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第六章 偽装恋人宅の訪問

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(奥ゆかしいというより、単に社交が嫌で逃げただけなのだけれど……)

 何だかくすぐったいけれど、素直に嬉しい気もする。私は、丁重に礼を述べてショールを受け取った。

「わざわざ、ありがとうございます。こんなに美しく手入れしてくださって……」

 ショールは、完璧にブラッシングされていた。どう見ても、前より状態が良くなっている。名門公爵家ともなれば、雇っている侍女もきっと優秀なのだろう。

「気になさらないで。あの日、実は体調が思わしくなくてね。ショールのおかげで、助かりましたのよ。よく気付いてくださったわ」

 そしてミレー夫人は、不意に深刻な表情になった。

「こんな心優しい令嬢を疑うなんて、マルク殿下は、一体何を考えてらっしゃるのかしら。ねえ、あなた?」
「まあまあ。マルク殿下は、犯罪には厳しいお方だからな。特に、王妃様の一件以来……。だから、念のため、というくらいだろう」

 夫人をなだめるように、公爵が仰る。マルク殿下のお母上・王妃殿下は、九年前に違法薬物の使用が発覚した。さらには側近貴族との不義も露見し、ジョゼフ五世陛下は、彼女にたいそうお怒りになった。王妃殿下は幽閉されることとなったが、屈辱に耐えかねたのだろう、幽閉から程なくして自害なさったのだ。

 当時十七歳だったマルク殿下は、この事件にひどくショックを受けられた。以来彼は、違法薬物を厳しく取り締まられるようになった。それだけでなく、他の犯罪にも敏感になられたのだ……。

「捜査状況は、どうなっているのです? ああ、あなたが陣頭指揮を執れないのが、口惜しいわね」

 夫人が、歯がゆそうな顔をされる。ミレー公爵は、私の『恋人』アルベール様のお父上ということで、今回の捜査から外されているのである。 

「マルク殿下は今、ご体調が優れないそうで、モンタギュー殿が頑張ってくれている。だが、まだ嫌疑は完全に晴れたとは言い難いな」
「殿下は、大丈夫なのでしょうか?」

 私は、思わず尋ねていた。マルク殿下は、元々お体が丈夫でないのだ。公爵が、目を見張られる。

「少々、お疲れが出ただけだろう。……だがモニク嬢は、本当にお優しいのだな。ご自分を容疑者扱いされた殿下を、そのように心配なさるとは」
「それとこれとは、別の話ですわ」

 そこへ、アルベール様が口を挟まれた。

「父上、母上、ご心配なく。私が、必ずモニク嬢の濡れ衣を晴らしますから。……さあ、もう気の滅入る話は止しましょう。今日は、彼女をご紹介したく、お連れしたのですから」
「確かに」
「その通りね」

 夫妻が頷かれる。そこでアルベール様は、首をかしげられた。

「ところで、エミールは? 彼にも紹介したいのですが」
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