75 / 240
第七章 新たな犠牲者
9
しおりを挟む
「それは、男性ですか、女性ですか?」
モンタギュー侯爵が、ドニ殿下にお尋ねになる。さあ、と殿下は首をかしげられた。
「事件の翌日、こちらへ弔問に訪れた際、門番がペラペラと喋っていたのですよ。まだ手袋とショールが出て来る前だったので、私もうっかり聞き流しておりました」
「ガストンめ……」
お父様は、歯ぎしりされた後、ハッとしたような顔をされた。
「モンタギュー様、失礼いたしました。これ以上、娘に疑いがかかってはと、言えずにいたのです」
「いえ。ドニ殿下が仰った通り、モニク嬢に濡れ衣を着せる一環でしょう……。すぐに、門番を呼んでください」
だがお父様は、力無くかぶりを振った。
「すみません。ガストンは……門番は、今休暇を取って、郷里に帰っているのです。本当です。でも、明日には戻りますから」
「明日ですか。でしたら明日、もう一度こちらへ参ります。そしてその門番から、じっくり話を聞かせてもらいましょう。アンバー殺しの夜のアリバイの件も含めて、ね」
モンタギュー侯爵にじっと見つめられ、私は静かに頷いた。
「私には、何も疚しいことはございません。何なりと、聞いていただければと思います。……そして真犯人を捕らえ、アンバーや男爵、夫人の無念を晴らしていただきたいですわ」
「承知いたしました」
侯爵が、うやうやしくお辞儀をされる。その瞳からは、もうすっかり私への疑念は消えていて、私は少しだけ安堵したのだった。
モンタギュー侯爵が、ドニ殿下にお尋ねになる。さあ、と殿下は首をかしげられた。
「事件の翌日、こちらへ弔問に訪れた際、門番がペラペラと喋っていたのですよ。まだ手袋とショールが出て来る前だったので、私もうっかり聞き流しておりました」
「ガストンめ……」
お父様は、歯ぎしりされた後、ハッとしたような顔をされた。
「モンタギュー様、失礼いたしました。これ以上、娘に疑いがかかってはと、言えずにいたのです」
「いえ。ドニ殿下が仰った通り、モニク嬢に濡れ衣を着せる一環でしょう……。すぐに、門番を呼んでください」
だがお父様は、力無くかぶりを振った。
「すみません。ガストンは……門番は、今休暇を取って、郷里に帰っているのです。本当です。でも、明日には戻りますから」
「明日ですか。でしたら明日、もう一度こちらへ参ります。そしてその門番から、じっくり話を聞かせてもらいましょう。アンバー殺しの夜のアリバイの件も含めて、ね」
モンタギュー侯爵にじっと見つめられ、私は静かに頷いた。
「私には、何も疚しいことはございません。何なりと、聞いていただければと思います。……そして真犯人を捕らえ、アンバーや男爵、夫人の無念を晴らしていただきたいですわ」
「承知いたしました」
侯爵が、うやうやしくお辞儀をされる。その瞳からは、もうすっかり私への疑念は消えていて、私は少しだけ安堵したのだった。
0
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説
お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます
柚木ゆず
恋愛
ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。
わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?
当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。
でも。
今は、捨てられてよかったと思っています。
だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】推しとの同棲始めました!?
もわゆぬ
恋愛
お仕事と、推し事に充実した毎日を送っていた
佐藤 真理(マリー)は不慮の事故でまさかの異世界転移
やって来たのは大好きな漫画の世界。
ゲイル(最上の推し)に危ない所を救われて
あれよあれよと、同棲する事に!?
無自覚に甘やかしてくるゲイルや、精霊で氷狼のアレン。
このご恩はいずれ返させて頂きます
目指せ、独り立ち!
大好きだったこの世界でマリーは女神様チートとアロマで沢山の人に癒しを与える為奮闘します
✩カダール王国シリーズ 第一弾☆
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる