
「ハンカチを口にあてられて。そしたら意識がなくなって。」
「それで?」
「気がついたら・・ホテルのベッドの上にいたの。」
「私、裸だった。分かるでしょう?もう、分かるでしょ?新ちゃん。」
泣き崩れる男。
これは・・・この男の実話だろうか?
まさかね。
しかし本当に迫真の演技だ。
引き込まれてしまう。
「あ、待て、待つんだ。」
「翔子は俺が目を離したすきに車の前に飛び出し、轢かれて死んだよ。血まみれだった。」
今度は独白が始まるのかしら?
「俺はそんな翔子をなんとかしたくて助けたくて必死で周りの人に救急車を呼んでください。」
「救急車お願いしますって必死で必死で叫んで。」
「翔子はもう息をしてなかったよ。それでも俺は翔子の名前を呼び続けた。」
「遠くでサイレンの音がした。」
私は思わず
「それからどうなったの?」って聞いた。
「翔子の葬式に・・・あいつが来たんだよ。」
「あいつって?」
「龍蔵だよ。」
「何食わぬ顔して線香に火をつけ拝んでやがった。」
「そのときあいつ翔子の遺影をみて少し笑ったんだ。許せなかった。」
「だから龍蔵を刺した。腹に一突き、刺してやった。」
「え?葬儀場で刺したの?」
「ああ。あいつが翔子の遺影を見て笑わなければ、また違ったかもな。」
「翔子は俺の生きがいだった。」
「翔子の笑顔を見ているのが好きだった。」
「翔子の笑顔をずっと見ていたかった。」
そのとき屋上のドアが思い切り開いた。
大勢の警察官が突入してきた。
「八木新一だな。」
頷く男。
「山田龍蔵殺人未遂の容疑で逮捕する。」
「龍蔵は生きているのか?」
「ああ、急所が外れてた。」
「そうか。」
手錠をされ連れて行かれる男が私のほうに振り向くと
「お前、死ぬなよ。」
そう言って警察官と一緒に消えて行った。
結局私は自殺はしなかった。
私如きの悩みなんて、小さい小さい。
私は八木新一の側にいたので警察で事情聴取されました。
その時、私を担当した警察官は、私の話を、この八木新一の事件とは関係のない私の悩みまで、私があの屋上から飛び降り自殺をしようとしていた話まで、親身に聞いてくれました。
その後、私はその警察官に何かと悩み事を相談している内に、自然とお付き合いをするようになりました。
そしてその方を恋するようになりました。
恋は実り彼と結婚して3人のわんぱく坊主の母となりました。
八木新一は、違う意味で私の運命の人でした。
彼が、あの日、あのビルの屋上に現れなければ、今の主人と子供たちはいませんでした。
八木新一はもう、出所していることでしょう。
彼が元気で、幸せに暮らしていることを私は願っています。
「お母さん、ごはんまーだ?」
「はい、はい、もうちょっとまってねー。」
「はーい。」
「あ、それぼくんだぞー。」
「おれんだい!」
「お母さーん、お兄ちゃんがぼくのおもちゃーとったー。」
八木新一が、私に言った最後の言葉
「お前、死ぬなよ。」
今も私の心に残っています。
「やめろ!やめるんだ!」
「離して!お願い!」
「その若さで人生を終わらせるなんて何を考えているんだ!」
「もう、ほっといてよ。離して!」
私はなぜこの男の一人芝居を見ているのだろうか。
でも、なんだか、面白い・・・。
「理由を話せ!」
「言えないわ!」
「説明を聞くまで離さない」
迫真の演技だ。
上手い。
もっと見ていたい。
「お願いよ!離して!」
「嫌だ、もうお前を離さない」
ん?
「離したくない。俺と駆け落ちしよう。」
ん?駆け落ち?
