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145話 また
しおりを挟む僕は晴輝君に地図を渡した後、力無く椅子に座った。
僕には止められなかった。
晴輝君がこれからどれだけ辛い思いをしていくのか僕にはわかっていた。
それなのに僕は止めることが出来なかった。
また僕は失敗したんだ。
僕は僕の保身の為に晴輝君を助けることが出来なかった。
ゆうちゃんが死んでしまったのは半分僕のせいなんだ。
僕が事前調査もなしにただ晴輝君とゆうちゃんの食べ物が必要ないというスキルを見て安易な考えでダンジョンという不確定要素の多い場所に送り込んでしまった。
だからこそそのゆうちゃんを生き返らせるために行動している晴輝君を止めることが僕には出来なかったんだ。
自分が本当に情けないよ、もういっその事このまま贖罪のために死んでしまいたい。
僕は頬を思い切り叩く。
パチーンといういい音がなり、僕の頬が熱くなるのを感じる。
だめだ、こんな事を考えちゃ。
僕はこれからもここの人たちを導かなくてはいけない。
ここの人たちを助ける。
それが僕に出来る唯一の贖罪なのだと思う。
はっきりいって今から晴輝君を助ける事は難しい。
今ここで僕がやらなくてはいけない仕事は沢山ある。
残党の確認や、怪我人の捜索、被害確認などをして、それを直すために迅速な対応をしなくてはならない。
本当は僕だって晴輝君について行きたかった。
止められないにしても晴輝君をサポートするために着いて行きたかった。
しかし、この街で僕ほど正確に、そして迅速にこの作業ができる人は居ないんだ。
だから僕がやるしかない。
僕はいつも通り色んな生き物と視界を共有する。
こうすることによって街全体が見渡せる。
こうすることによって他の人には到底出来ないような芸当ができるようになるのだ。
そうしていると、僕は晴輝君を見つけた。
「あれっ!? な、なんで1人なの!?」
僕はそれで見た晴輝君が1人なことに驚愕する。
僕は晴輝君と陽夏ちゃんが一緒に行くものだと思っていた。
こういう事があったら陽夏ちゃんは絶対に着いていくはずだ。
まさか晴輝君と会わなかったのかな?
いや、陽夏ちゃんがこの建物の前に居たのはさっき見ていた。
だから陽夏ちゃんと会っていないなんて事有り得ないはずだ。
「ま、まさか晴輝君断ったの!?」
そうだとしたら辻褄が合う。
晴輝君は何らかの理由で陽夏ちゃんが着いてくるのを断ったという事なのだろう。
そして1人で突き進もうとしている。
僕は血の気が引いていく感覚を覚えた。
そんな事させてはいけない。
そんな事自殺行為だ
いくら晴輝君が強いとはいえ相手にも強者は居る。
もはや晴輝君ですら手も足も出ないほど強い人だって居るかもしれない。
しかも相手は大人数だ。
1人でそれらの人達と戦うなんて非常に厳しいだろう。
僕は街と晴輝君を天秤に掛けた。
当然その天秤は晴輝君に傾いた。
街を見ていた他の生き物などと視界の共有を消す。
そして晴輝君の周りの生き物などに視界を切り替えて晴輝君を追っていく。
晴輝君は非常に素早い動きで山道を走っていく。
驚いた事に晴輝君は普通の道は使わずに森の中を突っ切っていったりして大幅なショートカットをしている。
晴輝君の超人的なスピードと相まって今日中にはもう敵の本拠地である都市に着いてしまうだろう。
僕はこれ以上晴輝君を見るのは忍びなく、晴輝君を追っていた視界を切る。
あの速さではどうやったって追いつくことは出来ない。
僕が何か支援を仕様にもここまで距離が離れていては何かをするにも出力が落ちるし、酷い遅延も発生する。
つまり、僕はどうやっても晴輝君を助ける事は出来ない。
「…………嘘だよ。」
今まで僕は親しい人の死を何度も経験してきた。
家族や友達など何人もモンスターに殺されたりしている。
だからこそみんなを守るために力をつけ、戦闘ではそこまで役に立たなくとも、サポートという面でみんなが死なないように尽力してきた。
そのおかげで確かにこの街ではかなりの人を救えたと思う。
だけど、本当に救いたいものが救えないんじゃ意味が無い。
晴輝君はもう僕にとって特別な存在なんだ。
それは完全に僕だけの感覚では無いのかもしれない。
だけど、晴輝君は少なくとも他人とは思えないんだ。
僕は晴輝君を助けたいはずなのに、いつまで経ってもそんな力を得ることは出来ない。
どれだけ強くなっても晴輝君を助ける事は出来ていない。
僕の目から涙が零れそうになるが、僕はそれを我慢する。
僕は泣いちゃいけない。
今からでも何か出来るはずだ。
僕は紙とペンを取り出し、街の被害状況をざっくりと書き出す。
僕はそれを持って外に飛び出した。
「佐々木君!」
「おぉ、コナー、ちょうどいいところに来た、お前の指示を待ってたんだよ、早く指示を…………。」
「申し訳ない! ここからの指示は君が出してくれ! はい、これ被害状況まとめたヤツ! これ使って指示出して!」
「えっ、あっ、おい待て!」
佐々木君は僕を制止するが、僕はそれは聞かずにある場所へと走り出す。
それは僕がこの世で一番嫌いな場所だった。
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