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153話 過去へ

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 僕は気がついたら僕の部屋に居た。

 そして僕がいつも座っている席には1人の人物が座っていた。

 僕だ。

 僕が座っていた。

 僕はびっくりして後ろに飛び退く。

 僕に気づいた僕も同じような反応をしている。

 そうか…………分かった。

 僕の能力は過去に戻ることが出来る能力という事なのか…………。


「えっと…………君は僕なのかい?」


 過去の僕が僕に聞く。

 その目は赤く光っていた。

 僕が何者なのかを見ているのだろう。

 僕は警戒を解くために両手をあげる。


「うん、そうだよ。僕は未来から来たんだ。晴輝君を救うためにね。」

「晴輝君を?」


 過去の僕は明らかに混乱している。

 今は多分トレントのダンジョンが無力化された事を知り、そこの捜索を頼もうとしている所だろうか。

 トレントのダンジョンへ行き、ゆうちゃんは凪に殺されてしまう。

 それを止めるためにはトレントのダンジョンへと晴輝君達を向かわせなければ良い。

 僕はその事を過去の僕に伝えた。

 しかし、過去の僕は警戒して僕の話を聞いてくれない。


「凪君がねぇ、けど君が本当に未来の僕だって言う証拠は無いし、鵜呑みにする事は出来ないかな。」

「け、けど、そうじゃなかったらゆうちゃんが死んじゃって、晴輝君もおかしくなっちゃうんだ! だから…………。」

「分かってる、君の事はしっかりと見させてもらったけど、どうやら僕みたいだしね。とりあえず晴輝君達はトレントのダンジョンには行かせないことにするよ。それで晴輝君達は救われるんだよね? 元々あのダンジョンへ2人を送るのは迷ってたんだ。不安要素がかあるなら送らないよ。」

「あ、ありがとう! 流石僕だ、判断が早いね!」

「あはは、自画自賛なのか普通に褒められてるのか分かんない不思議な感覚だね。」


 過去の僕はそうやって言って笑った。

 それから僕はこれから起こることを簡単に説明した。

 過去の僕はそれを食い入るように聞いていた。

 僕が話す情報で何人もの命が救われるかもしれないからだろう。

 そうやっていると、段々と僕の存在が薄れていくような感覚に陥る。

 段々と僕がこの世界の存在では無くなっていくような感覚だ。


「どうやら僕はここまでみたいだ。」

「え!? もっと話しを聞きたかったのに…………。」

「しょうがないじゃないか、これ以上は出来ないんだ。じゃあ、頼んだよ、みんなを、晴輝君達を救ってあげて、未来を変えてね!」

「任せて!」


 過去の僕は快活にそう答えた。

 元気な僕の姿に僕も少し元気をもらった。

 そうして僕はこの世界から消えた。




 ◇◇◇◇



 僕は地面の硬さを味わいながら目を覚ました。

 正確にはこの世界に戻ってきたような感覚だ。

 僕は起きてすぐにホテル街に帰った。

 過去の僕が頑張ってくれていれば未来は変わっているはずだ。

 僕は勢いよく扉から扉へと飛び出し、急いでホテル街まで走った。

 ホテル街までは1時間ほどで着く。

 僕はそれまでの距離を全力で走った。

 僕は晴輝君が、みんなが幸せに暮らしている姿を想像しながらホテル街へと走った。

 ホテル街に着いた僕は周りを見回す。

 周りにはこの前の戦いで倒れた人達の血肉がまだ少し残っている。

 この戦いは避けられなかったのだろうか。

 僕は他の所も色々と探し回る。

 特に変わったところは無い。

 僕は晴輝君を探した。

 居ない。

 どこを探しても晴輝君は居なかった。

 僕は一抹の不安を覚えつつも、ホテル街の中にいる人々に話を聞いた。

 そして、その不安は的中してしまう。

 …………何も変わっていなかったのだ。

 ゆうちゃんの事を知っている人は居なかったが、話を聞くとやはりゆうちゃんは死んでしまっていて、晴輝君は今もうどこかへ行ってしまっているらしい。

 しかも、知っていれば完全に防げたはずの理人君の事件も防がれては居なかった。


「なん…………で。」


 まさか過去の僕は僕の事を少しも信じてくれなかったのか?

 いや、それにしても被害が大きすぎる。

 僕は色んなことを話したので、最初の方は信じていなくとも途中から僕の言っていることが当たっていることを知り、その情報を少しは信用するはずだ。

 だけど、そんな痕跡すらない。

 それに、未来の僕が来たという記憶は今の僕には無い。

 もしかしたら、過去の僕は未来の僕が来たことを忘れてしまうというというという可能性だってある。

 それならメモなどを残していけば情報は伝わるはずだ。

 何故何も変わっていないのかは分からない。

 それでも僕はまだ諦めない。

 まだ晴輝君を助ける事は出来るはずだ。

 もう1回あの後の所へ行こう。

 そして今度は床などに傷をつけたりして僕が来た証拠を残そう。

 そうすれば僕が過去に来たということは確定する。

 僕はもう一度過去を思い浮かべ、そこへと行った。
 
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