はじまらない物語 ~僕とあの子と完全犯罪~

玄武聡一郎

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出題篇 □■□■君は

第十五話 (1) 『悪意と体育倉庫荒し』

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「おーわったぁああ!」

 それでは、答案を回収してください。
 というミョウミョウの合図と同時に、雅樹が晴れ晴れとした声を上げた。
 まだ肝心のテスト返却が残っているし、なんならテストの結果によっては終わったどころか始まってしまう人もいるわけだけど。
 それでも彼の心からの言葉は間違いなく、僕たちクラス全員の気持ちの代弁だった。

 クラス全体がざわざわと、今までよりも明るい、憑き物が落ちたような喧騒に包まれる。
 七月の末から八月の頭にかけて開催された期末テストは、これにてようやく終了した。
 明日から順にテストが返却され、それが終われば夏季休暇に入る。

 さすがにテスト期間と言うことでクラス展示、部活展示、二つのスクフェスの準備を控えるしかなかったけれど、そろそろ本格的に活動が再開することだろう。
 クラス展示の方は、教室内の区切り方が決まり、模型設置や壁紙作成のため、班によっては壁の高さや注文する物品を揃えている様だった。
 かくいう僕の班も大まかな筋書きは決まり、壁紙作成用にメジャーを使って高さを図ったりしていた。ホワイトボードのてっぺんから床までを模造紙で覆い、そこに絵を描く予定だ(勿論絵心が微塵もない僕は描かないけれど)。模型はアノマロカリスや三葉虫を作って、天井に張り巡らせたピアノ線から吊るすらしい。

 文芸部の出し物に関しては、「チャペルに現れた謎の暗号」に加え、「音楽棟に夜な夜な響く謎の断末魔」と「夜中、女子寮のシャンデリアの上に座る少女」を加えた計三つになった。
 前者はこっそりヴァイオリンの練習をしていた南先生が犯人で(下手すぎて家で練習すると奥さんに怒られるらしい)、後者は夢莉さんが色々な人に話を聞いてみたところ、「上の階からバスローブを落としてしまった先輩がいて、それを夜中に見た中学生の女の子が幽霊と勘違いした」という昔の出来事が、尾ひれがついて噂話として広がっていた、という事だった。

 蓋を開けてみれば拍子抜けしてしまう様な話だが、出し物としては中々面白いので、即採用となった。まぁ女子寮の方は中には入れないので、外から見てもらう形になるとは思うけど。
 それでもやはり、出し物としてはまだ数が少ないので、どうにか後四つ位は集めたいところだねと夢莉さんと話していたのだった。

「奏汰、明日の『憂さ晴らしスポーツ大会』だけど、どの競技に出るか、もう決めたかい?」

 ひゃっほー! と甲高い雄たけびを上げて教室から走り去っていった雅樹とは対照的に、落ち着いた下半身にずんと響く声で、こんちゃんが言った。
 『憂さ晴らしスポーツ大会』、というのは学生主体で行われる、任意参加性のスポーツ大会だ。
 その名の通り、期末テスト中に溜まったストレスや鬱憤を、体を動かして解消しよう、という試みで、生徒会と中高合わせた六学年の学級委員長が主体となって企画したものらしい。

「いや、僕は参加しないでおこうと思ったんだけど……」

 生憎、僕はスポーツが得意ではない。
 頑張って企画してくれた人たちには悪いけど、静かに読みかけの小説を読もうと思っていたところだった。

「そうだったのか。ううん……困ったな」
「どうしたの?」
「いや、実はうちの学年からのバレーボールの参加人数が、あと一人加わったらキリ良くチーム分け出来そうなんだよ。もしまだ決めていなかったら、奏汰にお願いしようと思ったんだけど……」
「あー、そうだったんだ……。他の人とかは?」
「大体断られてしまってね。みんな、出る競技はもう決めているみたいでさ」

 そういうことなら力になってあげたいけれど、僕なんかが加わっても大丈夫なのだろうか。
 運動神経は精々並くらいだし、バレーボールも体育の授業でやったことがあるくらいだけど。

