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第十四章 真犯人への罠
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「……そういうことでしたら」
国王陛下のお名前を出されたのでは仕方ないとばかりに、侯爵夫人は一礼して退室された。二人きりになると、マルク殿下は真っ直ぐに私を見つめられた。
「先日は、あなたのおかげで本当に助かりました。改めて、お礼を申し上げます。ありがとう」
「とんでもありません。当然のことをしたまででございます」
私は、丁重にお返事申し上げた。そのお礼を仰りにいらっしゃったのかと思ったが、殿下は不意に深刻な表情になられた。
「あなたには、お詫びも申し上げねばなりません。父上が、このように強引に婚約を決められたのは、その件がきっかけです。しかも犯人は、どうやらずっと以前から、私の毒殺を企んでいたようなのです」
私は、ドキリとした。
「鷹狩りの後、私は何度も医師の診察を受けさせられました。さらには、王宮の料理人全員が、一斉に取り調べられているとのこと。父上は私を心配させまいとしてか、何も仰らないので、私はベルナールに命じて探らせたのです。そうしたところ、どうやら私は恒常的に毒を盛られており、父上はそのことを調べさせているようだとわかりました」
ベルナール様というのは、ガストンの郷里へ行って調査をなさった、マルク殿下の忠臣である。モンタギュー侯爵のご報告を受けて、ジョゼフ五世陛下は迅速に動かれたのだな、と私は合点した。
「……犯人の目星は付きましたの?」
いえ、と殿下はかぶりを振られた。
「ベルナールによると、まだわかっていないようだと」
本当に判明していないのか、判明していても陛下が伏せておられるのか。一体どちらだろう、と私は思った。
「父上が、焦って私とあなたの婚約を決められたのには、そういう背景があるのです。長年摂取させられた毒物のせいで、私の体は弱りつつある。子が成せる間に、早く世継ぎを作って欲しいのでしょう。そして、植物に詳しく毒草を見分ける力のあるあなたなら、私を守るのにふさわしい、と。恐らくは、そういったお考えでしょう」
陛下のお気持ちも、わからなくはないけれど。だからといって、はいそうですかと受け入れるわけにもいかない。困り果てていると、マルク殿下は思いがけないことを仰った。
「とはいえ、あなたにはアルベール殿がいらっしゃる。さぞご迷惑な話でしょう。そして私もまた、あなたを妻に迎えるつもりは無かったのです。……というより、どなたとも結婚するつもりはありませんでした。実は私は、かねてからこう考えていたのです。王位は、ドニに譲ろうと」
国王陛下のお名前を出されたのでは仕方ないとばかりに、侯爵夫人は一礼して退室された。二人きりになると、マルク殿下は真っ直ぐに私を見つめられた。
「先日は、あなたのおかげで本当に助かりました。改めて、お礼を申し上げます。ありがとう」
「とんでもありません。当然のことをしたまででございます」
私は、丁重にお返事申し上げた。そのお礼を仰りにいらっしゃったのかと思ったが、殿下は不意に深刻な表情になられた。
「あなたには、お詫びも申し上げねばなりません。父上が、このように強引に婚約を決められたのは、その件がきっかけです。しかも犯人は、どうやらずっと以前から、私の毒殺を企んでいたようなのです」
私は、ドキリとした。
「鷹狩りの後、私は何度も医師の診察を受けさせられました。さらには、王宮の料理人全員が、一斉に取り調べられているとのこと。父上は私を心配させまいとしてか、何も仰らないので、私はベルナールに命じて探らせたのです。そうしたところ、どうやら私は恒常的に毒を盛られており、父上はそのことを調べさせているようだとわかりました」
ベルナール様というのは、ガストンの郷里へ行って調査をなさった、マルク殿下の忠臣である。モンタギュー侯爵のご報告を受けて、ジョゼフ五世陛下は迅速に動かれたのだな、と私は合点した。
「……犯人の目星は付きましたの?」
いえ、と殿下はかぶりを振られた。
「ベルナールによると、まだわかっていないようだと」
本当に判明していないのか、判明していても陛下が伏せておられるのか。一体どちらだろう、と私は思った。
「父上が、焦って私とあなたの婚約を決められたのには、そういう背景があるのです。長年摂取させられた毒物のせいで、私の体は弱りつつある。子が成せる間に、早く世継ぎを作って欲しいのでしょう。そして、植物に詳しく毒草を見分ける力のあるあなたなら、私を守るのにふさわしい、と。恐らくは、そういったお考えでしょう」
陛下のお気持ちも、わからなくはないけれど。だからといって、はいそうですかと受け入れるわけにもいかない。困り果てていると、マルク殿下は思いがけないことを仰った。
「とはいえ、あなたにはアルベール殿がいらっしゃる。さぞご迷惑な話でしょう。そして私もまた、あなたを妻に迎えるつもりは無かったのです。……というより、どなたとも結婚するつもりはありませんでした。実は私は、かねてからこう考えていたのです。王位は、ドニに譲ろうと」
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