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175話 過去5
しおりを挟む「オルクス!」
俺はオルクス元へと駆け寄る。
「あ、あぁ、モルフィス君、わ、私は大丈夫ですよ、お気遣いなく…………。」
「大丈夫なわけ無い! いいから横になってください!」
俺はオルクスをすぐ横にあるオルクスのベットに寝させる。
オルクスは咳をしたり、時折胸を苦しそうにさせたりしていた。
オルクスは俺と出会った頃からかなり年老いていた。
そしてそれから早10年が経とうとしている今、オルクスの身に何かが起きてもおかしくは無い。
オルクスは俺達のために身を粉にして働いていたし、体を壊してもおかしくは無いのだ。
いつかはそれが起こってしまうと誰もが思っていたが、誰もが意図的に考えないようにしていた。
その日は教会に住む全員が仕事などを休み、付きっきりで看病をした。
無いお金を絞り出し、医者も呼んで見てもらったが、今からではもう手遅れだということだった。
もっと日曜の現人神様のお膝元の街の最新の設備ならば可能性はあったと言うが、ここからそこまで連れていく時間もなければお金もない。
オルクスはこのまま死ぬしかないということだった。
オルクスの周りには教会の皆が集まり、皆心配そうにオルクスを診ていた。
今までオルクスにお世話になった人や、近隣のたまに食糧を分け与えていた人達がゾロゾロと集まってきていた。
その様子にオルクスが如何に人望のある人なのかが見て取れる。
俺はオルクスの手を握りながら、大丈夫、大丈夫と繰り返していた。
その手をオルクスは優しく握り返し、俺へと変わらぬあの優しい微笑みを見せてくれた。
「オルクス…………。」
「ははは、こんなに色んな人が見舞いに来てくれるなんて、嬉しい限りですよ。それに、モルフィス君、あなたがここまで優しい子に育ってくれた事、それにガイア君やレア君、セイラ君に他の子達も、立派に育ってくれて、私は良かったと思っていますよ。」
オルクスは笑うが、その度に少し咳き込んできる。
オルクスの言葉はまるで遺言の様で、本当にオルクスが死んでしまうんだという事を深く実感させた。
「オルクス…………俺達はあなたが居なきゃ…………!」
「大丈夫、あなた達なら強く生きていけますよ、だから、そんな顔をしないでください、ほら、最後は笑ってください!」
みんな、その声にハッとなる。
そんなこと出来るはずがない、オルクスが死んでしまうと考えるだけで涙が零れ落ちて来るんだ、笑うなんて事出来なかった。
それでも、俺達は必死に笑顔を作った。
オルクスをこんな悲しい雰囲気で送りたくなかったから。
そんな様子を見てオルクスは嬉しげに笑い、それ以降オルクスが喋ることは無かった。
そしてその日の夜、オルクスはみんなに囲まれながら穏やかに眠った。
全員が悲しみに暮れる中、みんなの顔には笑みが残っていた。
◇◇◇◇
オルクスが亡くなり数日がたった。
みんなまだ悲しみに暮れていたが、だからといって仕事を休む訳にも行かない。
俺達はまたいつも通りの日常に戻って行った。
ただし、オルクスを抜いてだ。
オルクスは薬などを作って俺達を養ってくれて居たため、それが無くなるのはかなりの痛手でもあった。
そのため、その仕事は1番オルクスに関わっていてそういう知識があった俺が引き継ぐことになった。
元々俺がやっていたことといえば家事とオルクスの手伝いだったので、やる事は変わらない。
それ以外にもオルクスは様々なことをやっており、その全てを俺が引き受けることにした。
つまり、俺がこの教会の長である教会長になったということだ。
日曜の現人神様への信仰が一番低い俺がその日曜の現人神様の教会の長になるなど皮肉なもんだ。
しかし、俺は仕事はしっかりとこなした。
俺が信仰していなくとも他の人には関係無いからだ。
祭事や色んなことをこなしていくうちに、オルクスがどうして体を壊してしまったのかが分かるような気がした。
オルクスはものすごいハードワークをしていたのだ。
教会長としての仕事だけでも十分ハードワークなのに、それに加えて畑仕事や薬を作る仕事までしていたのだ。
よく考えたら確かにオルクスは誰よりも早く起き、誰よりも遅く寝ていた。
自分がその体験をすると、後悔の念が込み上げてくる。
なぜ俺はオルクスがそんな事をしている事に気づけなかったのか。
俺がもっと早く気づいていればオルクスは死なずに済んでいたのではないか。
そんな考えは俺をさらなる労働に誘った。
俺は懺悔のためにもどんなに辛くとも働き続けた。
しかし、そのうちに周りの人達はどんどんと頭角を現しだす。
特に戦時中に拾った子であるソルは抜き出ていて、15歳という若さにしてウェポンマスターと言われるほどまでの強さを誇った。
セイラもどんどんと商人としての功績を上げていき、その先見の明に、未来視が出来ているのではとまことしやかに囁かれるほどだった。
他のみんなも様々な分野で頭角を現し出し、そのお陰で俺達の教会はどんどんと豊かになっていき、遂には周りの人々を助ける事が出来るほどまでになっていた。
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