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第十章 蘇った記憶

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「本当ですか? お受けいただけると?」

 ドニ殿下が、顔をほころばせる。ええ、と私は顔を赤らめながら答えた。自在に顔を赤くする技術は、以前ローズが、得意げに語っていたものだ。馬鹿げていると一笑に付したものだが、役に立つ日が来るとは思わなかった。初めて、義妹に感謝する。

「ありがとう……。嬉しいです」

 殿下は、私の手を取ると、軽くキスをされた。

「当日を、楽しみにしていますよ」
「私もです」

 にっこりと微笑みながら、私は殿下をお見送りした。その後、すぐに屋敷へ引き返す。すると、コレットがやって来た。深刻な顔をしている。

「モニク様、お話が」
「部屋へ来てちょうだい」

 コレットを自室へ通すと、私は彼女が言い出すより先に尋ねた。

「ドニ殿下の香水に、覚えがあったかしら?」
「――!? どうして、それを……」

 さすがのコレットも、口をあんぐりと開けた。

「私、記憶が戻ったのよ。バール男爵とシモーヌ夫人を殺したのは、殿下だわ」

 コレットは、息を呑んだ後、ため息をついた。

「そうでしたか……。私も、鼻には自信があったのですが、さっきはよもやと思いましたわ。でも、確かに彼の香水は、アンバーの遺留品に付着していたのと同じ香りでした」

 やはりか、と私は思った。コレットが、申し訳なさそうにする。

「すみません、もっと早くに思い出せればよかったのですが……。私がこのお屋敷に初めて来た日、ドニ殿下はモンタギュー侯爵と一緒に、モニク様の取り調べに来られましたよね。あの日、私は殿下と廊下ですれ違ったのです。確かにその時、彼からは香水の香りがしましたわ。だから、その後で遺留品のハンケチの香りを嗅いだ時、覚えがあると感じたのですわ」

 すみません、とコレットがもう一度謝罪する。私は、彼女を慰めた。

「いいのよ、気にしなくて。それにしても、アンバーの恋人は、ドニ殿下だったのね……」

 私は、アンバーの遺体が発見されたと言って、モンタギュー侯爵が来られた日のことを思い出していた。アンバーが生前、自分の恋人を自慢していたという話題になった時。殿下は、こう仰っていた。

 ――大げさに言ったのでは?
 ――そんな娘と付き合うような男性が、大した人物とも思えませんが。同じような類の男ではないのですか……。

 今思えば、アンバーの恋人は身分の低い男だ、と私たちを誘導なさりたかったのだろう。

 私は、何だかアンバーが哀れになった。おそらくドニ殿下は、私に仰ったのと同じように、妃に迎えたいとでも彼女を口説いたに違いない。『あなたたちの手の届かない所へ行く』というアンバーの発言が、それを証明している気がした。一介の侍女が王子に見初められたと、さぞ舞い上がったことだろう。利用され、果ては殺されるとも知らずに……。

 私は、ぐっと拳を握りしめた。

(子供の頃から、ずっと一緒だったアンバー。彼女を利用するだけして、むごたらしく殺すなんて。ドニ殿下、私はあなたを、絶対に許さないわ……)
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