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第三章 窮地とプリンスの援護
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「トピアリー? 興味深いですな。私も、是非拝見したい」
マルク殿下も、そう言い出された。すかさず、バルバラ様が甲高い声を上げる。
「まあ、感激ですわあ。どうぞどうぞ、ご覧くださいませ」
「ご案内させていただきますわね」
言いながらローズが、素早く席を立つ。
「私、植物って大好きですのよ。愛でていると、豊かな気分になれますもの」
よく言うわね、と私は内心呆れた。トピアリーにしても、アルベール様をご案内した庭園にしても、関心など持ったことが無いくせに。バルバラ様に至っては、トピアリーを撤去させようとなさったこともあるくらいだ。モーリスが、死守したのだけれど。
ローズがさっさと先に立って、マルク殿下をご案内するものだから、私は自然とドニ殿下をお連れする流れになった。屋敷の外に出ると、私は彼に、ぼそぼそとお礼を申し上げた。
「トピアリーのこと、覚えてくださっていて、嬉しいですわ」
「お母様のご趣味で、と仰っていましたから。親の形見というのは、特別な意味を持ちますよね……。僕もです」
殿下は、懐から古びたロケットを取り出された。べっ甲製で、シンプルなデザインだ。
「もしかして……?」
「ええ。母が亡くなる前に、僕に贈ってくれた物ですよ」
ドニ殿下のお母上は、殿下が幼い頃に病死されたのだ。豊かな金髪と青い瞳が特徴の、たいそう美しい方だったそうである。お母様譲りと思われる、深い瑠璃色の瞳を伏せて、彼はロケットの蓋を開けた。中には、国王陛下の肖像が収められていた。
「側妃の身分とはいえ、母は陛下を心から愛しておりましたから……」
ドニ殿下が、静かに呟かれる。雲の上のお方だと思っていた殿下だが、何だか急に身近な存在のように思えた。いつの間にか一人称も『僕』に変わっていて、余計そう感じさせる。
「失礼。モニク嬢の方が、よほどお辛いですよね。大切な方を、二人も亡くされたのですから」
ロケットを元通りにしまいながら、殿下が仰る。いえ、と私は短く答えた。バール男爵とは、会うことも無いまま縁談が進み、ついに言葉を交わさずじまいだった。婚約披露パーティーでは、さすがに会話くらいしたのだろうが、あいにく記憶は飛んでいる。正直、悲しいという実感は湧かなかった。
「お気遣い、ありがとうございます。でも、私なら大丈夫ですわ」
「支えてくれる男性が、いらっしゃるからですか」
「え……」
アルベール様のことを、仰っているのか。ドニ殿下は、チラと私の顔をのぞき込まれた。これまたお母様に似たらしき、まばゆい金髪が、太陽の光を浴びて輝く。
「僕は、少々出遅れたようですね」
マルク殿下も、そう言い出された。すかさず、バルバラ様が甲高い声を上げる。
「まあ、感激ですわあ。どうぞどうぞ、ご覧くださいませ」
「ご案内させていただきますわね」
言いながらローズが、素早く席を立つ。
「私、植物って大好きですのよ。愛でていると、豊かな気分になれますもの」
よく言うわね、と私は内心呆れた。トピアリーにしても、アルベール様をご案内した庭園にしても、関心など持ったことが無いくせに。バルバラ様に至っては、トピアリーを撤去させようとなさったこともあるくらいだ。モーリスが、死守したのだけれど。
ローズがさっさと先に立って、マルク殿下をご案内するものだから、私は自然とドニ殿下をお連れする流れになった。屋敷の外に出ると、私は彼に、ぼそぼそとお礼を申し上げた。
「トピアリーのこと、覚えてくださっていて、嬉しいですわ」
「お母様のご趣味で、と仰っていましたから。親の形見というのは、特別な意味を持ちますよね……。僕もです」
殿下は、懐から古びたロケットを取り出された。べっ甲製で、シンプルなデザインだ。
「もしかして……?」
「ええ。母が亡くなる前に、僕に贈ってくれた物ですよ」
ドニ殿下のお母上は、殿下が幼い頃に病死されたのだ。豊かな金髪と青い瞳が特徴の、たいそう美しい方だったそうである。お母様譲りと思われる、深い瑠璃色の瞳を伏せて、彼はロケットの蓋を開けた。中には、国王陛下の肖像が収められていた。
「側妃の身分とはいえ、母は陛下を心から愛しておりましたから……」
ドニ殿下が、静かに呟かれる。雲の上のお方だと思っていた殿下だが、何だか急に身近な存在のように思えた。いつの間にか一人称も『僕』に変わっていて、余計そう感じさせる。
「失礼。モニク嬢の方が、よほどお辛いですよね。大切な方を、二人も亡くされたのですから」
ロケットを元通りにしまいながら、殿下が仰る。いえ、と私は短く答えた。バール男爵とは、会うことも無いまま縁談が進み、ついに言葉を交わさずじまいだった。婚約披露パーティーでは、さすがに会話くらいしたのだろうが、あいにく記憶は飛んでいる。正直、悲しいという実感は湧かなかった。
「お気遣い、ありがとうございます。でも、私なら大丈夫ですわ」
「支えてくれる男性が、いらっしゃるからですか」
「え……」
アルベール様のことを、仰っているのか。ドニ殿下は、チラと私の顔をのぞき込まれた。これまたお母様に似たらしき、まばゆい金髪が、太陽の光を浴びて輝く。
「僕は、少々出遅れたようですね」
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