愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらちん黒糖

文字の大きさ
15 / 104
第二章 

⑮オリビアの息子ジェームズ

しおりを挟む
ヤンセン伯爵家の執務室に当主クロッグと執事のループが相談をしていた。

「旦那様、ヤンセン伯爵家は存続はしていくでしょうが、ヤンセン伯爵家の血筋は旦那様で終わることになります」

執事のループが冷静に話す。

「旦那様には養女にされたダニーお嬢様しかおりません」

目を瞑って黙って執事ループの話に耳を傾けるクロッグ。

「旦那様の亡き妹君のオリビア様には、御子息ジェームズ様がいらっしゃいます」

「ダニーお嬢様とジェームズ様を結びつけてはいかがでしょうか?」

クロッグが執事ループの顔を見る。

「ジェームズとか……」

「はい。旦那様と同じご両親からお生まれになったオリビア様のお子ならば、ヤンセン伯爵家の継承者にふさわしいかと。そして例えダニー様と結ばれなくとも、ジェームズ様の人柄が良ければ爵位を継承されても良いかもしれません」

「そうだな、それも……いいかもしれんな」

執事は二人の身辺調査の報告書をクロッグに渡す。

「ふーん、二人とも特定の相手はいないと書いてあるな。ジェームズも地元の学校、高等部を卒業している……」

「そこで作戦なのですが……」


一ヶ月後……。

ヤンセン伯爵家 食堂 夜

夕食も終わりクロッグと娘のダニーは飲み物を飲みながら寛いでいた。

「ダニー、話がある」

「何でしょうか?お父様」

「今度、我が屋敷に執事見習いとして一人の青年が住むことになる。ただし一ヶ月間は客人扱いとするがな」

「どのような方なのですか?」

「その青年は、私の亡き妹、オリビアの息子なのだ。ジェームズと言ってな。苦労をして来たから、暫く休ませてやりたい」

「まあ、そうだったのですか。わかりましたわ、お父様」

「ダニーもジェームズに親切にしてやってくれ」

「はい、お父様」



10日前。

酒場「オリビア」の店のドアが開いて一人の紳士が入って来た。

「いらっしゃい」

ジェームズが声をかけるとその紳士は真っ直ぐにジェームズの方に歩いて来て

「ビールと何か食べるものくれるかな?」

そう言って近くのテーブル席に座った。

「お客さん、野菜炒めくらいしかできないけどいい?」

「ああ」

ジェームズは手際よく野菜を刻み鍋に入れて炒めて行く。

トレーにビールとグラス、野菜炒めを入れたお皿をのせて、紳士のテーブルに置いた。

「お客さん、なんでさっきから俺の顔を見ているんだ?あんた誰?」

「大きくなったな、ジェームズ」

紳士の眼差しに、母、オリビアの面影が重なる。

「もしかして……あんた母さんの知り合い?」

「オリビアは私の妹だよ。君とは叔父と甥の間柄になるかな」

「じゃあ、クロッグさんなのか?」

「そうだ、クロッグ・ヤンセンだ」

ジェームズは姿勢を正し、クロッグに深々とお辞儀をした。

「叔父さん、礼を言うよ」

「……」

「母さんから聞いたよ。うちに今まで援助をしてくれていたらしいね。母さんの入院代まで払ってくれて。本当にありがとうございました」

「気にするな。可愛い妹のためにしたことだ」

クロッグはジェームズに座るように勧めるた。

「恩に感じてくれる君に、ちょっと言いにくいのだが、君にお願いがある」

「お願い?」

「我が娘、ダニーと結婚してくれないか?」

「はあ?」

「心配しなくていいよ。ダニーとは血縁はない。養女なんだ」

「……」

「無理に結婚をしてくれと言ってる訳じゃない。断るなら断ってくれてもいい」

「……」

「一ヶ月だけ、一緒に暮らしてみないか?少し長い期間のお見合いのようなものだ。そして2人が両想いになったら結婚して欲しい。どうかな?」

ジェームズはしばしの間、下を向いて考えを巡らせた。そして 決心したように クロッグに返事をする。

「わかりました。叔父さんには恩があるし……」

「ただし、条件がある」

「条件?」

「一ヶ月後、二人が相思相愛になっていればいいが問題はないのだが……」

「……」

「最悪なのは一ヶ月後、ダニーが君を愛しているのに、君がダニーを愛していない場合だ」

「……」

「その時は、自分の心に嘘をつかないでほしい。心にもない優しさでダニーに期待を持たせるような言葉を、投げかけるのはやめてもらいたい」

「……」

「優柔不断は困る」

クロッグ・ヤンセン伯爵は、10日後、ジェームズに屋敷へ来るようにと言い残して帰って行った。

ジェームズは、椅子から立ち上がると、テーブルの食器を片付け始める。

「優柔不断は困る……か」

苦笑いしながら呟く。

「君のお父さんのようでは困るって、本当は言いたかったのかな……」



父クロッグから、もうすぐ甥っ子のジェームズと言う人が屋敷にやってくると聞かされてから、数日後のある日、ダニーはなにげに外を眺めていると、何やら不審な男が門の当たりをうろついているのを発見する。

そこへ外出から戻って来た執事のループと鉢合わせをする。

「あ、ループとあの不審者が屋敷の中に入って来るわ」

「えーー!まさかあの人がお父様の言っていたジェームズ?」

「うわあ……なんかイメージと違う人がやって来た……」


夜 食堂 

「ループ、ジェームズは大丈夫かな?」

「はい旦那様、まもなくお見えになると思います。食事の前に湯浴びを先に済ませて頂いております」

「歩いて来たらしいな、ジェームズは」

「はい、そのようです」

ダニーのジェームズへの第一印象はあまりいいものでは無かった。頭は髪がボサボサで服も汚れていて、まるで浮浪者のようだったからだ。

ガチャっとドアが開く音がしてジェームズが入って来た。

「あ、遅れて申し訳ありませんでした」

「構わんよ、さあ、そこに座ってくれ」

クロッグが指示した席はダニーの正面だった。

ジェームズが座るとクロッグがダニーを紹介した。

「ジェームズ、娘のダニーだ、仲良くしてやってくれ」

「はい、叔父さん」

そしてダニーに向かって話しかけた。

「ダニー、私がジェームズです。宜しくお願いします」

「こちらこそ宜しくお願いします」

ダニーは少し緊張しながら返事をした。

ダニーの目の前には先程のみすぼらしい男では無く、立派な紳士がいた。髪も整えられて服装も綺麗にしている。

それに、雰囲気が貴族のようで貴族じゃない。なんて言えばいいのか。

そうだ!この人からは『男』らしさを感じる。

その言葉がピッタリ来る男性だとダニーは思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

【完結】探さないでください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。 貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。 あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。 冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。 複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。 無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。 風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。 だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。 今、私は幸せを感じている。 貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。 だから、、、 もう、、、 私を、、、 探さないでください。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...