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第十二章 波乱の鷹狩り

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 啄むような口づけの後、ゆっくりと舌が入って来る。柔らかく口内をまさぐられ、舌を絡められて、私はうっとりと瞳を閉じた。小鳥のさえずりと、木々が風で揺れる音、そして自分たちの吐息以外は何も聞こえなくて、何だか不思議な感じだ。陳腐な言い方をすれば、『この世に二人だけ』、そんな気分だった。

(早く戻らないと、不審に思われるわよね。第一、アルベール様とのこんな場面を見られたら、作戦は台無し……)

 頭ではわかっているのに、私はアルベール様を拒めなかった。それどころか、強請るように、彼の背に腕を回してしまう。狩猟後のせいか、香水に混じって軽い汗の匂いもして、私は恍惚となった。

 長い口づけの後、アルベール様はようやく唇を離した。ところが、これで終わりかと思いきや、彼は私の首筋に唇を這わせ始めた。

「えっと……、アルベール様?」

 トントンと背中を叩いて抗議するが、彼は、そんな私の両腕をつかむと、縫い止めるように木の幹に押し付けた。いつの間にか、下半身は彼の脚でがっちり拘束されていて、もはや身動きが取れない。

「アルベール様!」
「このままこの場で、あなたを俺のものにしてしまおうかな。人なんか、来やしませんよ。……多分ね」

 クスリと笑いながら、アルベール様は私を抱き抱えると、敷かれた上着の上に押し倒した。あっという間に覆いかぶさられて、私は硬直した。

(本気で……!?)

 逆光のせいで、彼の表情はよくわからない。私は、必死でわめいた。

「ダメ、ダメです……! 結婚前に、こんな……、というか外で……、じゃなくて、人が、人が来たら、どうするんです!!」

 一気にまくし立てると、アルベール様の動きは止まった。数秒の後、彼は唐突にプッと吹き出した。

「冗談ですよ」
「……はい?」
「まさか、本気にしましたか? 可愛い人だな」

 アルベール様は、素早く身を起こすと、私のことも抱き起こしてくれた。私は、思わず食ってかかっていた。

「人がお悪いですわよ! どうして、こんな……」
「キス未遂の、仕返しです」

 けろりとそう仰ると、アルベール様は、私の髪に付いた木の葉を取ってくださった。

「そろそろ、戻りましょうか」

 無邪気に微笑まれれば、何だか怒る気も失せてしまう。私はさっさと立ち上がると、アルベール様を残して、帰り道を急いだ。心臓は激しく脈打ち、顔も熱い。それは、単に焦ったからでは、無い気がした。
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