29 / 240
第三章 窮地とプリンスの援護
8
しおりを挟む
「兄上、何を仰るんです!」
ドニ殿下は、マルク殿下に詰めよった。
「まるで、モニク嬢が犯人であるかのような仰り様は、止めていただきたい。ローズ嬢も、軽率に断定するものではありませんぞ!」
「――いえ。それは、私の物ですわ」
私は、冷静に申し上げた。手袋とショールは、確かに私の物だ。嘘をついても、すぐバレる話である。
「ですが、一週間ほど前に紛失し、捜していたものです。この血痕や、ここに埋めてあったことについて、心当たりはございませんわ」
侍女たちに捜させたが、結局出て来なかったのである。大して気に入った品では無いから、諦めてそれきり忘れていたのだが……。
(こんな所に、なぜ……? 記憶は無いけれど、やっぱり私が……!?)
いや、堂々とするのだ、と私は自分に言い聞かせた。アルベール様と、お約束したではないか……。
「……紛失、ですか」
マルク殿下が、疑わしげに眉をひそめる。そんな彼に、ドニ殿下はカッとなったようだった。
「女性の服飾品なんて、いくらでも同じ物は出回っているでしょう。第一、モニク嬢がそんな人間だとお思いですか? こんな心優しい彼女が……」
だが、マルク殿下は何も仰らなかった。ローズも、複雑そうな表情で下を向いている。彼女も私を疑っているのだろうか、と私はやりきれない思いに駆られた。いくら仲は良くないとはいえ、同じ家で共に育った姉妹だというのに。
(でも、こんな状況でも、ドニ殿下は私を信じてくださったわ……)
不覚にも、目頭が熱くなる。その時私は、屋敷の方が騒がしいのに気付いた。見れば一人の侍女が、中庭に向かって走って来る。
「マルク殿下、ドニ殿下、お話中失礼いたします。……モニクお嬢様、旦那様がすぐに部屋に来るように、とのことです」
侍女は、血相が変わっていた。よく事情がわからないまま、私は頷いた。
「わかったわ。……すみません、私はこれで失礼いたします。ローズ、悪いけれど後をお願いするわ」
丁重に殿下たちにご挨拶して中庭を去ると、私は侍女に付いて、お父様のお部屋へと向かった。ノックをして入室すると、お父様は険しい表情で机に向かわれていた。
「モニク。お前のワードローブから、これが出て来たそうだ」
お父様が差し出された物を見て、私はぎょっとした。それは、短剣だったのだ。護身用に私が所持していたもので、サリアン家の家紋が入っている。その刃には、おびただしい量の血液が付着していた。
「アンバーが報告してくれた。退職前に最後の仕事を、とお前のワードローブを整理していて、見つけたそうだ」
ドニ殿下は、マルク殿下に詰めよった。
「まるで、モニク嬢が犯人であるかのような仰り様は、止めていただきたい。ローズ嬢も、軽率に断定するものではありませんぞ!」
「――いえ。それは、私の物ですわ」
私は、冷静に申し上げた。手袋とショールは、確かに私の物だ。嘘をついても、すぐバレる話である。
「ですが、一週間ほど前に紛失し、捜していたものです。この血痕や、ここに埋めてあったことについて、心当たりはございませんわ」
侍女たちに捜させたが、結局出て来なかったのである。大して気に入った品では無いから、諦めてそれきり忘れていたのだが……。
(こんな所に、なぜ……? 記憶は無いけれど、やっぱり私が……!?)
いや、堂々とするのだ、と私は自分に言い聞かせた。アルベール様と、お約束したではないか……。
「……紛失、ですか」
マルク殿下が、疑わしげに眉をひそめる。そんな彼に、ドニ殿下はカッとなったようだった。
「女性の服飾品なんて、いくらでも同じ物は出回っているでしょう。第一、モニク嬢がそんな人間だとお思いですか? こんな心優しい彼女が……」
だが、マルク殿下は何も仰らなかった。ローズも、複雑そうな表情で下を向いている。彼女も私を疑っているのだろうか、と私はやりきれない思いに駆られた。いくら仲は良くないとはいえ、同じ家で共に育った姉妹だというのに。
(でも、こんな状況でも、ドニ殿下は私を信じてくださったわ……)
不覚にも、目頭が熱くなる。その時私は、屋敷の方が騒がしいのに気付いた。見れば一人の侍女が、中庭に向かって走って来る。
「マルク殿下、ドニ殿下、お話中失礼いたします。……モニクお嬢様、旦那様がすぐに部屋に来るように、とのことです」
侍女は、血相が変わっていた。よく事情がわからないまま、私は頷いた。
「わかったわ。……すみません、私はこれで失礼いたします。ローズ、悪いけれど後をお願いするわ」
丁重に殿下たちにご挨拶して中庭を去ると、私は侍女に付いて、お父様のお部屋へと向かった。ノックをして入室すると、お父様は険しい表情で机に向かわれていた。
「モニク。お前のワードローブから、これが出て来たそうだ」
お父様が差し出された物を見て、私はぎょっとした。それは、短剣だったのだ。護身用に私が所持していたもので、サリアン家の家紋が入っている。その刃には、おびただしい量の血液が付着していた。
「アンバーが報告してくれた。退職前に最後の仕事を、とお前のワードローブを整理していて、見つけたそうだ」
0
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説
お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます
柚木ゆず
恋愛
ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。
わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?
当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。
でも。
今は、捨てられてよかったと思っています。
だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】推しとの同棲始めました!?
もわゆぬ
恋愛
お仕事と、推し事に充実した毎日を送っていた
佐藤 真理(マリー)は不慮の事故でまさかの異世界転移
やって来たのは大好きな漫画の世界。
ゲイル(最上の推し)に危ない所を救われて
あれよあれよと、同棲する事に!?
無自覚に甘やかしてくるゲイルや、精霊で氷狼のアレン。
このご恩はいずれ返させて頂きます
目指せ、独り立ち!
大好きだったこの世界でマリーは女神様チートとアロマで沢山の人に癒しを与える為奮闘します
✩カダール王国シリーズ 第一弾☆
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる