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第二章
⑮オリビアの息子ジェームズ
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ヤンセン伯爵家の執務室に当主クロッグと執事のループが相談をしていた。
「旦那様、ヤンセン伯爵家は存続はしていくでしょうが、ヤンセン伯爵家の血筋は旦那様で終わることになります」
執事のループが冷静に話す。
「旦那様には養女にされたダニーお嬢様しかおりません」
目を瞑って黙って執事ループの話に耳を傾けるクロッグ。
「旦那様の亡き妹君のオリビア様には、御子息ジェームズ様がいらっしゃいます」
「ダニーお嬢様とジェームズ様を結びつけてはいかがでしょうか?」
クロッグが執事ループの顔を見る。
「ジェームズとか……」
「はい。旦那様と同じご両親からお生まれになったオリビア様のお子ならば、ヤンセン伯爵家の継承者にふさわしいかと。そして例えダニー様と結ばれなくとも、ジェームズ様の人柄が良ければ爵位を継承されても良いかもしれません」
「そうだな、それも……いいかもしれんな」
執事は二人の身辺調査の報告書をクロッグに渡す。
「ふーん、二人とも特定の相手はいないと書いてあるな。ジェームズも地元の学校、高等部を卒業している……」
「そこで作戦なのですが……」
一ヶ月後……。
ヤンセン伯爵家 食堂 夜
夕食も終わりクロッグと娘のダニーは飲み物を飲みながら寛いでいた。
「ダニー、話がある」
「何でしょうか?お父様」
「今度、我が屋敷に執事見習いとして一人の青年が住むことになる。ただし一ヶ月間は客人扱いとするがな」
「どのような方なのですか?」
「その青年は、私の亡き妹、オリビアの息子なのだ。ジェームズと言ってな。苦労をして来たから、暫く休ませてやりたい」
「まあ、そうだったのですか。わかりましたわ、お父様」
「ダニーもジェームズに親切にしてやってくれ」
「はい、お父様」
10日前。
酒場「オリビア」の店のドアが開いて一人の紳士が入って来た。
「いらっしゃい」
ジェームズが声をかけるとその紳士は真っ直ぐにジェームズの方に歩いて来て
「ビールと何か食べるものくれるかな?」
そう言って近くのテーブル席に座った。
「お客さん、野菜炒めくらいしかできないけどいい?」
「ああ」
ジェームズは手際よく野菜を刻み鍋に入れて炒めて行く。
トレーにビールとグラス、野菜炒めを入れたお皿をのせて、紳士のテーブルに置いた。
「お客さん、なんでさっきから俺の顔を見ているんだ?あんた誰?」
「大きくなったな、ジェームズ」
紳士の眼差しに、母、オリビアの面影が重なる。
「もしかして……あんた母さんの知り合い?」
「オリビアは私の妹だよ。君とは叔父と甥の間柄になるかな」
「じゃあ、クロッグさんなのか?」
「そうだ、クロッグ・ヤンセンだ」
ジェームズは姿勢を正し、クロッグに深々とお辞儀をした。
「叔父さん、礼を言うよ」
「……」
「母さんから聞いたよ。うちに今まで援助をしてくれていたらしいね。母さんの入院代まで払ってくれて。本当にありがとうございました」
「気にするな。可愛い妹のためにしたことだ」
クロッグはジェームズに座るように勧めるた。
「恩に感じてくれる君に、ちょっと言いにくいのだが、君にお願いがある」
「お願い?」
「我が娘、ダニーと結婚してくれないか?」
「はあ?」
「心配しなくていいよ。ダニーとは血縁はない。養女なんだ」
「……」
「無理に結婚をしてくれと言ってる訳じゃない。断るなら断ってくれてもいい」
「……」
「一ヶ月だけ、一緒に暮らしてみないか?少し長い期間のお見合いのようなものだ。そして2人が両想いになったら結婚して欲しい。どうかな?」
ジェームズはしばしの間、下を向いて考えを巡らせた。そして 決心したように クロッグに返事をする。
「わかりました。叔父さんには恩があるし……」
「ただし、条件がある」
「条件?」
「一ヶ月後、二人が相思相愛になっていればいいが問題はないのだが……」
「……」
「最悪なのは一ヶ月後、ダニーが君を愛しているのに、君がダニーを愛していない場合だ」
「……」
「その時は、自分の心に嘘をつかないでほしい。心にもない優しさでダニーに期待を持たせるような言葉を、投げかけるのはやめてもらいたい」
「……」
「優柔不断は困る」
クロッグ・ヤンセン伯爵は、10日後、ジェームズに屋敷へ来るようにと言い残して帰って行った。
ジェームズは、椅子から立ち上がると、テーブルの食器を片付け始める。
「優柔不断は困る……か」
苦笑いしながら呟く。
「君のお父さんのようでは困るって、本当は言いたかったのかな……」
父クロッグから、もうすぐ甥っ子のジェームズと言う人が屋敷にやってくると聞かされてから、数日後のある日、ダニーはなにげに外を眺めていると、何やら不審な男が門の当たりをうろついているのを発見する。
そこへ外出から戻って来た執事のループと鉢合わせをする。
「あ、ループとあの不審者が屋敷の中に入って来るわ」
「えーー!まさかあの人がお父様の言っていたジェームズ?」
「うわあ……なんかイメージと違う人がやって来た……」
夜 食堂
「ループ、ジェームズは大丈夫かな?」
「はい旦那様、まもなくお見えになると思います。食事の前に湯浴びを先に済ませて頂いております」
「歩いて来たらしいな、ジェームズは」
「はい、そのようです」
ダニーのジェームズへの第一印象はあまりいいものでは無かった。頭は髪がボサボサで服も汚れていて、まるで浮浪者のようだったからだ。
ガチャっとドアが開く音がしてジェームズが入って来た。
「あ、遅れて申し訳ありませんでした」
「構わんよ、さあ、そこに座ってくれ」
クロッグが指示した席はダニーの正面だった。
ジェームズが座るとクロッグがダニーを紹介した。
「ジェームズ、娘のダニーだ、仲良くしてやってくれ」
「はい、叔父さん」
そしてダニーに向かって話しかけた。
「ダニー、私がジェームズです。宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いします」
ダニーは少し緊張しながら返事をした。
ダニーの目の前には先程のみすぼらしい男では無く、立派な紳士がいた。髪も整えられて服装も綺麗にしている。
それに、雰囲気が貴族のようで貴族じゃない。なんて言えばいいのか。
そうだ!この人からは『男』らしさを感じる。
その言葉がピッタリ来る男性だとダニーは思った。
「旦那様、ヤンセン伯爵家は存続はしていくでしょうが、ヤンセン伯爵家の血筋は旦那様で終わることになります」
執事のループが冷静に話す。
「旦那様には養女にされたダニーお嬢様しかおりません」
目を瞑って黙って執事ループの話に耳を傾けるクロッグ。
「旦那様の亡き妹君のオリビア様には、御子息ジェームズ様がいらっしゃいます」
「ダニーお嬢様とジェームズ様を結びつけてはいかがでしょうか?」
クロッグが執事ループの顔を見る。
「ジェームズとか……」
「はい。旦那様と同じご両親からお生まれになったオリビア様のお子ならば、ヤンセン伯爵家の継承者にふさわしいかと。そして例えダニー様と結ばれなくとも、ジェームズ様の人柄が良ければ爵位を継承されても良いかもしれません」
「そうだな、それも……いいかもしれんな」
執事は二人の身辺調査の報告書をクロッグに渡す。
「ふーん、二人とも特定の相手はいないと書いてあるな。ジェームズも地元の学校、高等部を卒業している……」
「そこで作戦なのですが……」
一ヶ月後……。
ヤンセン伯爵家 食堂 夜
夕食も終わりクロッグと娘のダニーは飲み物を飲みながら寛いでいた。
「ダニー、話がある」
「何でしょうか?お父様」
「今度、我が屋敷に執事見習いとして一人の青年が住むことになる。ただし一ヶ月間は客人扱いとするがな」
「どのような方なのですか?」
「その青年は、私の亡き妹、オリビアの息子なのだ。ジェームズと言ってな。苦労をして来たから、暫く休ませてやりたい」
「まあ、そうだったのですか。わかりましたわ、お父様」
「ダニーもジェームズに親切にしてやってくれ」
「はい、お父様」
10日前。
酒場「オリビア」の店のドアが開いて一人の紳士が入って来た。
「いらっしゃい」
ジェームズが声をかけるとその紳士は真っ直ぐにジェームズの方に歩いて来て
「ビールと何か食べるものくれるかな?」
そう言って近くのテーブル席に座った。
「お客さん、野菜炒めくらいしかできないけどいい?」
「ああ」
ジェームズは手際よく野菜を刻み鍋に入れて炒めて行く。
トレーにビールとグラス、野菜炒めを入れたお皿をのせて、紳士のテーブルに置いた。
「お客さん、なんでさっきから俺の顔を見ているんだ?あんた誰?」
「大きくなったな、ジェームズ」
紳士の眼差しに、母、オリビアの面影が重なる。
「もしかして……あんた母さんの知り合い?」
「オリビアは私の妹だよ。君とは叔父と甥の間柄になるかな」
「じゃあ、クロッグさんなのか?」
「そうだ、クロッグ・ヤンセンだ」
ジェームズは姿勢を正し、クロッグに深々とお辞儀をした。
「叔父さん、礼を言うよ」
「……」
「母さんから聞いたよ。うちに今まで援助をしてくれていたらしいね。母さんの入院代まで払ってくれて。本当にありがとうございました」
「気にするな。可愛い妹のためにしたことだ」
クロッグはジェームズに座るように勧めるた。
「恩に感じてくれる君に、ちょっと言いにくいのだが、君にお願いがある」
「お願い?」
「我が娘、ダニーと結婚してくれないか?」
「はあ?」
「心配しなくていいよ。ダニーとは血縁はない。養女なんだ」
「……」
「無理に結婚をしてくれと言ってる訳じゃない。断るなら断ってくれてもいい」
「……」
「一ヶ月だけ、一緒に暮らしてみないか?少し長い期間のお見合いのようなものだ。そして2人が両想いになったら結婚して欲しい。どうかな?」
ジェームズはしばしの間、下を向いて考えを巡らせた。そして 決心したように クロッグに返事をする。
「わかりました。叔父さんには恩があるし……」
「ただし、条件がある」
「条件?」
「一ヶ月後、二人が相思相愛になっていればいいが問題はないのだが……」
「……」
「最悪なのは一ヶ月後、ダニーが君を愛しているのに、君がダニーを愛していない場合だ」
「……」
「その時は、自分の心に嘘をつかないでほしい。心にもない優しさでダニーに期待を持たせるような言葉を、投げかけるのはやめてもらいたい」
「……」
「優柔不断は困る」
クロッグ・ヤンセン伯爵は、10日後、ジェームズに屋敷へ来るようにと言い残して帰って行った。
ジェームズは、椅子から立ち上がると、テーブルの食器を片付け始める。
「優柔不断は困る……か」
苦笑いしながら呟く。
「君のお父さんのようでは困るって、本当は言いたかったのかな……」
父クロッグから、もうすぐ甥っ子のジェームズと言う人が屋敷にやってくると聞かされてから、数日後のある日、ダニーはなにげに外を眺めていると、何やら不審な男が門の当たりをうろついているのを発見する。
そこへ外出から戻って来た執事のループと鉢合わせをする。
「あ、ループとあの不審者が屋敷の中に入って来るわ」
「えーー!まさかあの人がお父様の言っていたジェームズ?」
「うわあ……なんかイメージと違う人がやって来た……」
夜 食堂
「ループ、ジェームズは大丈夫かな?」
「はい旦那様、まもなくお見えになると思います。食事の前に湯浴びを先に済ませて頂いております」
「歩いて来たらしいな、ジェームズは」
「はい、そのようです」
ダニーのジェームズへの第一印象はあまりいいものでは無かった。頭は髪がボサボサで服も汚れていて、まるで浮浪者のようだったからだ。
ガチャっとドアが開く音がしてジェームズが入って来た。
「あ、遅れて申し訳ありませんでした」
「構わんよ、さあ、そこに座ってくれ」
クロッグが指示した席はダニーの正面だった。
ジェームズが座るとクロッグがダニーを紹介した。
「ジェームズ、娘のダニーだ、仲良くしてやってくれ」
「はい、叔父さん」
そしてダニーに向かって話しかけた。
「ダニー、私がジェームズです。宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いします」
ダニーは少し緊張しながら返事をした。
ダニーの目の前には先程のみすぼらしい男では無く、立派な紳士がいた。髪も整えられて服装も綺麗にしている。
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