《完結》運命の人は運命の人だけではありません

ぜらいす黒糖

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運命の人は運命の人だけではありません

【後編】

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「はい。俺が屋上のドアを開けたとき俺はすぐに彼女に気がついてそーっと彼女の後ろに回って彼女にしがみつきました。」

「やめろ!やめるんだ!」

「離して!お願い!」

「その若さで人生を終わらせるなんて何を考えているんだ!」

「もう、ほっといてよ。離して!」

私はなぜこの男の一人芝居を見ているのだろうか。

でも、なんだか、面白い・・・。

「理由を話せ!」

「言えないわ!」

「説明を聞くまで離さない」

迫真の演技だ。

上手い。

もっと見ていたい。

「お願いよ!離して!」

「嫌だ、もうお前を離さない」

ん?

「離したくない。俺と駆け落ちしよう。」

ん?駆け落ち?

「駄目なの。もうあなとは一緒になれないわ。」

「なぜだ!理由を教えてくれ。」

「私はもうあなたにふさわしくない女なの。」

「なにを言ってるんだ。教えてくれ。頼むよ。お前が好きなんだ。」

「私、あなたと食事をして別れたあとあの人に会ったの。」

「あの人って、龍蔵のことか?」

「うん。待ち伏せされて。」

「それから?」

「ハンカチを口にあてられて。そしたら意識がなくなって。」

「それで?」

「気がついたら・・ホテルのベッドの上にいたの。」

「私、裸だった。分かるでしょう?もう、分かるでしょ?新ちゃん。」

泣き崩れる男。

これは・・・この男の実話だろうか?

まさかね。

しかし本当に迫真の演技だ。

引き込まれてしまう。

「あ、待て、待つんだ。」

「翔子は俺が目を離したすきに車の前に飛び出し、轢かれて死んだよ。血まみれだった。」

今度は独白が始まるのかしら?

「俺はそんな翔子をなんとかしたくて助けたくて必死で周りの人に救急車を呼んでください。」

「救急車お願いしますって必死で必死で叫んで。」

「翔子はもう息をしてなかったよ。それでも俺は翔子の名前を呼び続けた。」

「遠くでサイレンの音がした。」

私は思わず 

「それからどうなったの?」って聞いた。

「翔子の葬式に・・・あいつが来たんだよ。」

「あいつって?」

「龍蔵だよ。」

「何食わぬ顔して線香に火をつけ拝んでやがった。」

「そのときあいつ翔子の遺影をみて少し笑ったんだ。許せなかった。」

「だから龍蔵を刺した。腹に一突き、刺してやった。」

「え?葬儀場で刺したの?」

「ああ。あいつが翔子の遺影を見て笑わなければ、また違ったかもな。」

「翔子は俺の生きがいだった。」

「翔子の笑顔を見ているのが好きだった。」

「翔子の笑顔をずっと見ていたかった。」

そのとき屋上のドアが思い切り開いた。

大勢の警察官が突入してきた。

「八木新一だな。」

頷く男。

「山田龍蔵殺人未遂の容疑で逮捕する。」

「龍蔵は生きているのか?」

「ああ、急所が外れてた。」

「そうか。」

手錠をされ連れて行かれる男が私のほうに振り向くと

「お前、死ぬなよ。」

そう言って警察官と一緒に消えて行った。


結局私は自殺はしなかった。

私如きの悩みなんて、小さい小さい。

私は八木新一の側にいたので警察で事情聴取されました。

その時、私を担当した警察官は、私の話を、この八木新一の事件とは関係のない私の悩みまで、私があの屋上から飛び降り自殺をしようとしていた話まで、親身に聞いてくれました。

その後、私はその警察官に何かと悩み事を相談している内に、自然とお付き合いをするようになりました。

そしてその方を恋するようになりました。

恋は実り彼と結婚して3人のわんぱく坊主の母となりました。

八木新一は、違う意味で私の運命の人でした。

彼が、あの日、あのビルの屋上に現れなければ、今の主人と子供たちはいませんでした。

八木新一はもう、出所していることでしょう。

彼が元気で、幸せに暮らしていることを私は願っています。


「お母さん、ごはんまーだ?」

「はい、はい、もうちょっとまってねー。」

「はーい。」

「あ、それぼくんだぞー。」

「おれんだい!」

「お母さーん、お兄ちゃんがぼくのおもちゃーとったー。」


八木新一が、私に言った最後の言葉

「お前、死ぬなよ。」

今も私の心に残っています。





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