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第二章
第三十五話 変わらない思考
しおりを挟む会議は思っていた以上に難航した。
始めは大人しく聞いていた三大神族達だったのだが、作戦自体に圓月達が加わっている事がわかるや否や、その表情を暗くさせる。
薫子は史と共に部屋の端に控えて会議を聞いていたのだが、三大神族の事情をよく知らない薫子が分かる程、問題は思った以上に謙虚に現れた。
「しかし、懴禍と同じあやかしが身内というのは、いささか受け入れ辛いというものです」
黒地に赤い花を咲かせた着物を纏う女が意見する。彼女は黎明家の女当主。名を宵赫という。三大神族で唯一女が権力を握る一族であり、南方にある朱南の都に巨大な屋敷を構える領主である。
「本当に彼らの存在が必要なのでしょうか」
淡々と、そして迷いのない物言いに十六夜が口を開いた。
「確かに圓月らは懴禍と同じあやかしじゃが、今となっては我らとて似たようなものじゃ」
そう言うと、坊主の老人が目を細める。
「我らと似ていると?あの邪の者らがですか?」
(少しも嫌悪を隠す気なし、か)
薫子は彼のその発言を聞いて少しの苛立ちを覚えた。彼らも天界の神々同様、あやかしを悪として見ているらしい。
史も何か思うところがあるのか、いつもの穏やかな表情は無く、冷静に場を読んでいる。その傍らには香が置いてあり、細い煙が部屋に立ち上っていた。
「ああ。似ているというより、同じだな」
「馬鹿げた事を。そんな発言を神々がされては困ります」
老人は血管を浮き出させて発言した。彼は東の都、東龍の領主であり、白家の当主でもある。名を織斎という。
彼の言葉を聞いていた圓月は、何も言わずにただ座っていた。その後ろに着いている嶄達も反応を示さない。薫子はつくづく意外だと思う。あのカッとなりやすい辿李ですら、まるで幾千と聞いたお小言の様に聞き流していた。これが彼らにとっての普通なのだと察すると、薫子は腹立たしくて仕方がなかった。
「…馬鹿げた、だって?」
すると、岳詠穿の側に控えていた寿鹿が低い声音で聞き返す。
「馬鹿げているのはどちらだろうか。四千年前、誰がこの国の為に戦った?誰が民を守った?誰が懴禍を倒した?」
「寿鹿」
「五月蝿い」
武静の制止を一喝し、怒る寿鹿。
「僕は常々思う。表面のみで全てを知った気になり、否定し、差別し、汚いモノとしてあやかしを扱う人間は、汚らしい汚泥のようだ。美しさ以前に、僕は君達の思想こそ受け入れられない」
織斎はグッと顔を顰めて何も言えずに顔を下げた。
「人すらも天界の古臭い思想に囚われているなんて、実に美性に欠ける。今はそんな下らない事を言っている時で無い事くらい、君達にもわかっているだろうに」
寿鹿は言いたいことを言ったのか、フンと鼻を鳴らして腕を組む。圓月は嬉しさと恥ずかしさでか、首の後ろを掻いた。
「寿鹿の言う通りだ」
茜鶴覇は湯呑を持ったまま口を開く。
「あやかしも神も、力を有するのは同じ事。その力の使い方を誤り、悪の道へと走ったのは懴禍だけではない。神である爪雷もまた、同じ道へと歩を進めている。その点に関して、あやかしのみを悪だと言うのは違う」
「ですが…」
織斎は何かを言おうとしたが、反論できなかったのか、「申し訳ありません」と深々と頭を下げる。
「それに、あやかしかそうでないかは然程問題ではない。圓月は私の友であり、彼を慕う者を私は仲間と認識している。その私の身内にまだ何かあるのなら申してみよ」
茜鶴覇のその威圧に、誰も口を開かない。茜鶴覇は小さくため息を吐いた後、目配せで十六夜に話を続けよと命じた。
「…何度も言うが今回の騒動、最早わしらの力のみでは対処不可能。圓月らの手を借りるのは必須じゃよ」
十六夜はそれだけ言って話を終わらせると、再び話の本題へと戻る。
「もう一度説明するぞ。…まず、お主ら神族には各地に散ってもらい、村や都の結界維持、及び式神による情報伝達の役目を担ってほしい。その際戦闘になる可能性も十分あるが、第一優先は民と自身の命じゃ。結界や情報伝達は二の次でよい」
十六夜がそういうと、髭を豊富に蓄えた男が口を開いた。彼は神来社家の現当主、邑朴。伊吹の実父に当たる人物である。
「諸々の事情、承知いたしました。我ら神族共々、力を惜しむことなく捧げましょう」
そう言って軽く頭を下げた邑朴に続き、宵赫も素直に頭を垂れた。ただ一人、織斎だけは悔しそうな面持ちで居ることを、薫子はその目で捉える。
(そう簡単に思想は変わらない)
とはいえ神の前で力を貸すという約束をした以上は力を捧げなければなるまい。
「話は以上じゃ。じきに戦が始まる。各々支度を急げ」
十六夜は織斎を一瞥した後、全体に命令を下した。全員深く頭を下げたのを見ると、茜鶴覇達守護神は部屋を出ていく。
薫子が史の後に続いて退室しようとすると、目の前にさっと人形型の式神が飛んできた。
(これは伊吹さんの…)
式神を手に取り振り返ると、こちらの様子を伺っている伊吹と目があった。薫子は急いで中身を確認する。
『梅雨の庭で落ち合いましょう』
短く綴られた文字を見て薫子は了承の意味を込めて軽く頷いた。
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