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第十四章 真犯人への罠

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 室内には、ベッドと最低限の家具があるだけだった。ベッド脇のサイドテーブルには、ワインの瓶とグラスが並んでいる。ドニ殿下は、ベッドに腰かけると、瓶を手に取られた。

「ちょうど良いところに来られた。一人で、飲んでおりましてね。お相手いただけますか」
「あいにく、ワインは苦手ですの」

 とっさに、私はお断りした。ドニ殿下の勧める物など、口にできるわけがない。

「それは残念だ。料理人が起きていたら、違う飲み物を用意させるのですが。寝たところを起こすのは、気の毒ですからね」

 私がここにいることを、知られないためだろう。それはつまり、いつでも私を殺せることも意味している。渦巻く恐怖心を無理やり抑えつけていると、殿下は手招きなさった。

「モニク嬢、いつまで立っておられるのです? どうぞ、こちらへ」
「でも……」
「夜にこうして寝室へ来てくださったということは、そういう意味ではないのですか」

 動こうとしない私に焦れたのか、殿下は立ち上がり、こちらに近付いて来た。

「あなたと兄上の結婚は、父上がお決めになったこと。もうどうしようもありません。けれど、そんな一方的な決定に縛られるいわれは無いと思われませんか? それに兄上はおそらく、あなたを正妃に迎えても、他に側妃を持たれるでしょう。あなたお一人が貞節を守らねばならないなど、理不尽ですよ。……だから」

 ドニ殿下は、私を抱きしめた。

「僕とこうなることも、決して悪いことではない……。そうは思われませんか」

 あくまでも、私を籠絡して利用しようというお考えは変わらないらしい。今度は、王太子妃という私の立場を利用しようというのだろう。上手くいけば、ご自分は動かずして、私にマルク殿下のお命を狙う役を担わせられるかもしれない。おまけに、私を妃に迎えずとも済む。

(馬鹿にしないで。あなたの手の内は、もう見えているわ……!) 

「仰る通りですわね。……でも、その前に。私、大変気になることがありますの」

 私は、にっこりと微笑みながら、殿下をそっと押しのけた。

「お母上の形見と仰って、前に見せていただいた、あの素敵なロケットなのですけれど。殿下、あれはまだお持ちでいらっしゃいますの?」

 一瞬、ドニ殿下の瞳が揺れた。

「――ええ。もちろんです。この離宮へは持って来ませんでしたけれどね。謹慎などしているところを、恥ずかしくて母には見せられませんよ」
「では、王宮内にお持ちですの?」

 ええ、と殿下はけろりと仰った。

「自室に、大切にしまっております。ここへ来る朝も、眺めたものですよ」
「あら、それはおかしいですわね」

 私は、首をかしげてみせた。

「殿下がこの離宮へ来られたのは、鷹狩りの後でございましょう? 私ね、実は鷹狩りの前に、とある場所であのロケットを見つけたのです。……サリアン伯爵領の、森の中ですわ」

 殿下のお顔から、スッと血の気が引いていく。私は、懐からおもむろにロケットを取り出した。

「さらに正確に申し上げるなら……、アンバーの遺体が発見された場所ですわ」
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