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第三章 窮地とプリンスの援護

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「兄上、何を仰るんです!」

 ドニ殿下は、マルク殿下に詰めよった。

「まるで、モニク嬢が犯人であるかのような仰り様は、止めていただきたい。ローズ嬢も、軽率に断定するものではありませんぞ!」
「――いえ。それは、私の物ですわ」

 私は、冷静に申し上げた。手袋とショールは、確かに私の物だ。嘘をついても、すぐバレる話である。

「ですが、一週間ほど前に紛失し、捜していたものです。この血痕や、ここに埋めてあったことについて、心当たりはございませんわ」

 侍女たちに捜させたが、結局出て来なかったのである。大して気に入った品では無いから、諦めてそれきり忘れていたのだが……。

(こんな所に、なぜ……? 記憶は無いけれど、やっぱり私が……!?)

 いや、堂々とするのだ、と私は自分に言い聞かせた。アルベール様と、お約束したではないか……。

「……紛失、ですか」

 マルク殿下が、疑わしげに眉をひそめる。そんな彼に、ドニ殿下はカッとなったようだった。

「女性の服飾品なんて、いくらでも同じ物は出回っているでしょう。第一、モニク嬢がそんな人間だとお思いですか? こんな心優しい彼女が……」

 だが、マルク殿下は何も仰らなかった。ローズも、複雑そうな表情で下を向いている。彼女も私を疑っているのだろうか、と私はやりきれない思いに駆られた。いくら仲は良くないとはいえ、同じ家で共に育った姉妹だというのに。

(でも、こんな状況でも、ドニ殿下は私を信じてくださったわ……)

 不覚にも、目頭が熱くなる。その時私は、屋敷の方が騒がしいのに気付いた。見れば一人の侍女が、中庭に向かって走って来る。

「マルク殿下、ドニ殿下、お話中失礼いたします。……モニクお嬢様、旦那様がすぐに部屋に来るように、とのことです」

 侍女は、血相が変わっていた。よく事情がわからないまま、私は頷いた。

「わかったわ。……すみません、私はこれで失礼いたします。ローズ、悪いけれど後をお願いするわ」

 丁重に殿下たちにご挨拶して中庭を去ると、私は侍女に付いて、お父様のお部屋へと向かった。ノックをして入室すると、お父様は険しい表情で机に向かわれていた。

「モニク。お前のワードローブから、これが出て来たそうだ」

 お父様が差し出された物を見て、私はぎょっとした。それは、短剣だったのだ。護身用に私が所持していたもので、サリアン家の家紋が入っている。その刃には、おびただしい量の血液が付着していた。

「アンバーが報告してくれた。退職前に最後の仕事を、とお前のワードローブを整理していて、見つけたそうだ」 
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