「参加したまえよ、カナタ。高校生の内に体を作っておかないと、後々体が思うように動かなくなるぞ?」

 ロッカーに物を閉まっていたらしいララちゃんが、会話に割って入った。

「まぁそれはそうだけど……。そういうララちゃんは、何に参加するの?」
「当然バスケだ。これでも女バスのエースだからな」
「そうなの⁈」

 この子、ほんとに何でもできるな……。

「奏汰見たことなかったっけ? 麗華さんのドリブルテクはすごいんだよ」
「ふ……まぁ身長が低いから取りにくい、というのもありそうだがな」

 ミョウミョウと同程度なミニマムサイズな彼女が、腰をかがめてドリブルをしていたら、確かに身長の高い人は取りにくいのかもしれない。バスケの事は良く知らないけど。

「あぁ、それとカナタ」
「……?」

 ララちゃんがすっと僕の近くにより、耳元で囁いた。

「バレーボールはあの七々扇さんも参加するらしいぞ? スパイクの時、セッターの時、体を大きく伸ばした際に揺れる君のだーい好きな『あれ』は、さぞかし大迫力だろうなぁ」
「こんちゃん、僕もバレーボールに参加するよ。やっぱりほら、高校生のうちに体を作っとかないと、年を取ってから後悔しそうだしさ」

 やましい気持ちなんてこれっぽっちも抱かず、僕は爽やかな笑顔でそう言った。
 いやぁ、やっぱりほら、皆とわいわいスポーツするってのも、いい物だよね!
 読書? そんなのいつでもできるよ! 運動万歳!

 そうか、ありがとう! と嬉しそうに去って行ったこんちゃんの後姿を見送る。うんうん、人助けをすると、気分がいい物だな。
 ふと視線を感じて顔を上げると、ララちゃんが僕を見下ろしていた。いつもけだるげな眼に、侮蔑の色が浮かんで見える。

「この変態め。君の誕生日には水をたっぷりと入れた肌色の風船を二つ送ってやろう。それに顔をうずめて『うっひょぉおおきもちぃいいいい』とでも叫んで、その有り余った性欲を存分に発散するがいいさ」
「うん、なんだろう。色々ツッコみたいけど、とりあえず誘導したのは君だからね」


◇◇◇


 次の日の放課後。
 僕は体操着に着替え、体育館へと繰り出した。
 体育館に向かう道すがら、テニスコートやサッカーコートで、既にゲームを楽しんでいる人たちを見かけた。テストの苦しみから解放されたはしゃぎ声が、青空に吸い込まれていく。

 空が広い、という事に気づいたのは、こっちに来てからどれくらい経った頃だろう。
 高層ビルも、マンションも、背の高い建造物が周囲に一つもないと、こんなにも視界一杯に空が広がるのかと、最初は驚いた。
 八月に入り、イギリスにも夏が訪れた。このひりつく様な、からっとした暑さは嫌いじゃない。

 蝉の声が聞こえる。
 生徒の声と、蝉の鳴き声だけが、広々とした敷地内にゆっくり、ゆっくりと染み渡っていく。
 この学院は、世間からは隔離されている。
 日本の流行りも、時事も、僕たちにはすぐには届かない。
 思春期真っただ中にある僕たちにとってそれは、少し物足りなくはあるのだけれど。
 だけど時折、こういう光景を見ると、あぁこれも悪くないのかな、なんて。そんな毒にも薬にもならない感想を抱いたりするんだ。


◇◇◇


「ドジっ子」という単語を聞いたことはあるだろうか。
 歩けばぶつかる。 
 走ればこける。
 食器を運べば落として割るし、塩と砂糖も間違える。
 本人に全く悪気はなく、可愛らしく憎めない失敗を繰り返す。
 それがドジっ子だ。
 うちのクラスで言えば、鴨川香子かもがわきょうこさんがそれに当たる。

「鴨川さん! レシーブお願い!」
「はい!」

 元気よく、はきはきとした気持ちのいい声で返答した鴨川さんは、相手方から来たサーブをレシーブする体勢に入った。
 両手を組み、重心をしっかりと落とした鴨川さんは、さながら熟練のリベロの様なオーラを放つ。

