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二十一話
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さすがはホテルマンの木田だ。
ここだと言われて入った店は、老舗っぽい本格的なバーだった。
その重厚な佇まいに、今日は一応ジャケットを着ていたことに安堵する。
間接照明の薄暗い店内には、カウンターとアルコーブのように奥まったテーブル席がいくつかある。
商談や人に聞かれたくない話ができそうな、大人の隠れ家といった雰囲気だ。
木田はバーテンダーとも馴染みのようで、さっさと奥のテーブル席に向かう。
そこには予約席のプレートが置いてあり、どうやら木田が気を利かせてくれたらしい。
先に木田が陣取った席の向かいに、俺と新堂は並んで座った。
「緒方は、酒は昔からあんまり飲まないよな。
ノンアルコールのカクテルにするか?」
「少しぐらいなら飲めるよ。
せっかくいい店に連れてきてもらったし、軽いのを試してみたい」
「そっか、じゃあ……」
木田と相談して、ベースの酒を少なめにギムレットを頼んだ。
木田と新堂はそれぞれ、ドライマティーニとジントニック。
カウンターでバーテンダーがシェイカーを振る様子を興味深く眺めていたら、すぐにカクテルが運ばれてきた。
「しかし新堂は、なんであんな破格の縁談を断るかなー」
「ご縁がない以上、お断りするしかないよ」
「医療法人の理事長パパが相手か。大丈夫なのか」
「こっちの弁護士は勝算ありって言ってるけどな」
「裁判? 勝てんの?」
「さぁ、実際にやってみないと。でも、いろいろと手は尽くしてる」
気の置けない友達同士のやりとり。お互いに遠慮がない。
この二人が、中学、高校も同級生だったことを思い出した。
新堂のことは、大概、木田からみんなに漏れたが、新堂はそれを許している節があった。
ちょっと軽いところもあるが、この男が面倒見のいい信頼できるやつだということは、俺もよく知っている。
「会社の方は? 辞表はまだ保留なのか」
「いや、あれは決着した。辞表は受け付けない。来週から出社しろって」
「おお、良かったじゃん!」
「ご心配をお掛けしました」
新堂は、テーブルに両手を突き、わざと深々頭を下げる。
「緒方も、ごめんな心配掛けて。今日、人事部長から電話があった」
「今日? そうなんだ……」
体の力が全部抜けるぐらいほっとした。
役員のゴリ押しで見合いさせられて、破談になったら辞表なんて、パワハラもいいところだ。
やっぱり会社の人事として、こんな横暴は見過ごせなかったということか。
「だけど、わざわざ人事部長から電話? 直属の上司じゃなくて?
もしかして、今回の破談の件、社内で結構大きい問題になってたりすんの?」
「木田、意外に鋭いな。まぁ、そういうことらしい。上の方でいろいろ揉めてる」
「意外は余計だ。ふーん、だけどそれって、新堂にとっては追い風なのか?
