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第三章 窮地とプリンスの援護

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「……それは、それは。我々兄弟のようですな」
「全くです」

 マルク殿下とドニ殿下は、無難に調子を合わせてくださった。確かにお二人は、仲がおよろしい。マルク殿下は二十六歳、ドニ殿下は二十四歳と、年齢は二歳しか違わない。おまけに、それぞれ正妃様と側妃様の息子、となれば競争意識があっても良さそうなものだ。だがお二人は、何をするにもご一緒だ。まつりごとも、協力しながらなさっているご様子である。

「それにしても、恐ろしいことだ。平和が取り柄のこのモルフォア王国で、このような事件が起きるとは」

 マルク殿下は、深刻に仰った。

「恐らくは、窃盗犯が犯行を見つかり、凶行に及んだ、というところだろう。今一度、治安維持に努めねば。早速、情報収集しよう。この付近で窃盗の被害が無かったか、調査するのだ」

 げげっと、私は思った。仰ることはもっともだが、調査されるのはまずい。窃盗犯など見つからなかったら、どうするのだ。仮に見つかったとしても、その人物に殺人の濡れ衣を着せることになる。

 とはいえ調査してくれるなとも言えず、言葉に困っていると、ドニ殿下がこう言い出された。

「兄上、窃盗犯の犯行と断定するのは、まだ時期尚早では? モニク嬢の前で申し上げるのも何だが、殺された男爵と夫人は、かなり他人の恨みを買っていた様子。そちらの線も、捨てない方がよろしいかと」

 それも微妙だな、と私は思った。アルベール様がアリバイを証言してくださったおかげで、今の所私は疑われずに済んでいるが、動機面で一番疑われやすいのは、やはり私だからだ。

「と、言いますのも……」
 
 ドニ殿下は、チラと私をご覧になった。

「もし、バール男爵に強い恨みを持った人物の犯行だった場合、彼本人を殺しただけで満足するかどうか、わかりません。私は、心配なのです。彼の婚約者だったモニク嬢にも、魔の手が及んだりはしないかと……」

 ドキリとした。

(殿下、私をご心配なさって……?)

 ああ複雑だわ、と私は懊悩した。殿下のお気持ちは嬉しいけれど、あれこれ調べられて、私たちの偽装工作が露見したら……。

「おお、これは失礼。怖がらせてしまいましたね」

 私の浮かない表情を見て、ドニ殿下は誤解されたようだった。

「そろそろ、失礼いたしましょう……。ああ、そうだ。モニク嬢、帰り際に、以前仰っていたトピアリー(木を刈り込んで作る立体的造形物)を見せていただけませんか? 亡きお母上の、思い出が詰まっているのですよね?」
「え……、ええ!」

 頷きながらも、私は驚いていた。お母様のご趣味で中庭に造られたトピアリーは、モーリスの指示の下、今でも庭師が大切に手入れしているものだ。ずっと前にチラとお話ししただけのことを、殿下が覚えてくださっていたことに、私は何だか胸が熱くなった。
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