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第五章 不信と恋慕の狭間で

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 アルベール様が沈黙しておられたのは、ごくわずかな間だった。彼は、少し微笑むと、あっさり答えられた。

「モニク嬢が心配だったのですよ。主役だというのに、会場から姿を消し、なかなか戻って来られない。なので、捜しに行ったのです。そうしたら倒れてらっしゃるので、驚きました」
「……」

 今度は、私が黙り込む番だった。あの部屋は、屋敷の隅にある、使われていない客間だ。人も、滅多に寄りつかない。我が家を訪れたことなど、数えるほどしか無い彼が、よく探し当てられたな、と思ったのだ。とはいえ、それ以上問い詰めれば疑っているようだ。逡巡していると、アルベール様は思い出したようにこう仰った。

「ああ、ところで。今日ドニ殿下が仰っていましたが、証拠品が埋まっていたトピアリーは、お母上の思い出のあるものだとか?」
「……ええ」

 話題を逸らされた気もしたが、私は仕方なく頷いた。

「母は、植物が好きでしたの。以前ご案内した庭園も、彼女の趣味で造ったものですわ。執事も、その思い出を大切にしていて、定期的に新しいトピアリーを導入するのです」
「殿下は、よくご存じでしたね?」
「ローズが、よくサロンで茶会を開くのです。それにドニ殿下も、以前から参加されていて。私も、たまに加わるのですわ。その際に、お話ししたことがあって」
「ふうん……。以前から、ですか」

 アルベール様は、思案顔になった。

「では殿下は、あなたのことをそれなりによくご存じ、ということですね。だとしたら、警戒せねば」
「警戒?」

 ええ、と彼は深刻な表情で頷いた。

「今日も、聞いておられたでしょう。お互いのどこが好きなのか、と。親しかっただけに、俺たちの仲を疑っておられるのかもしれません」

 アルベール様は、私をじっとご覧になった。

「今日はどうにか切り抜けられましたが、あなたも、あの場面で詰まったりしてはダメですよ。いくら偽装とはいえ、俺の好きな所くらい、さっと言えるようにしておかないと」
「……ごめんなさい」
 
 確かに、あれは失敗だった。アルベール様が、淡々と続けられる。

「モンタギュー侯爵や他の人に対してもですが、ドニ殿下の前では、特にアピールした方がいいかもしれませんね。俺たちが愛し合っている、と」

 私は、一瞬ためらった。容疑を切り抜けるためには、アルベール様の意見に従うべきなのはわかっている。でも、殿下は私を想っている、と言ってくださった。そんな彼の前で、ことさらにアルベール様とイチャつけというのか……。
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