おまえは何か責任問われたりしないの?」
「俺は何も。悪いことしてないからな」
「へぇー。まぁ安心したわ。あの超優良企業をクビなんてもったいない。
新堂の場合、クビになっても叔父さんの会社を継げばいいんだろうけどさ」
他社の内部事情をこれ以上詮索できないと思ったようで、木田はもう突っ込まなかった。
木田にはいろんなことを話していたようだが、さすがに叔父さんの会社の救済については話せなかったようだ。
どうやら、常務の旗色が悪くなっている。
顔も知らない相手ではあるものの、あんなやつ、バチが当たって当然だ、と少しだけ溜飲が下がる。
少しずつだが状況は、新堂にいいように動き出しているように感じた。
もう一杯飲むかということで、木田と新堂は同じものを頼んだ。
俺はまだ、一杯目のギムレットをちびちびやっている。
「で? 新堂は、なんで緒方のとこにいんのよ」
これが本題だと言いたげに、木田の好奇心いっぱいの目が新堂と俺を交互に見る。
「そりゃ、俺が緒方を好きだから」
「おー、言うねぇ。それってカミングアウトか」
「そう。カミングアウト。そういうことだ」
新堂はきっぱり肯定する。
木田は半分冗談のような口ぶりだったが、即答した新堂の声は落ち着いていた。
俺はもう顔を上げられなかった。
何でそんなことを言うんだと、一瞬、隣にいる新堂がとても恨めしかった。
たぶん俺のために言ってくれてるんだと思う。
俺はゲイで、でも新堂は違うのだ。
俺のせいで新堂まで、友達に変に思われる。
それだけは、何としても避けたかった。
「違うよ。新堂はそんなんじゃ……」
すぐさま顔を上げ、今のカミングアウトを否定しようとした。
俺が新堂を好きなんだ。
俺はゲイで、新堂はただ俺に同情してくれただけ、こう言おうとした。
「俺、何となく知ってたわ。大学ん時」
「え?」
木田がぼそっと呟いて、俺は言葉を続けられなかった。
「緒方がってんじゃなくて、どっちかっつうと新堂の方。
なんとなく、そうじゃないかなーと思った記憶がある」
驚きで固まった俺たちに、木田は軽く咳払いをし、徐に語り始めた。
「おまえらってたぶん、学生の時から付き合ってただろ。
確かな証拠を握ってたワケじゃないから、卒業してから今の今まですっかり忘れてた。
よくもまぁ、隠し通してくれたもんだぜ」
はははと木田が笑いを漏らす。
「最初は緒方だった。
おまえの下宿って大学から一番近かったから、一年の時はちょっとたまり場みたいになってただろ?
それが二年になった頃、夜は忙しいって言い出した。
在宅でやってるシステムのバイトだって言ってたけど、あー、こりゃ彼女ができたんだと思った。
で、次は新堂」
「は? 俺?」
「そう、おまえ。新堂が特に変だった」
木田はホレホレとグラスを持つ手を揺らして、新堂、おまえだと繰り返した。
ちらっと隣に座る新堂を見たら、大きく目を見開いて正に『ハトが豆鉄砲をくらった』顔をしている。
「授業が終わってから、おまえが駅向こうに歩いていくのを何回か見かけた。
あっちの方は住宅街だし、緒方の下宿ぐらいしか心当たりがない。
あれ? 仲良かったっけ? と疑問に思って、それから何となく、おまえらを観察してた」
「観察!?」
「おまえはいつも、俺にとっては観察対象なんだよ!」
木田に続いて、新堂もふっと口の端を上げる。
俺は動揺してカチコチに固まっていた。
「新堂は、よくぽやっとした顔で緒方を見てた。
緒方が背中向けてたり、誰かとしゃべってたりする時とか。
でも、直接話しかけたりはしなくて、むしろ、みんなの前では無視してるように見えた。
いつも、誰にでも、同じように愛想のいいヤツなのに。
それがもの凄く変で、意識してるっていうか。
実は二人で、夜に会ってるんじゃないのかって。
まぁ俺の勘なんて当たった試しがないんだが」
木田が探るように上目遣いに新堂を見る。
新堂は面食らった様子で黙り込んだ後、ははっと軽く声を出して笑った。
「ビンゴ。はぁ、驚いたな。
木田、おまえのこと凄いって初めて思ったよ」
「ほんと? やったね……って、初めてってのは酷いな!」
木田と新堂は、二人だけですっかりリラックスしている。
「何だよ、言ってくれたら良かったのに。水くせぇな」
「悪かった」
「まー、言えないだろうなってのは分かるよ。
俺だって、まさかと思いつつ、とてもじゃないけど聞けなかったもんな。
いろいろあったんだろ? 今回も、破談なんて話になってるし」
もう一杯飲むかと、木田は三杯目をオーダーをした。
新堂も二杯目を注文する。
「緒方はどうする? お祝いっぽくシャンパンにするか?」
「お祝い……?」
