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最終章 前世から来世へ

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 アルベール様ではなくエミールを王室入りさせる、という話は、案外すんなり決定した。翌日、話をお聞きになったミレー公爵は、納得し賛成なさった。そしてすぐに、ジョゼフ五世陛下の元へ、話を伝えに行かれたのである。

『普通なら、小さいエミールを手放すのはどうかと思うところだけれど。でも、あの子の志を尊重してやりたい』

 公爵は、そう仰った。

『それに。私も内心では、アルベールを王室へはやりたくなかった。陛下の前で、彼が我がミレー家への思いを切々と訴えた時、どれほど苦しかったか。彼がこの家に留まりたがっているのは、よくわかっていた。陛下のご命令ゆえ、心を鬼にしていたが……』

 そんな風に、ミレー公爵は仰っていた。そして、この話をお聞きになったジョゼフ五世陛下は、意外にも諸手を挙げて賛成なさった。

 鷹狩りの際の『エミリー』が実はエミールだったと白状申し上げると、陛下はたいそう喜ばれたのである。あの時、陛下のお話を伺った『エミリー』は、実に的確な反応を返したのだとか。打てば響くようだと、陛下はたいそう感心されたのだそうだ。長い間『エミリー』を引き留めておられたのは、そのせいだったのである。

『女性でなければ宰相に取り立てたいところだと、惜しく思っていたところだ。エミールならば、長年の私の夢を引き継ぎ、実現してくれることだろう。是非彼を、未来の王太子として迎えよう』

 陛下は、そう仰った。かくして話はトントン拍子に進み、三日後には、エミールを王宮へと送り出すことになったのだった。

 その日、ミレー夫人とアルベール様、私は、エミールと付き添いのミレー公爵を、屋敷の前で見送っていた。モンタギュー侯爵とコレットも、駆け付けてくれている。

「体に気をつけて、頑張るのよ」

 ミレー夫人が、ハンケチで目頭を拭いながら仰る。アルベール様は、そんな彼女の肩を抱きながら、エミールに微笑みかけた。

「式典で、ドジるなよ」
「兄様よりは、上手くやる自信がありますよ」

 相変わらず強気な様子で、エミールが言い返す。そしてちょっとため息をついた。

「唯一残念なのは、この屋敷を離れたら、侍女のアンヌちゃんともう会えないことだなあ。あっ、それからメイドのブリジットちゃん、マリーちゃんとも」

 ジョゼフ五世陛下のお血を誰よりも受け継いだのは、このエミールで間違い無い。おそらく、その場にいた全員がそう思ったことだろう。
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