「駄目なの。もうあなとは一緒になれないわ。」
「なぜだ!理由を教えてくれ。」
「私はもうあなたにふさわしくない女なの。」
「なにを言ってるんだ。教えてくれ。頼むよ。お前が好きなんだ。」
「私、あなたと食事をして別れたあとあの人に会ったの。」
「あの人って、龍蔵のことか?」
「うん。待ち伏せされて。」
「それから?」
「ハンカチを口にあてられて。そしたら意識がなくなって。」
「それで?」
「気がついたら・・ホテルのベッドの上にいたの。」
「私、裸だった。分かるでしょう?もう、分かるでしょ?新ちゃん。」
泣き崩れる男。
これは・・・この男の実話だろうか?
まさかね。
しかし本当に迫真の演技だ。
引き込まれてしまう。
「あ、待て、待つんだ。」
「翔子は俺が目を離したすきに車の前に飛び出し、轢かれて死んだよ。血まみれだった。」
今度は独白が始まるのかしら?
「俺はそんな翔子をなんとかしたくて助けたくて必死で周りの人に救急車を呼んでください。」
「救急車お願いしますって必死で必死で叫んで。」
「翔子はもう息をしてなかったよ。それでも俺は翔子の名前を呼び続けた。」
「遠くでサイレンの音がした。」
私は思わず
「それからどうなったの?」って聞いた。
「翔子の葬式に・・・あいつが来たんだよ。」
「あいつって?」
「龍蔵だよ。」
「何食わぬ顔して線香に火をつけ拝んでやがった。」
「そのときあいつ翔子の遺影をみて少し笑ったんだ。許せなかった。」
「だから龍蔵を刺した。腹に一突き、刺してやった。」
「え?葬儀場で刺したの?」
「ああ。あいつが翔子の遺影を見て笑わなければ、また違ったかもな。」
「翔子は俺の生きがいだった。」
「翔子の笑顔を見ているのが好きだった。」
「翔子の笑顔をずっと見ていたかった。」
そのとき屋上のドアが思い切り開いた。
大勢の警察官が突入してきた。
「八木新一だな。」
頷く男。
「山田龍蔵殺人未遂の容疑で逮捕する。」
「龍蔵は生きているのか?」
「ああ、急所が外れてた。」
「そうか。」
手錠をされ連れて行かれる男が私のほうに振り向くと
「お前、死ぬなよ。」
そう言って警察官と一緒に消えて行った。
結局私は自殺はしなかった。
私如きの悩みなんて、小さい小さい。
私は八木新一の側にいたので警察で事情聴取されました。
その時、私を担当した警察官は、私の話を、この八木新一の事件とは関係のない私の悩みまで、私があの屋上から飛び降り自殺をしようとしていた話まで、親身に聞いてくれました。
その後、私はその警察官に何かと悩み事を相談している内に、自然とお付き合いをするようになりました。
そしてその方を恋するようになりました。
恋は実り彼と結婚して3人のわんぱく坊主の母となりました。
八木新一は、違う意味で私の運命の人でした。
彼が、あの日、あのビルの屋上に現れなければ、今の主人と子供たちはいませんでした。
八木新一はもう、出所していることでしょう。
彼が元気で、幸せに暮らしていることを私は願っています。
「お母さん、ごはんまーだ?」
「はい、はい、もうちょっとまってねー。」
「はーい。」
「あ、それぼくんだぞー。」
「おれんだい!」
「お母さーん、お兄ちゃんがぼくのおもちゃーとったー。」
八木新一が、私に言った最後の言葉
「お前、死ぬなよ。」
今も私の心に残っています。
3
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活
ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。
「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」
そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢!
そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。
「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」
しかも相手は名門貴族の旦那様。
「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。
◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用!
◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化!
◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!?
「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」
そんな中、旦那様から突然の告白――
「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」
えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!?
「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、
「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。
お互いの本当の気持ちに気づいたとき、
気づけば 最強夫婦 になっていました――!
のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

行き遅れ公爵令嬢が王子に求婚されました−時を越えて結ばれる二人
ぜらいす黒糖
恋愛
38歳のカレン公爵令嬢が年下の王子(20歳)に求婚された。嬉しいけどなんだか納得出来ずに得意の催眠術で王子の本心を確かめようとする。
その後、カレンと王子はめでたく結婚。生まれた息子デービッドはこれまた訳あり事情の前世を持っていた。
そして物語はデービッドを中心に進んで行く・・・。

実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる