天使が恋をした

ぜらいす黒糖

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⑫お仕置き

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松田は目が覚めると背もたれ付きの椅子に座らされていた。

「ここは・・どこだ?」

洞窟のような感じがする。

「おい。誰だ。こんなふざけた真似をするのは。出て来い!」

松田の目の前の床にぽっかりと穴が開いた。

何やら黒い塊がもり上がって来た。

続いて頭が、顔が・・・あ・・コイツは。

松田は思い出した。

城田日向子と一緒にいた男だ。

まずい。

これはまずい、と本能が言っていた。

完全に地上に出たテンシは、松田を見つめたまま尋ねた。

「松田さん。」

「な、なんだ。」

「俺、言いましたよね?」

「・・・。」

「ふふふ。あれ?忘れたのかな?」

「なんのことを言ってる?」
テンシの表情が一変した。空気が冷たくなりピリピリと皮膚を刺激した。

「俺は言ったよな?」

「・・・。」

「お前が前回、城田日向子を連れ去ろうとしたときに俺は言ったよな?」

この雰囲気はヤクザや半グレのようなやばさじゃない。

これは人間の領域を超えている。

松田は恐怖で声も出せなかった。

「俺はこう言ったんだ。」

「城田日向子には俺がついている。」

松田の耳元で囁いた。

「今度やったら殺すぞ。ってな。」

テンシの体が段々と大きくなって、顔は悪魔へと変身していった。

吐く息は白く手の指から鋭い爪が伸びていた。

人差し指の鋭い爪で松田の頬を軽く引っ掻いた。

引っかいたところから血が滲み出て顎に伝って松田のズボンの上に落ちていった。

「お前は城田日向子をどうするつもりだったんだ?」

「ビデオカメラまで用意をしていたな。」

「お前は自分の服を脱ごうとしていた。」

「答えろ。何をするつもりだった?」 

「お、俺は・・城田を・・」

「待て。」

「え?」

「もういい。お前は、殺すことにした。だから言わなくてもいい。」

「頼む。殺さないでくれ。頼む。」

絶望の表情でテンシに必死で訴える松田。

「頼むから!お願いだから・・・。」

「お前は今までそうやって懇願した人間を許したことがあるのか?」

「そ・・・れは。その・・・。」

「いいだろう。これで最後だ。もう一度やったら次はお前を殺す。」 

「あ、ありがとうございます。」

松田は泣いていた。

「だが、担保はもらうぞ。」

「担保?」

「ああ。お前が約束をやぶらないように。」

テンシは右手を松田の胸に突き刺した。

「「「ぐっわ!」」」  

あまりの激痛で声を出す松田。

テンシは右手をゆっくりと引き抜いた。 

右手には松田の心臓が握られていた。

自分の心臓がテンシの右手にあるのを見て

「ああああ!殺さないって言ったじゃないですかーーーー。」

涙をポロポロと流す松田にテンシは言った。

「お前、死んでないだろう?」

「へ?」

「お前が約束を破ったらお前の心臓を握り潰すぞ。」

そして少し強く松田の心臓を握るテンシ。

「「「はうっ!」」」激痛で顔を歪める松田。

ニヤリと笑うテンシ。

「絶対に!約束は守りますから!助けてください・・・・。」

意識を失う松田。




トゥルルル・・トゥルルル・・

松田は電話のなる音で目覚めた。

急いで受話器を取った。

「もしもし。フロントでございますが間もなく休憩時間が終わります。宿泊に変更されますか?」

「・・・いや。もう帰る。」

「それでは車で出口の方までお越しください。」

「わかった。」

受話器を置いて呆然とする松田。

右手で胸をさすりながら
「俺は助かったのか・・・。」

そしてスマホを取り出し電話をかけた。

「あ、もしもし。松田です。」

「すみません。俺、店を辞めます。辞めさせて下さい。はい。わかりました。」

「は?はい。では来月末まで働きます。はい。」

「あ、俺、今日は体調が悪いので休ませて下さい。はい。失礼します。」


松田武志(28歳)はこの後、なぜか寿司屋の見習い店員になり、真面目に働いた。

35歳の時に店の主人の一人娘と結婚。男の子が一人と女の子二人の父となった。




神様「さすが天使。人間更生もちゃんとやっておるわい。」
    
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