138 / 214
139話 隣の座
しおりを挟む私は晴輝が去った後部屋に閉じ籠っていた。
晴輝が悪くないということは分かっている。
晴輝は私の事を思ってくれて私を連れて行かなかったというのは分かってる。
けど、なんだなかぁ。
私がもっと強ければ晴輝は私の事を連れてってくれたかもしれない。
私がもっと強くても晴輝は一人で行ってしまったかもしれない。
それでも、私は晴輝の信頼を勝ち取れなかった。
俺と一緒に死んでくれとは言ってくれなかった。
晴輝は最後の最後までゆうちゃんを取ったのだ。
死ぬ時は私とじゃなくてゆうちゃんと死ぬのだろう。
晴輝は絶対に死なないと思っていてもそれはもはや希望的観測でしかないのは事実だ。
あんな軍勢に晴輝一人で勝てるかと言われたら厳しいと思う。
私は晴輝に辛い思いはして欲しくないのに…………。
私は布団の中に潜り込む。
…………私はおかしくなっていたのかもしれない。
晴輝は物凄く強い魅了のスキルを持っていた。
私はそれに魅せられておかしくなってたのかもしれない。
私が晴輝の事が好きという気持ちは作り物だったのかもしれない。
そうだ、そうに決まってる。
じゃなきゃ私の今の気持ちには説明が付かない。
あの時、ダンジョンで記憶が私に芽生えた時に改めて私は晴輝の事が好きだと感じた。
けどそれは私の中の誰かの記憶が晴輝の中の誰かを好きなだけなんだ。
だからこそ私の気持ちは本物なんだと思い込んでただけなんだ。
私は晴輝の事が好きじゃなかった。
「…………そう思えたら楽なんだけどなぁ。」
私はそのままの格好で外に出る。
街のみんなはさっきの戦いで出た死体の処理に苦戦していた。
あそこを見ると私も手に残る嫌な感覚を思い出してしまい嫌な気持ちになる。
人を切るなんて…………。
いや、あいつらは人じゃなかった。
人を襲う人なんてモンスターと同じだ。
私はそう思って気持ちを落ち着かせる。
私は遠くにあるダンジョンへと向かった。
物資は私が元々貰っていた物を使う。
「…………強くならなくちゃ。」
晴輝は死んでしまうかもしれない。
生きて帰ってきてくれるかもしれない。
そんなのは分からない。
だけど、私はゆうちゃんに勝つんだ。
私は晴輝の趣味嗜好には合わないかもしれない。
だからこそ私は強さで晴輝の気を引かなくてはならない。
私にはそれしかないから。
晴輝は私がどんなにアピールしても何の反応もしなかった。
けど晴輝は私の事を必要だって言ってくれた。
だから、その恋人とかそういうのは諦めるとしても私は晴輝と一緒にいたい。
その為にも私は強くなって晴輝の矛として隣に居続けたい。
私はとあるダンジョンの前に立っていた。
鬼のダンジョン。
ここらで一番強いモンスターが出るダンジョンだ。
ここのモンスターは滅多に外には出現しない。
だからこそ放置されているのだが、中にいるモンスターの強さはトップレベルだ。
このダンジョンはほかのダンジョンとは違い探索するという概念がない。
言うなれば毎回があの女の人の部屋のようなボス戦なのだ。
私は1回だけこのダンジョンに挑んだ事がある。
その時の結果は惨敗だった。
あの鬼の小手調べの一撃で私は戦闘不能状態に追い込まれた。
私はその時生物としての格の違いのようなものを思い知った気持ちになった。
命からがら逃げ出すことは出来たが、もう一生入りたくはないと思っていた。
それ程までの恐怖。
ほかのダンジョンとは格が違う強さだ。
しかし、それに挑まなくては駄目だ。
確かにほかのダンジョンを先に攻略するという手も1つあると思う。
順番に戦っていけばいつかはあの鬼を倒せる程までに強くなれるだろう。
しかし、それでは遅すぎる。
あの鬼と戦うことによって私は確実に強くなれるというのは確定している。
以前とは比べ物にならないくらいに私は強くなった。
しかし、あの鬼にはまだ追いついていない様な気がする。
あの時の恐怖は私に深く刻みつけられているのだ。
まずはそれを取り払わない事には強くなれない。
私は腹を括った。
しかし、心のどこかではこう思ってしまう。
こんな時に晴輝が居てくれたらなと。
晴輝が居てくれれば私が何度も何度も挑戦したとしても何度でも治してくれて私は死なずに何度でも挑戦し続けられるだろう。
そうすれば私はより早く成長出来るのかもしれない。
けど、私はその考えを捨て去る。
晴輝に頼って得た強さなら晴輝はその強さをすぐに超えてしまうだろう。
はっきりいって晴輝は私よりも数段強い。
ただ攻撃系のスキルを所得していないだけで、これから実践を積み魔力を吸収して攻撃系のスキルを所得してしまえばたちまち私なんか抜き去ってしまうだろう。
そうなったら私に待っているのは晴輝に捨てられる運命だ。
私は常に晴輝の上を目指さなければいけない。
私は勇気を振り絞って鬼のダンジョンへと踏み込んでいく。
「…………怖いよ、晴輝。」
あぁ、あの時の晴輝もこんな気持ちだったんだ。
けど、そこに晴輝は居ない。
頼れる人は居ない。
「…………私、絶対晴輝よりも強くなってあなたの隣の座を勝ち取ってやるから、それまでは絶対に生きていなさいよ!」
私は晴輝に向かってそう言い放つ。
そうして私は進んだ。
0
お気に入りに追加
628
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~
暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。
しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。
もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ
柚木 潤
ファンタジー
実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。
そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。
舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。
そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。
500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。
それは舞と関係のある人物であった。
その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。
しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。
そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。
ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。
そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。
そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。
その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。
戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。
舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。
何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。
舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。
そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。
*第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編
第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。
第5章 闇の遺跡編に続きます。
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる