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第六章 忍び寄る不穏

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 前回、私が領主夫人と知った後も、花売りの不遜な態度は変わらなかった。むしろ、当てつけがましく他の領民には販売して見せるなど、挑戦的だったくらいだ。その彼女がこんな風に媚びるなんて、よほどのことがあったのだろうと思ったのだ。もしかしたら、市場の変化とも関係があるかもしれなかった。

「……実は」

 花売りは、肩を落とした。

「ここのところ、花の売り上げが急激に減ったのです。それまでは、お茶会やパーティー、お見舞いなどで買って行かれる方が、多くいらっしゃいましたのに。お茶会などは中止が増えましたし、見舞いに買い求められる方も、パタッといなくなりました。これは、私の店だけではありません」

 妙だな、と私は思った。お茶会はともかく、見舞い用の売り上げが減ったというのは変だ。病人を治せる聖女なんて、ここエクスクルブルクにはいないはずなのだから。

「同じ理由で、茶菓子の売り上げも減っているようですよ。……彼女のご主人は」

 花売りは、先ほどのもう一人の花売りを指さした。

「菓子職人ですが、失業寸前です。ですから彼女、必死なのですよ」
「原因は? 見当がつく?」

 いいえ、と彼女はかぶりを振った。

「ですから困っているのでして……」

 不可解すぎて、私は思わずため息をついた。それを誤解したのか、花売りが慌てて頭を下げる。

「先日は、本当に失礼をいたしました! どうぞ、お許しを……」
「別に、怒ってはいないわよ」
「本当でございますか?」

 花売りが、パッと頭を上げる。ええ、と私は頷いた。

「でも、これで身にしみたでしょう? 商売って、大変よね。いつ何時、お客が減るか分からない。そういう場合に備えて、お客をえり好みすべきでは無いわ。これは、あなた方のためを思って言っているのよ?」
「はい! 承知しました」

 花売りは、再び頭を下げると、「少々お待ちを」と自分の売り場へ走って行った。しばらくして戻って来た彼女は、花束を抱えていた。イーリスだ。

「先日の、お詫びでございます。どうぞお持ちになってくださいませ」

 ありがとう、と私は受け取った。花束まみれになったなあ、と思いながら。
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