「お祝いだろ。やっと一緒に住めるようになったってことじゃないの?」
木田のオーダーでバーテンダーが俺に用意してくれたのは、セレブレーションというシャンパンをベースにしたカクテルだった。
甘酸っぱいキイチゴのリキュールが入っている。
「とりあえず、前祝いってことで」
木田がずいっと俺の手元にグラスを進める。
パチパチ弾ける炭酸の泡は、確かにお祝いの席に似つかわしい。
傍らの新堂を見ると、優しい目で俺を見ていた。
前祝いって、何のお祝いなんだろう。
この先に今以上の何があるのか。
「前祝いとして、俺から緒方へのおごり!」
「緒方だけ? 俺は何をもらえんの?」
「新堂はダメ。大事なこと黙ってたから、おまえは罰金!」
緒方だけずるいと、新堂と木田がやり合っている。
俺のねじけた心のわだかまりを、木田がほぐしてくれていた。
またすぐに硬くねじけてしまうかもしれない。
でも、こんなにすんなり受け入れてもらえたことに、驚きと安堵が広がっていく。
「緒方には、悪いことしたな。ごめん」
急に木田が神妙な顔で謝ってきた。
何のことかと思ったら、新堂の結婚話を俺に電話で面白おかしく話して聞かせたことだった。
「まさか、こんなことになってるなんて思わないだろ。
あの電話は不愉快だったよな」
「ううん、大丈夫だよ」
首を左右に振って、笑顔を作る。
あの時は辛かった。でも今となっては、もの凄く昔のことを言われたような気がした。
「緒方、俺の上司は四十がらみの男性だけど、カレシと一緒に住んでる。
それを職場で公表してる。そのことで、誰も何にも気にしていない。
外国人の従業員の中にも、結構な数でゲイがいる。
世の中のイケメンは全員ゲイだって、こないだ女子社員が嘆いてた」
職場によるだろうが、世の中どんどん変わっていると木田は言う。
「新堂は、今回の破談で覚悟したんだよな。
緒方もそろそろ、本気で腹くくったらいいと思うぜ」
木田はマティーニをぐいっと飲み干した。
後は二人でゆっくり飲んでいけと言い残し、勘定をすませて帰って行った。
俺は新堂と二人、バーのテーブル席に取り残される。
新堂はテーブルで見えないのをいいことに、俺の手を上から包むように握ってきた。
ここだと言われて入った店は、老舗っぽい本格的なバーだった。
その重厚な佇まいに、今日は一応ジャケットを着ていたことに安堵する。
間接照明の薄暗い店内には、カウンターとアルコーブのように奥まったテーブル席がいくつかある。
商談や人に聞かれたくない話ができそうな、大人の隠れ家といった雰囲気だ。
木田はバーテンダーとも馴染みのようで、さっさと奥のテーブル席に向かう。
そこには予約席のプレートが置いてあり、どうやら木田が気を利かせてくれたらしい。
先に木田が陣取った席の向かいに、俺と新堂は並んで座った。
「緒方は、酒は昔からあんまり飲まないよな。
ノンアルコールのカクテルにするか?」
「少しぐらいなら飲めるよ。
せっかくいい店に連れてきてもらったし、軽いのを試してみたい」
「そっか、じゃあ……」
木田と相談して、ベースの酒を少なめにギムレットを頼んだ。
木田と新堂はそれぞれ、ドライマティーニとジントニック。
カウンターでバーテンダーがシェイカーを振る様子を興味深く眺めていたら、すぐにカクテルが運ばれてきた。
「しかし新堂は、なんであんな破格の縁談を断るかなー」
「ご縁がない以上、お断りするしかないよ」
「医療法人の理事長パパが相手か。大丈夫なのか」
「こっちの弁護士は勝算ありって言ってるけどな」
「裁判? 勝てんの?」
「さぁ、実際にやってみないと。でも、いろいろと手は尽くしてる」
気の置けない友達同士のやりとり。お互いに遠慮がない。
この二人が、中学、高校も同級生だったことを思い出した。
新堂のことは、大概、木田からみんなに漏れたが、新堂はそれを許している節があった。
ちょっと軽いところもあるが、この男が面倒見のいい信頼できるやつだということは、俺もよく知っている。
「会社の方は? 辞表はまだ保留なのか」
「いや、あれは決着した。辞表は受け付けない。来週から出社しろって」
「おお、良かったじゃん!」
「ご心配をお掛けしました」
新堂は、テーブルに両手を突き、わざと深々頭を下げる。
「緒方も、ごめんな心配掛けて。今日、人事部長から電話があった」
「今日? そうなんだ……」
体の力が全部抜けるぐらいほっとした。
役員のゴリ押しで見合いさせられて、破談になったら辞表なんて、パワハラもいいところだ。
やっぱり会社の人事として、こんな横暴は見過ごせなかったということか。
「だけど、わざわざ人事部長から電話? 直属の上司じゃなくて?
