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163話 終わってる

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 まただ。

 また俺の体が勝手に動いてしまった。

 今まではそれでも何とかなってきたが、今回ばかりは無理だ。

 俺が急に攻撃してきた事で相手は俺の事を完全に敵だとみなし、攻撃を始めた。

 そして何人かは仲間を呼びに行ったのか、何処かへ逃げていってしまった。

 …………まずいな、このままでは話を聞く所ではなくなってしまう。

 だが、誤解を解こうにも、これほどまでにやらかしてしまっては解けるものも解けない。

 はぁ、仕方がない。

 今回は何とかしてここを通り抜けて逃げよう。

 俺はそう思い、そこにいた人たちを突っ切ってそのまま走りさろうと試みる。

 しかし、俺の体の主導権を握っているのは俺ではなかった。

 その俺の中のナニカは何をしたいのか、そこにいる人達を全員殺し始めた。

 そこの人たちはある程度の戦闘経験はありそうではあったが、今の俺には手も足も出ない。

 俺の事を攻撃しようとしてもその武器は俺の一撃によって破壊され、そのままの勢いで武器ごと殺されたり、俺の念動力を使って動けなくされ、そこを殺されたりしていた。

 …………なんてことをしてるんだ。

 こんな事ダメに決まってるじゃないか。

 この人たちはゆうちゃんに危害を加えたわけでもなければ俺になにか不都合な事は何一つしていない善良な人達だ。

 そんな人達にこんな仕打ちはする必要は無いだろう。

 俺は必死で止めようとするが、依然として俺の意識は乗っ取られたままだ。

 俺の攻撃はそのまま続けられる。

 なんて言っているのかは分からないが、皆口々に何かを叫んだりしている。

 家族の名前なのか、それとも俺への恨み言なのか。

 分からないが、その憎悪が俺へと向けられていると思うだけでゾッとしてしまう。

 大切な人を殺されるというきつさは俺が身をもって体験している。

 だからこそ出来るだけ人は殺してはいけないはずなのに、それなのに俺の体はゆうことを聞かずに、更に殺す人達を探している。

 俺が国境を越えた時、何発もの銃声が鳴った。


「ぐぅっ!?」


 俺の体が撃ち抜かれる。

 俺の脳や色んな部分もそれによってどんどんと傷ついていく。

 しかし、それでもすぐに治せはする。

 だが、相手は違う。

 銃を撃ってしまった事によって俺に何処にいるのかバレてしまった。

 俺は撃たれた方向を見る。

 そこには複数人の人影が見えた。

 俺は逃げろ! 叫ぶが、彼らは俺への攻撃を止めない。

 言葉が通じていないからでは無いだろう。

 ただ、ここを守るというその一心で俺を迎え撃っているんだ。

 …………これじゃあ俺がモンスターじゃないか。

 俺の心がずきりと痛む。

 ホテル街のみんなのことを思い出す。

 あの人達はみんなのため、自分を犠牲にしてまでホテル街をまとろうとしていた。

 そして、その思いは冷たかった俺の心も溶かしたんだ。

 そして、それは今俺を迎え撃っている彼らだって同じなんだ。

 彼らにも守りたいものがある。

 それを守るために俺という脅威に立ち向かっている。

 俺はそんな彼らを理不尽に叩きのめす。

 銃を受けても怯まずに俺はその人達へと向かっていき、刀を振り下ろす。

 モンスターなどとは違い体は柔らかく抵抗もなく切れていく。

 この人たちはスキルなどによって体を強化している人では無いのだろう。

 それなのに自分の身を挺しているんだ。

 俺は自分で自分が許せなくなる。

 それでも俺の歩みは止まらない。

 遂にはここの人達の居住地にまで足を進めていた。

 だめだ、ここまで来てしまっては俺は非戦闘員までも殺してしまう。

 子供や高齢者の方などを殺すなどしてしまったら俺はもう人間として終わりだ。

 …………いや、もう人間としては終わってるんだ。

 だからこそ、元人間としても矜恃を見せなくてはいけない。 

 俺は俺の意識も消費する覚悟で体の主導権を奪い返す。

 俺の意識が深い闇に飲まれそうになる。

 憎しみや悲しみ、怒りに満ちたそのドス黒い闇に俺は幾度となく意識を持っていかれそうになるが、それでも耐え抜き、俺は飛び跳ねた。

 そして、それから念動力を使って俺の体を吹き飛ばす。

 そして彼らが生活している場所を超えて吹き飛んでいく。

 俺の体は空気抵抗などを受けて速度はどんどん低下していくし、魔力をめぐられる事も難しくなってくるので、念動力の出力も落ちる。

 何より俺の中のナニカに妨害されまくっているというのが1番だろう。

 それでも居住地のような場所を越すことは出来た。

 そこからは力を振り絞って中国側へと走る。

 体自体はまだまだ動くのだが、意識がどんどんとすり変わっていく。

 それでも後ろを振り返ってまた人々を殺しにいってしまわないように少しでもと走り続けた。

 そんな甲斐もあり、俺は体がまた乗っ取られるまでにかなりの距離を稼ぐ事に成功した。
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