上 下
155 / 214

157話 突入

しおりを挟む


 俺は箱を片手に進んでいく。

 その中では箱が永遠と開き続けて、それを僕が吸収してさらさらと粉状になり散っている。

 僕の体は僕の意志を効かない。

 まるで夢を見ているような気分だった。

 俺はもう片手に黒鉄を握り締め、人々が集まる建物へと向かう。

 勿論目的はゆうちゃんの救出の筈だ。

 しかし、俺の体は言う事を聞かずに、ゆうちゃんの救出よりも先に周りの人々の殲滅を優先しようとしている。

 俺は建物の近くに居た痩せ細った男を切った。

 男はその一撃だけで死んでしまったようで、そのまま地面に倒れ込む。

 俺はその様子を見て、物足りないと思ってしまった。

 こんなの俺の感情じゃない。

 俺はこんなこと思わないはずだ。

 だが、心にはその感情が深く残っていた。

 俺は自分の思考を深く留めることが出来なくなっていた。

 俺はそのまま進み続ける。

 周りには人が多くなってきて、俺という存在がどんどんと異質なものとなっていく。

 しかし、周りの人々はある建物に物を運ぶ事だけに執着しているようで、俺の事は気に止めない。

 好都合だ。

 俺はそう思い周りの人々を斬り伏せていく。

 俺はその返り血を浴びながらも、変わらずに歩みを進める。

 人間を切る感覚は何回やっても慣れないはずだった。

 俺と同じ人間を殺すという事は本能レベルで拒まれるはず事だ。

 しかし、今の俺は何も感じない。

 どころか、楽しいとまで感じてしまっている。

 絶対におかしい。

 俺はこれをやめなければいけない。

 そう分かっている筈なのに止められない。

 俺の体は止まらない。

 俺は体の主導権を取り戻そうと何度も何度も挑むが、全て俺の中のナニカに蹴散らされる。

 その度に俺という存在がそのナニカに染まっていく。

 俺は遂に建物の前まで辿り着いた。

 そのまま中に押し入り、様々な人でごった返ししている中で黒鉄を振り回す。

 肉や骨が出すあの独特な音が建物内で反響する。

 そうなって初めて敵は俺に気がついたようだ。


「敵襲! 敵襲!」


 中にいた少しはまともそうな人が鐘のようなものを鳴らしながらそう叫んでいる。

 俺は真っ先にその人へと攻撃をすべく魔力を刀に貯め、その人へと放った。

 その人は手に持っていた盾のようなもので俺の斬撃を防ごうとするが、その程度では俺の攻撃を防ぐ事は出来ない。

 男は為す術なく盾ごと胴体を真っ二つにされて死に絶えた。

 …………何やってるんだ俺は。

 今日初めて会ったまともな人間だ。

 殺すにしても拷問だりなんだりしてから情報を引き出して殺さなくてはいけない。

 俺の意識が少しづつ覚醒していく。

 このままこいつに乗っ取られたままではいつかゆうちゃんにまで害が及んでしまう。

 それだけは防がなくてはならない。

 俺は今まで以上に自分の意識を強く持とうとした。

 その度に俺の中のナニカが暴れ回る。

 しかし、そいつはもう俺の中に浸透しているようで、俺の意識が掻き消されていく。

 それでも俺はゆうちゃんの事だけを想って意識を強くしていく。

 その瞬間、俺の腹部に鈍い痛みが走る。

 俺のお腹から1本の刀が伸びていた。

 その刀は俺の体をお腹からそのまま切り裂いていく。

 俺はすぐさま刀を俺の体を切り切らせる事によって俺の体から排除し、その部位を治す。

 俺が後ろを振り返ると、そこには首のない人間が刀を持って立っていた。

 俺はすぐさまそいつから距離をとる。

 明らかに普通の人間じゃない。

 こいつは…………ゾンビ?

 何はともあれそいつと戦うために俺の意識はそっちにいってしまったため、意識を取り戻す事は出来なかった。

 俺は鬱憤を晴らすべくそのゾンビに斬り掛かる。

 ゾンビは攻撃を食らったとしても動きは辞めない。

 しかし、何度も斬ると、俺に害をなすことが出来るほどの動きは出来なくなった。

 そのゾンビを倒し終えると、俺の後ろから声が聞こえた。


「ふふふ、やっぱり君はその程度じゃやられませんね…………。」


 そこには、あのゾンビ男が居た。

 しかし、ゾンビ男はかなり離れたところに居り、拡声器を使って俺に話しかけていた。

 だからといってその程度で俺の攻撃が届かなくなる訳では無い。

 俺は再び黒鉄に魔力を込めてそれを飛ばした。

 ゾンビ男はひいぃという情けない声をあげたかと思うといきなり空へと飛び上がった。

 この力はまさか…………。

 俺はゾンビ男が飛んで行った先を見た。

 そこにはあのサイコキネシスを使う男が居た。


「やっほー、俺だよー。」


 その鼻につく金髪野郎は俺に向かって手を振っている。

 俺の中で憎悪が吹き上がる。

 そこ感情は俺という存在を磐石な物にしていった。

 あいつは俺からゆうちゃんを奪い取った張本人だ、絶対に許さない。


「殺す!」


 俺はそいつに向かって斬撃を何度も飛ばした。

 しかし、そいつはすいすいと空を舞って俺の斬撃を交わしていく。

 ゾンビ男は少し雑な扱いをされているようで、俺の斬撃を避ける度に情けない叫び声をあげていた。


「そんな攻撃じゃ俺には当たらないよー!」


 金髪男は俺に向かって手を振り下ろした。

 俺の体が重圧を受ける。


「さって、後は頼んだよ? りーとーくん?」


 金髪男はそう言うとゾンビ男を地面に下ろした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~

暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。  しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。 もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

処理中です...