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第十三章 思いがけない王命

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 その夜私は、自室のベッドの上で一人、膝を抱えていた。モーリスとコレットは、あの後すぐに屋敷を追い出されたのだ。侍女たちも、私が信頼を寄せていた者たちは遠ざけられた。代わって私に付けられたのは、お父様の命を受けたらしき数名だった。いずれも、金や欲得で動きそうな者ばかりだ。彼女たちは事務的に、明日の王宮行きに向けた支度を整えた。その後は、従僕たちに監視されながら、部屋に閉じ込められている状況である。

(こんなの、いろいろおかしいわよ……)

 屋敷は、もうめちゃくちゃだ。バルバラ様は、本当にローズを連れて出て行かれてしまった。そのせいですっかりふてくされたお父様は、自室にこもりきりである。

(めげちゃダメよ。まだ道はあるわ)

 私は、どうにか気持ちを奮い立たせた。こうなったら明日は取りあえず、王宮へ行くしかない。そこで、マルク殿下にお会いする機会を作るのだ。彼は、聡明なお方である。事情をお伝えすれば、きっと理解してくださるはずだ。

(……それから。モーリスとコレットのことも、どうにかしてあげなくちゃね)

 モーリスは、ひとまず親類の家に身を寄せると言っていた。コレットは、アルベール様との作戦会議目的も兼ねて、ミレー家へ行くのだという。二人には責任を持って、新しい職場を探してやろう。

 無理やり自分を鼓舞すると、私はベッドから下り、ドアの所へと向かった。そっと開けただけで、従僕たちが警戒の色を見せる。

「何です?」
「中庭へ行きたいの」

 私は、彼らの目を見てきっぱりと告げた。

「あそこは、お母様の思い出の場所なのよ。最後に、お別れしたいわ」
「しかし……」
「一人でとは、言わないわ」

 彼らの口から拒絶の言葉が出る前に、私は言った。

「誰か一人、監視を付けてくれて構わないから。それくらい、いいでしょう?」

 従僕たちは、顔を見合わせて頷いた。

「……まあ、それなら」

 私は、一人の従僕に付き従われて、中庭へと出た。真っ先に、トピアリーの元へと向かう。

(大切な、お母様の形見。あなたたち、どうなってしまうのかしら……)

 守ってきたモーリスがいなくなった今、お父様とバルバラ様は、撤去してしまわれかねない。不安な思いでトピアリーを撫でていたその時、私は、長身の男性がこちらに近付いて来るのに気付いた。

(嘘!? まさか……)

「誰だ!?」

 従僕が血相を変え、男性の元へ突進する。だが次の瞬間、男性の拳が従僕のみぞおちに命中した。従僕が、声も無くその場に崩れ落ちる。それを見届けると、男性はつかつかと私の元へ歩み寄った。

「遅くなって申し訳なかった……。モニク」
 
 アルベール様は、そう言って私を抱きしめた。
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