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第九章 堕ちるならどこまでも

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 前回も案内されたソファに、向かい合って腰かける。あの時は、アルベール様のリュート演奏にうっとりしていたけれど、今日の私たちには、正反対の深刻なムードが漂っていた。

「全て、と仰ったが。どこまでご存じなのです?」

 アルベール様が、私の目を見すえられる。

「バール男爵が、あなたのお祖父様をイカサマ賭博に巻き込み、伯爵家を破綻させたこと。……そして、エレーヌ様、あなたのお母様を手込めにされたこと。お祖父様とお祖母様は、自害なさったこと……」
「なるほど。おおむね、真実ですね」

 アルベール様は、頷かれた。

「だが一点だけ、事実と異なることがあります。祖父母は、自害したのではありません。オーギュスト・ド・バールに殺されたのです」

 私は、息を呑んだ。

(殺された……?)

 アルベール様は立ち上がると、机の引き出しから、古びたノートを取って来られた。彼は、それを膝の上で、大切そうに握りしめた。

「以前もお話しした通り、俺の出生については、周囲からとやかく言われました。八歳の時、俺はついに、ミレーの両親を問い詰めました。隠し通せないと考えたのでしょう。両親は、俺の母親がエレーヌ・ド・クイユだと打ち明けました。エミールを引き取ろうとしていた頃ですから、その辺りも関係したのかもしれません」

 確かに十二年前だ、と私は納得した。

「両親は、こう語りました。未婚で妊娠した上、両親を亡くした母を、救ってあげたいと考えたのだと。そこで、ミレー邸の離れに母を匿い、出産までサポートされた。だが、俺を産んだ後、母は体調が悪化しました。死期が近いことを悟った母は、俺を里子に出してくれと、夫妻に頼みました。しかし彼らは、自分たちで育てる道を選んだのです」
「そうだったのですね……」

 誰もエレーヌ嬢の行方を知らなかったのは、公爵邸に匿われていたからだったのか。私は改めて、ミレー夫妻の慈悲深さに感動した。

「このことを知っているのは、ミレー夫妻と、母の妹……つまりコレットの母親だけでした。その後クイユ伯爵家を継いだ人物は、何も知りません。母は彼に、自分は修道院に入ると偽ったそうです。そして姿を消し、ミレー家へ身を潜めた。……それをいいことに、俺はクイユ家に接近を始めたのです。……父親について、知るために」 
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