もしかして、今回の破談の件、社内で結構大きい問題になってたりすんの?」
「木田、意外に鋭いな。まぁ、そういうことらしい。上の方でいろいろ揉めてる」
「意外は余計だ。ふーん、だけどそれって、新堂にとっては追い風なのか?
おまえは何か責任問われたりしないの?」
「俺は何も。悪いことしてないからな」
「へぇー。まぁ安心したわ。あの超優良企業をクビなんてもったいない。
新堂の場合、クビになっても叔父さんの会社を継げばいいんだろうけどさ」
他社の内部事情をこれ以上詮索できないと思ったようで、木田はもう突っ込まなかった。
木田にはいろんなことを話していたようだが、さすがに叔父さんの会社の救済については話せなかったようだ。
どうやら、常務の旗色が悪くなっている。
顔も知らない相手ではあるものの、あんなやつ、バチが当たって当然だ、と少しだけ溜飲が下がる。
少しずつだが状況は、新堂にいいように動き出しているように感じた。
もう一杯飲むかということで、木田と新堂は同じものを頼んだ。
俺はまだ、一杯目のギムレットをちびちびやっている。
「で? 新堂は、なんで緒方のとこにいんのよ」
これが本題だと言いたげに、木田の好奇心いっぱいの目が新堂と俺を交互に見る。
「そりゃ、俺が緒方を好きだから」
「おー、言うねぇ。それってカミングアウトか」
「そう。カミングアウト。そういうことだ」
新堂はきっぱり肯定する。
木田は半分冗談のような口ぶりだったが、即答した新堂の声は落ち着いていた。
俺はもう顔を上げられなかった。
何でそんなことを言うんだと、一瞬、隣にいる新堂がとても恨めしかった。
たぶん俺のために言ってくれてるんだと思う。
俺はゲイで、でも新堂は違うのだ。
俺のせいで新堂まで、友達に変に思われる。
それだけは、何としても避けたかった。
「違うよ。新堂はそんなんじゃ……」
すぐさま顔を上げ、今のカミングアウトを否定しようとした。
俺が新堂を好きなんだ。
俺はゲイで、新堂はただ俺に同情してくれただけ、こう言おうとした。
「俺、何となく知ってたわ。大学ん時」
「え?」
木田がぼそっと呟いて、俺は言葉を続けられなかった。
「緒方がってんじゃなくて、どっちかっつうと新堂の方。
なんとなく、そうじゃないかなーと思った記憶がある」
驚きで固まった俺たちに、木田は軽く咳払いをし、徐に語り始めた。
「おまえらってたぶん、学生の時から付き合ってただろ。
確かな証拠を握ってたワケじゃないから、卒業してから今の今まですっかり忘れてた。
よくもまぁ、隠し通してくれたもんだぜ」
はははと木田が笑いを漏らす。
「最初は緒方だった。
おまえの下宿って大学から一番近かったから、一年の時はちょっとたまり場みたいになってただろ?
