桜咲く社で

鳳仙花。

文字の大きさ
上 下
87 / 96
第三章

第六話 東部

しおりを挟む

 熱い。

 重たいキスだった。
 獣に喰われるというのはまさにこのことなのだろう。強引に唇をこじ開けられ、舌を絡め取られる。
 逃げようと思ってもできない。彼の舌は執拗にセレスティナのそれを追い回し、捕らえ、押し付けられ、嬲られる。
 貪るように腔内を弄られ、互いの唾液が混ざりあった。

 結婚式の日、交わされなかった口づけが、このような形で実現するとは。
 夢に見るような触れるだけの優しいものとは全然違う。激しくて、重たくて、鈍い。

 セレスティナはただただ翻弄された。息継ぎすら許されず、そのままぐいっと押し倒される。
 気がつけばベッドの上で組み敷かれていて、身動きが取れなくなっている。

「っ、ぁ! リカルド、様……っ」

 ようやくわずかに唇が離され、彼の名を呼ぶ。しかし彼は止まることなく、再び強く唇を喰まれた。
 くちゅくちゅと、あえて音を出すようにかき混ぜられ、その淫靡な響きにセレスティナの瞳が潤む。

(どうして、いきなり。リカルド様……っ)

 先ほどまで、拒絶の言葉を投げかけられていたから余計に、わけが分からない。
 彼の優しいところは見つけたつもりでいたけれど、好かれている自覚もなかった。なのにどうして、突然こんなキスをされるのか。

 長い口づけのあと、ようやく唇が離される。
 酸素が欲しくてはくはくと息をするも、まだまともに頭は働かない。

「どう、して……」
「〈糸の神〉にわざわざ囚われに来て、その言い様ですか? あなたは神話を学んだ方がいい」
「え…………」
「俺が。俺がどれほど、あなたを渇望していたかも知らずに……っ」
「あ、待って……!」
「待てるか!」

 ブチブチブチッ、と胸元のボタンが引きちぎられる音がした。乱暴に襟ぐりを開かれると、日光を知らぬ白い肌が現れる。
 一年かけて、ようやく一般的なサイズに戻った双丘がまろび出た。それを睨め付けながら、リカルドはほの暗い笑みを浮かべる。

「無防備にのこのこやってくるなんて、あまりにおめでたすぎませんか? 聡明だと聞いていましたが、男に関してあなたは無知すぎる。〈処女神〉セレスの加護を受けただけある」
「あ、あ……」
「俺が〈糸の神〉の加護を受けていたことを忘れていませんか?」

 ぞくりとした。
 渇望、と彼は言ったが、彼の瞳に宿る色彩はもっと深く、暗い。
 底冷えするような黒。そして、はらりとこぼれ落ちた前髪の隙間から、隠れていた左眼が現れる。
 深淵の黒の奥に、赤い閃光が灯った摩訶不思議な瞳に、セレスティナは目を奪われた。

「この血がね。呪いのような、この加護が。あなたを喰えとずっと言ってるんですよ。わかっていますか、俺の女神?」
「リカルド、様……?」
「俺は、一度捕らえたら離さない。そう言ってるんです……!」

 がぶりと、今度は胸元を喰まれた。
 ちくっとした痛みが走り、彼が強く胸元に吸いついたのだと理解する。
 ひとつやふたつでは足りない。まるで、自身が所有者であることを刻みつけるようにいくつも印を落としていく。

 さらに、圧倒的な力で彼はセレスティナのドレスを引き裂いていき、セレスティナの真っ白い肢体が露わになる。
 それを見下ろしながら、リカルドはギラギラした目でセレスティナの双丘を嬲っていった。
 柔らかな肉が形を変えるほどにぐにぐにと揉み拉き、その先端をつまみ上げる。
 あっという間に、先端はぷくりと硬くなり、彼はあえてそれをころころと転がした。

「ぁ、ぁぁんっ! 待って、それは……っ」
「待つわけないでしょう」

 強く揉み拉かれながら、乳首を甘噛みされる。ビリビリとした甘い刺激が走り、セレスティナの身体は跳ねた。

「清楚な方だと思っていたのですがね。こんなに淫らでしたか」
「ぁ、ぁ……だって」

 今の刺激は何だったのだろう。
 一瞬頭が真っ白になって、何も考えられなくなった。

 でも、彼が淫らだというのは、あながち間違っていないのかもしれない。
 身体の芯が熱い。疼くような鈍い感覚が満たされなくて、もっと、もっとと欲が膨らむこの感覚。彼に強引に嬲られ、喜んでいる自分を自覚したから。

 戸惑って何も言い返せないでいると、リカルドは自嘲するように吐き出した。

「我慢したのに。あなたを不幸にしないと、決めたのに」
「え?」
「あなたのせいですよ」

 ハッキリと言い切られ、セレスティナは目を見張った。
 セレスティナを見下ろしながら、リカルドは己のコートを脱ぎ捨てる。
 黒騎士と呼ばれる由縁の、真っ黒なコート。中のシャツの襟元も軽く緩め、やがてガチャガチャとベルトを外した。

 彼がズボンの前側をくつろげると、ギンギンに反り返った怒張が顔を出す。血管がボコボコと浮いたその凶器。
 禍々しいと呼べるほどのソレの姿に、セレスティナは言葉を失う。

 だって、否が応でも、彼が何をしようとしているのか理解させられた。
 待って、と止めようとするも、リカルドはすでにボロボロになっているセレスティナのドレスを捲り上げ、さらに下着を取り払う。
 そのままセレスティナの股の間に身体を割り入れ、強引に彼女の膝を持ち上げた。

「可哀相に。〈糸の神〉に魅入られたばっかりに――」

 今まで、誰にも暴かれることのなかったセレスティナの秘部が空気にさらされる。ヒヤッとしたその感覚にセレスティナは呻いた。
 それを拒否だと思ったのか、リカルドは自嘲するように笑い、それでも強引に己の鋒をあてがった。

「――現実でも、こうして好きでもない男に一生囚われることになる」
「――――っ!?」

 次の瞬間。
 ドスン! という重い衝撃が全身を駆け抜けた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...