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第十一章 祝福の日
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「誰が、どんな密命を下したというんだ」
レオ様が、眉をひそめられる。するとマテウスは、意外な名前を口にした。
「テレーゼ様です。……その、早くお二人がくっつくよう協力してくれ、と」
私とレオ様は、思わず顔を見合わせた。
「テレーゼ様はシャルロッテ様のことを、大変気に入られたんですよ。あんないいお嬢さんは二人といない、何としても逃がすな、と息巻いておられて。もう、挙式までがどうだとウダウダ言ってないで、さっさと既成事実を作らんか、と……」
「ウダウダ?」
「俺が言ったんじゃないですよ! テレーゼ様のお言葉です」
マテウスは、慌てたように手を振る。
「というわけで、その手助けをするよう命じられたんですが……。レオ様はなかなか融通が利かないというか、頑固でいらっしゃいますから。それでシャルロッテ様の方も、つついてみたりしたんですけど」
ちょいちょい忠告してくれた背景には、そんなことがあったのか。マテウスは、気まり悪そうな顔をした。
「アグネスにも協力を仰いで、まあそれで親しくなれた面もあるんですけど……。でも結果的に俺たち、大したことをしていない気がして。報酬を頂くには及ばないと、ずいぶん遠慮したのですが……」
「ま、いいんじゃないか? お前とアグネスが、僕たちのために尽力してくれたことに変わりは無い。僕がプレゼントするか母がするかで、出所が違っただけだ」
レオ様は、慰めるようにそう仰ったが、二人はまだ恐縮した様子だった。マテウスが、ぶつぶつ呟く。
「正直俺は、外野がごちゃごちゃ口出ししなくても、このお二人はなるようになるって思ってたんですけどねえ。実際、そうなりましたでしょ。ハイゼルから脱走して来られたお方のおかげで、レオ様、やっとやる気を出してくれましたし……」
「ちょっと、その話は……」
アグネスが止めようとしたが、遅かった。レオ様のこめかみが引きつる。
「マテウス、お前、この記念すべき日に彼の名前を出すか?」
「あっ、いや、これは失礼……」
焦ったように口をつぐむマテウスを見て、私たち三人は噴き出した。私は、マテウスとアグネスの目を見て告げた。
「マテウス、アグネス。本当におめでとう。まだまだ未熟な私たちだけれど、貴女たち二人がいてくれるから、心強いわ。これからも、ずっと傍にいてちょうだいね」
「もちろんです」
二人は、同時に力強く頷いたのだった。
レオ様が、眉をひそめられる。するとマテウスは、意外な名前を口にした。
「テレーゼ様です。……その、早くお二人がくっつくよう協力してくれ、と」
私とレオ様は、思わず顔を見合わせた。
「テレーゼ様はシャルロッテ様のことを、大変気に入られたんですよ。あんないいお嬢さんは二人といない、何としても逃がすな、と息巻いておられて。もう、挙式までがどうだとウダウダ言ってないで、さっさと既成事実を作らんか、と……」
「ウダウダ?」
「俺が言ったんじゃないですよ! テレーゼ様のお言葉です」
マテウスは、慌てたように手を振る。
「というわけで、その手助けをするよう命じられたんですが……。レオ様はなかなか融通が利かないというか、頑固でいらっしゃいますから。それでシャルロッテ様の方も、つついてみたりしたんですけど」
ちょいちょい忠告してくれた背景には、そんなことがあったのか。マテウスは、気まり悪そうな顔をした。
「アグネスにも協力を仰いで、まあそれで親しくなれた面もあるんですけど……。でも結果的に俺たち、大したことをしていない気がして。報酬を頂くには及ばないと、ずいぶん遠慮したのですが……」
「ま、いいんじゃないか? お前とアグネスが、僕たちのために尽力してくれたことに変わりは無い。僕がプレゼントするか母がするかで、出所が違っただけだ」
レオ様は、慰めるようにそう仰ったが、二人はまだ恐縮した様子だった。マテウスが、ぶつぶつ呟く。
「正直俺は、外野がごちゃごちゃ口出ししなくても、このお二人はなるようになるって思ってたんですけどねえ。実際、そうなりましたでしょ。ハイゼルから脱走して来られたお方のおかげで、レオ様、やっとやる気を出してくれましたし……」
「ちょっと、その話は……」
アグネスが止めようとしたが、遅かった。レオ様のこめかみが引きつる。
「マテウス、お前、この記念すべき日に彼の名前を出すか?」
「あっ、いや、これは失礼……」
焦ったように口をつぐむマテウスを見て、私たち三人は噴き出した。私は、マテウスとアグネスの目を見て告げた。
「マテウス、アグネス。本当におめでとう。まだまだ未熟な私たちだけれど、貴女たち二人がいてくれるから、心強いわ。これからも、ずっと傍にいてちょうだいね」
「もちろんです」
二人は、同時に力強く頷いたのだった。
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