「ぶぎゃっ」
「鴨川さん⁈」

 そして(案の定)見事なまでの顔面レシーブを決めた鴨川さんは、ネコが間違って踏まれた時みたいな声を上げて、その場に倒れた。

「く、くそぅ! 鴨川さんの死を無駄にはしない!」

 いや、死んではいないと思う。
 熱い言葉と共に駆け出したこんちゃんに、僕は一応心の中でツッコんでおく。
 個性派ぞろいの寮生活も早三か月が過ぎ、僕はその辺に転がっているボケは反射的に拾ってしまう体質になっていた。これもララちゃんの言う、共感力(エンパス)の能力によるものなのかな……。

「うぉおおおお!」

 鴨川さんの顔面に当たって明後日の方向へ飛んでいったボールを、こんちゃんが飛び込んで辛うじてつなぐ。
 ひょろひょろと頼りない軌道を描いて上がったボールは、何の因果か再び鴨川さんの頭上に向かった。そして――――

「す、すみません! またレシーブ失敗しちゃいましぼぎゃっ」

 謝罪の言葉と共に勢いよく立ち上がった鴨川さんの顔面に再び命中した。
 泣き面に蜂、というか、傷口に塩を塗りたくられたというか……。二度もバレーボールを顔面で受けた鴨川さんに、僕は同情の視線を送る。

「……あ」

 ヘディングの要領で吹き飛んだボールは運よく相手方のコートへ入り、運よく誰もいない空間に向かって行った。
 あっけにとられた相手チームが動き出した時にはもう遅く、誰も触る事のできないまま、ボールはてんてんと床の上を転がっていった。
 ぴっぴっぴーっという甲高い笛の音と共に、試合終了が告げられる。
 鴨川さんの超珍プレーを持って、僕らのチームは勝利した。
 勝利の立役者でもあり、同時に被害者でもある鴨川さんは、チームメイトに労われながらコートを後にした。

「やれやれ。相変わらず、世の中の因果と言う名の信号を完全に無視して進むな、鴨川さんは」
「ララちゃん。見てたんだ」

 体操着に身を包んだ天才美少女が、気だるげな眼を向けて薄く笑った。
 半袖半ズボンからすらりと伸びた手足は陶磁器の様に白く繊細で、バスケなんて激しいスポーツをしても大丈夫なのかと心配になった。
 ……が、先ほど彼女のスーパープレーの数々を見て、そんな懸念は吹き飛んだ。

 バスケの試合は完全に彼女に掌握されていた。
 個人技で突き進むだけではなく、ちゃんとチームメイトと助け助けられながらゲームメイクをしていたところは、流石の「寄り添う天才」と言ったところだろうか。
 彼女を止められたのは唯一わっきーだけだった(お前もなんでもできるんかい、というツッコミは散々本人にぶつけたので、見苦しいからここでは省略しよう)。

 わっきーとララちゃんの一騎打ちなんかは、素人の僕が見ても息を飲むくらいに白熱した試合で、わっきーの脇を潜り抜け(ダジャレではない)ブザービートをかましたララちゃんには、思わず盛大な拍手を送ったものだ。
 横を抜かれたわっきーが、「くそっ!」と悔しそうに呟いたのも印象的だった。いつもはクールな感じだけど、結構スポーツでは熱いところがあるんだな。
 そんな玄人染みたゲームをした彼女が見るには、バレーの方はあまりにも稚拙だったように思うけど……。

「くく、鴨川さんのあの『ドジっ子センス』はリスペクトしているからね。見ないわけにはいかないだろう」
「なんかリスペクト対象が多すぎて、モンドセレクション並みの価値になって来てるけど大丈夫?」

 まぁ、そういう姿勢が彼女を天才たらしめているのかもしれないと、思わないではないけれど。
 あらゆる事柄に敬意を抱き、敬意を抱くがゆえにつぶさに観察し、分解し、理解し、吸収する。
 彼女が口癖の様にいう「リスペクト」は、彼女の真髄の一端を表しているのかもしれない。

