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第六章 偽装恋人宅の訪問

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「ええ!? こちらが、エミール様?」

 私は、驚いてアルベール様に尋ねた。すると、彼が反応するより早く、エミール様が答えた。

「初めまして、エミールと申します。こんな素敵なレディにお目にかかれて、光栄でございます!」

 エミール様は、金髪の巻き毛と、利発そうな茶色い瞳が特徴の、やんちゃな雰囲気の少年だった。私も、慌ててご挨拶する。

「こちらこそ初めまして、エミール様。モニク・ド・サリアンでございますわ」
「エミールで結構です。……というか兄様、いい加減に放してもらえません?」

 エミールは、まだアルベール様に首根っこをつかまれた状態だったのだ。アルベール様が、不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。

「どうしてこんな真似をしたのか、白状するまで放さんぞ」
「そりゃ、硬派な兄様が、どんな風に女性に愛を囁くのか、興味があったから。僕も、将来の参考にできるし……。て、痛っ」

 アルベール様に頭を小突かれて、エミールは顔をしかめた。

「全く……。父上も母上も、お前を捜してらしたんだぞ。心配をかけるなというに……」

 ぶつぶつ言いながらも、アルベール様はようやくエミールを解放すると、元通り私の向かいに腰かけた。エミールは、当然のように彼の隣に座ると、にやっと笑った。

「ロマンチックさでは、八十点かなあ。演奏をお聴かせするのは良いとして、せっかくだから、愛の詩でも吟唱なさればよかったのに」
「生意気なことを言うな」

 アルベール様は、もう一度彼を小突いた。

「俺は、文学的なことは苦手なんだ……。というよりエミール、お前はいつまで居座る気だ? 紹介は済んだのだから、さっさと出て行け」
「うーん、そのつもりだったんですけど。興味深い話が聞こえちゃったもので、それは無理ですね」

 エミールは、けろりと答えた。

「調香師を追う、とか仰ってましたよね。それって、あのバール男爵殺し絡みでしょう? 面白そうなんで、僕にも手伝わせてください!」

 私とアルベール様は、思わず顔を見合わせた。
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