上 下
216 / 240
最終章 前世から来世へ

4

しおりを挟む
 結婚式当日は、晴天に恵まれた。コレットをリーダーとする侍女たちに着付けをしてもらいながら、私は式典でのことを思い出していた。

 二日前の、ジョゼフ五世陛下ご即位二十五周年記念式典にて、エミール・ド・ミレーが陛下の実のお子であること、マルク殿下に次ぐ第二王子として迎えられることが、正式に発表された。エミールは、実に堂々とスピーチをこなして、それはよかったのだけれど……。

 ジョゼフ五世陛下はその際、『モルフォア王国を植物大国とする』と宣言なさったのだ。モルフォア王国は元々、希少植物が生育するので有名だ。ならばそれを活かさない手は無い、大規模な国立庭園を造って観光名所とする、と陛下は仰った。まさにそれが、エミールと彼の母親に語っておられた、陛下の夢だったのである。

 そしてその庭園の、園長兼主任研究員には、デュポン侯爵が任命された。彼は私に、是非研究助手を務めて欲しいと仰った。アルベール様も賛成してくださって、私はその話をお受けしたのである。

「モニク、ぼーっとしている場合では無いわよ!」

 コレットが叱咤する。

「植物学研究の助手というのも、立派な役割ですけれど。まずあなたが果たされるべき役割は、今日の結婚式の主役です。植物のことは、いったん頭から離してくださいまし!」
「え!? あっ、はい」

 慌てて頷けば、コレットははーっとため息をついた。

「ダメだ、こりゃ。さては完成したのにも、お気付きでなかったですわね?」
「もう終わったの?」

 コレットは、ますます呆れ顔をした。他の侍女たちもだ。

「とにかく、鏡をご覧なさいませ!」

 姿見の前に、強引に連れて行かれる。私は、目を見張った。

(これが、あの地味で冴えなかったモニクかしら?)

 コンプレックスだった赤毛は華麗に結い上げられ、ゴールドのアクセサリーとも相まって、華やかな雰囲気を醸し出している。やや濃いめのメイクと、髪色に合わせた深紅のルージュが、それに拍車をかけていた。

 そして、その髪色と対照的なのが、鮮やかなグリーンの下地のドレスだ。これは、ミレー夫人のお見立てである。最初は派手すぎやしないかと思ったのだが、意外にも美しいコントラストを生み出している。赤と緑が、互いの魅力を高め合っているようだった。さらには、一面に施された金の刺繍が、ゴージャス感を増していた。

「素敵ですわ」

 侍女たちが、一様に頷く。するとコレットは、ぽんと手を叩いた。

「というわけで、花婿にご披露しましょう。先ほどから、待ちかねてますわよ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】推しとの同棲始めました!?

もわゆぬ
恋愛
お仕事と、推し事に充実した毎日を送っていた 佐藤 真理(マリー)は不慮の事故でまさかの異世界転移 やって来たのは大好きな漫画の世界。 ゲイル(最上の推し)に危ない所を救われて あれよあれよと、同棲する事に!? 無自覚に甘やかしてくるゲイルや、精霊で氷狼のアレン。 このご恩はいずれ返させて頂きます 目指せ、独り立ち! 大好きだったこの世界でマリーは女神様チートとアロマで沢山の人に癒しを与える為奮闘します ✩カダール王国シリーズ 第一弾☆

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

処理中です...