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解答篇 僕はアイを知る
閑話 (2) 『麗華稀月の物語』
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放課後、私は少し教室を抜け出して一人、ピアノを弾いていた。
たんっ、と鍵盤から指を跳ね上げ、私は最後の小節を弾き終える。
手首から肘にかけての部分に乳酸が溜まり、筋疲労を起こしていた。
練習曲(エチュード)を立て続けに何曲も弾いたのだから仕方がないか、と思う反面、ちゃんとした弾き方をしていればこうはならないだろうと思う所もある。
音楽は……苦手だ。音楽も、美術も。
何でもできるね、と言われ続けてきた。
実際私も、そうなのだと思って来た。
だけど私は――――
「上手だねー、麗華さん」
拍手をしながら入ってきた人物に、私はちらりと目を向けた。
なるほど……そう来るか。
「いやいや。私のピアノなんて、まだまだ足りないところだらけだよ、七々扇さん」
そんなことないよー、とか、うっそー、とか。
そういう薄っぺらい言葉を待っていたのだけれど。
「そうなんだろうね」
彼女はあっさりと私の予想を裏切った。
「まぁ、私には分からないけど」
そんなことはどうでもいいのだとばかりに切り捨てると、彼女は続けて言った。
「麗華さん。貴方に伝言があるの」
「ほう、誰からだ」
その瞬間。
七々扇さんの顔から。
彼女の顔から。
表情が抜け落ちた。
「七々扇夢莉から、です」
たんっ、と鍵盤から指を跳ね上げ、私は最後の小節を弾き終える。
手首から肘にかけての部分に乳酸が溜まり、筋疲労を起こしていた。
練習曲(エチュード)を立て続けに何曲も弾いたのだから仕方がないか、と思う反面、ちゃんとした弾き方をしていればこうはならないだろうと思う所もある。
音楽は……苦手だ。音楽も、美術も。
何でもできるね、と言われ続けてきた。
実際私も、そうなのだと思って来た。
だけど私は――――
「上手だねー、麗華さん」
拍手をしながら入ってきた人物に、私はちらりと目を向けた。
なるほど……そう来るか。
「いやいや。私のピアノなんて、まだまだ足りないところだらけだよ、七々扇さん」
そんなことないよー、とか、うっそー、とか。
そういう薄っぺらい言葉を待っていたのだけれど。
「そうなんだろうね」
彼女はあっさりと私の予想を裏切った。
「まぁ、私には分からないけど」
そんなことはどうでもいいのだとばかりに切り捨てると、彼女は続けて言った。
「麗華さん。貴方に伝言があるの」
「ほう、誰からだ」
その瞬間。
七々扇さんの顔から。
彼女の顔から。
表情が抜け落ちた。
「七々扇夢莉から、です」
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