「鴨川さんはすごいぞ? 彼女の手にかかれば、バタフライエフェクトだって、風が吹いて桶屋が儲かることだって用意に起こり得るかもしれない。因果や常識にとらわれない、素晴らしい変わり者、もとい逸材じゃないか」
「ドジっ子をそう言う視点でとらえるララちゃんも、相当な変わり者だと思うけどね……あ、わっきーだ」

 体育館の壁際に座り、顔を冷やしていた鴨川さんの元に、わっきーが近づいて声をかけていた。どうやらわっきーもバレーの試合を見ていたらしく、彼女の事を労っている様だ。
 鴨川さんの顔が赤いのがここからでも分かる。
 バレーボールを顔面レシーブしたことだけが、理由ではないだろう。

「おやおやこれはぁ?」
「圧倒的、恋の予感だねっ、如月さん!」
「……」

 ……出たなかしましコンビ。
 どこからともなく現れた、スポーティー如月さんに文芸少女佐久間さん。
 一見、趣味嗜好は相反するように見える二人だけど、全く持ってそんな事はないということを、僕はもう知っている。

「そう、表現するならばっ! 『最近私の体、全然いう事を聞いてくれないの……だって、あの人が来ると胸のどきどきが止まらなくなっちゃうんだもんっ。あ、だめ、これ以上近づかないで! 私の恥ずかしい鼓動が聞こえちゃうからっ! あぁ、でも近づいて欲しいの! あなたを感じたいの! 矛盾する感情に押しつぶされて、私どうにかなっちゃいそう!』的な⁈」
「どうにかなっちゃってるのは君だと思う」
「なにそれ名作の予感―! タイトル、タイトル付けよ!」
「『恋嵐迷宮ラブハリケーンラビリンス』とかどう⁈」
「僕は『山嵐のジレンマ』がいいと思うよ」

 ぶーぶー、つれないなー。つれないぞー? と僕の周りでわちゃわちゃと騒ぐ姦しコンビに、思わず苦笑いがこぼれる。
 全くもって嫌いではないし、何なら苦手でもないけれど、この二人と会話すると体力をごそっと持ってかれるのだ。

「くく……エネルギー一種の分子構造を取っていて、より濃度が濃い方へと拡散する、所謂フィックの法則に従っているのかもな」

 横に居たララちゃんが、僕にだけ聞こえるような小さな声でぼそりと呟いた。
 また人の心を読んだような発言を……。

「あの二人、もう付き合ってるのかなぁ? 気になるねー!」
「今日あたり聞いちゃう? 『彼女は顔を朱色に染め、とつとつと胸に秘めた想いを語り出した。まるで懺悔の様に言葉をこぼす彼女は、もしかしたらその恋心に一抹の罪悪感を抱いていたのかもしれない……そう、彼は既に……結婚していたのだから』。ふふふふふふ! 盛り上がってまいりましたな!」

 いつの間にわっきーは家庭を築いてたんだよ……。
 人の恋路を邪魔する奴はなんとやらという慣用句もある。
 僕はそこそこ長生きしたいし、むやみやたらと首を突っ込むのはやめておこうと思う。
 鴨川さんとはあまり話したことはないけれど、心根のまっすぐ通った掛け値なしにいい子であることは知っている。

『皆さん、私のミスを笑って許してくれますけど……それは私が自分のミスを許していい事にはならないですから』

 いつだったか、たまたま二人で話した時に、柔らかく微笑みながら彼女がそう言っていたのが強く印象に残っている。
 自分は「ドジっ子」というみんなが付けてくれたキャラに助けられているのだ。
 それでもいつかはそのキャラを捨ててしまいたい。
 甘んじず、甘えず、自分の弱さを向き合う彼女を、僕は素敵だと思った。
 そんな鴨川さんと、変態とは言え、それ以外は完璧に近いわっきーが付き合ったとすれば。
 僕は純粋に嬉しいだろうなと、そんな事を思った。
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