それが二年になった頃、夜は忙しいって言い出した。
在宅でやってるシステムのバイトだって言ってたけど、あー、こりゃ彼女ができたんだと思った。
で、次は新堂」
「は? 俺?」
「そう、おまえ。新堂が特に変だった」
木田はホレホレとグラスを持つ手を揺らして、新堂、おまえだと繰り返した。
ちらっと隣に座る新堂を見たら、大きく目を見開いて正に『ハトが豆鉄砲をくらった』顔をしている。
「授業が終わってから、おまえが駅向こうに歩いていくのを何回か見かけた。
あっちの方は住宅街だし、緒方の下宿ぐらいしか心当たりがない。
あれ? 仲良かったっけ? と疑問に思って、それから何となく、おまえらを観察してた」
「観察!?」
「おまえはいつも、俺にとっては観察対象なんだよ!」
木田に続いて、新堂もふっと口の端を上げる。
俺は動揺してカチコチに固まっていた。
「新堂は、よくぽやっとした顔で緒方を見てた。
緒方が背中向けてたり、誰かとしゃべってたりする時とか。
でも、直接話しかけたりはしなくて、むしろ、みんなの前では無視してるように見えた。
いつも、誰にでも、同じように愛想のいいヤツなのに。
それがもの凄く変で、意識してるっていうか。
実は二人で、夜に会ってるんじゃないのかって。
まぁ俺の勘なんて当たった試しがないんだが」
木田が探るように上目遣いに新堂を見る。
新堂は面食らった様子で黙り込んだ後、ははっと軽く声を出して笑った。
「ビンゴ。はぁ、驚いたな。
木田、おまえのこと凄いって初めて思ったよ」
「ほんと? やったね……って、初めてってのは酷いな!」
木田と新堂は、二人だけですっかりリラックスしている。
「何だよ、言ってくれたら良かったのに。水くせぇな」
「悪かった」
「まー、言えないだろうなってのは分かるよ。
俺だって、まさかと思いつつ、とてもじゃないけど聞けなかったもんな。
いろいろあったんだろ? 今回も、破談なんて話になってるし」
もう一杯飲むかと、木田は三杯目をオーダーをした。
新堂も二杯目を注文する。
「緒方はどうする? お祝いっぽくシャンパンにするか?」
「お祝い……?」
「お祝いだろ。やっと一緒に住めるようになったってことじゃないの?」
木田のオーダーでバーテンダーが俺に用意してくれたのは、セレブレーションというシャンパンをベースにしたカクテルだった。
甘酸っぱいキイチゴのリキュールが入っている。
「とりあえず、前祝いってことで」
木田がずいっと俺の手元にグラスを進める。
パチパチ弾ける炭酸の泡は、確かにお祝いの席に似つかわしい。
傍らの新堂を見ると、優しい目で俺を見ていた。
前祝いって、何のお祝いなんだろう。
この先に今以上の何があるのか。
「前祝いとして、俺から緒方へのおごり!」
「緒方だけ? 俺は何をもらえんの?」
「新堂はダメ。大事なこと黙ってたから、おまえは罰金!」
緒方だけずるいと、新堂と木田がやり合っている。
俺のねじけた心のわだかまりを、木田がほぐしてくれていた。
またすぐに硬くねじけてしまうかもしれない。
でも、こんなにすんなり受け入れてもらえたことに、驚きと安堵が広がっていく。
「緒方には、悪いことしたな。ごめん」
急に木田が神妙な顔で謝ってきた。
何のことかと思ったら、新堂の結婚話を俺に電話で面白おかしく話して聞かせたことだった。
「まさか、こんなことになってるなんて思わないだろ。
あの電話は不愉快だったよな」
「ううん、大丈夫だよ」
首を左右に振って、笑顔を作る。
あの時は辛かった。でも今となっては、もの凄く昔のことを言われたような気がした。
「緒方、俺の上司は四十がらみの男性だけど、カレシと一緒に住んでる。
それを職場で公表してる。そのことで、誰も何にも気にしていない。
外国人の従業員の中にも、結構な数でゲイがいる。
世の中のイケメンは全員ゲイだって、こないだ女子社員が嘆いてた」
職場によるだろうが、世の中どんどん変わっていると木田は言う。
「新堂は、今回の破談で覚悟したんだよな。
緒方もそろそろ、本気で腹くくったらいいと思うぜ」
木田はマティーニをぐいっと飲み干した。
後は二人でゆっくり飲んでいけと言い残し、勘定をすませて帰って行った。
俺は新堂と二人、バーのテーブル席に取り残される。
新堂はテーブルで見えないのをいいことに、俺の手を上から包むように握ってきた。
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