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第一章 空白の一日

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「俺たちが見つかる方が早いかな? 死体のあった部屋は、人が寄りつかなさそうだ……。うん、こちらに賭けよう」
「ちょっと、アルベール様! いい加減に……」

 さすがに非難しようとした私だったが、不意にアルベール様が、しっと指を唇に当てた。遙か遠くの方で、何やら女性たちの声がする。私は、彼を振りほどくと、耳を澄ませた。

「モニク様ぁ」
「どちらにいらっしゃるんです?」

 アルベール様は、私を見て微笑んだ。

「賭けは、俺の勝ちのようですね」

 私を呼ぶ声は、次第に近付いてくる。我が家の侍女たちだ。その中の一人は、アンバーといって、幼い頃からずっと私に仕えてくれている。

(心配してくれたのかしら?)

 捜しに来てくれたことに、ややほっとした私だったが、続いて聞こえてきた言葉に凍り付いた。

「ああ、世話が焼けるなあ。ローズ様ばっかり注目されるから、いじけて隠れちゃったんじゃない、あの人」

 嘲るようにそう言ったのは、確かにアンバーだった。

「大体、モニク様って、見ててイライラするのよね。卑屈で、いつもおどおどしていて。ま、わからなくもないけど。ローズ様と姉妹とは思えないくらい、冴えないもん。何を着ても似合わないし、髪だってパッサパサ。こっちも、お手入れし甲斐が無いっての」

 私は、自分の耳が信じられなかった。ずっと一生懸命に仕えてくれていたアンバーが、内心そんなことを思っていたなんて。お嬢様、お嬢様、といつも慕ってくれる様子だったのに……。

「みじめよね。本来なら、婚約披露パーティーなんて、女が一番注目を浴びる日だってのに。その役を、妹にさらわれちゃってさあ」

 げらげら、とアンバーが声を立てて笑う。さすがに他の侍女たちがたしなめる気配がしたが、それでもアンバーは言い返した。

「いいわよ、聞こえたって構わないって。どうせもう、モニク様とはお別れだもの……」

 足音は、もうすぐそこまで迫ってきている。私は、体が強張るのを感じた。どんな顔をして、アンバーと対面したらいいのかわからなかったのだ。

 その時だった。それまで黙っていたアルベール様が、不意に私の腕をつかんだ。ベッドに押し倒し、覆いかぶさってくる。

「何――!」

 答えないまま、彼は私に口づけた。
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